○東京美術倶楽部 正木美術館開館40周年特別記念展『-禅・茶・花-』
http://www.toobi.co.jp/
新橋にある東京美術倶楽部に行くのは、2006年の創立百周年記念展以来2度目である。久しぶりなので、道に迷いながら、なんとか辿り着いた。
本展は、正木美術館の開館40周年を記念し、創始者・正木孝之(1895-1985)が一代で収集した東洋美術コレクションの全貌を紹介するもの。大阪府泉北郡に位置する正木美術館には、まだ行ったことがない(関西には、まだまだ未踏の美術館・博物館が多い)。そのため、初めて接する優品が多くて、堪能した。
気に入ったものを挙げていくと、まず『減翁文礼墨蹟』と『虚堂智愚墨蹟』。肩の力の抜けた書が2点並んだところが微笑ましかった。前者は「瀟洒な造形美」(解説文)といえば聞こえはいいが、行末が左に流れる、癖の強い字である。後者は1字ずつバラけた感じが、訥々とした語りを彷彿とさせる。どちらも南宋時代の書。水墨『山水図』は「拙宗(雪舟)」の署名あり。作者には議論がある(あった)そうだが、画面の手前、黒々した墨を大胆に塗りつけているあたりが雪舟っぽいなあ、と素人目には見えた。光悦作のたっぷりした飴釉赤茶碗(銘・園城)と、長次郎の生真面目な黒楽茶碗(銘・両国)が、微妙な距離をおいて並んだ図もよかった。万有引力の働きによって、最も自然な距離を保っている、2つの天体みたいに見えた。
愛らしい能阿弥の小品、水墨『蓮図』。讃をよく読んだら、75歳のときの作と分かってびっくり。能阿弥という名前は初めて聞いたが、調べてみたら、むかし気になった水墨画の作者・相阿弥の祖父であるそうだ。足利義教、義政に仕え、唐物の鑑定を行い、書院飾りを完成させたという。そこで、足利義政の別荘・慈照寺(銀閣)の東求堂にこの『蓮図』を掛け、さらに唐物飾りを再現するというプロジェクトをビデオで紹介しており、面白かった。須田悦弘さんの、リアルな木彫の「花」が彩りを添える。
正木コレクションには、長谷川等伯筆と伝える『千利休図』がある。天正11年(利休在世中)の年記がある貴重なもの。これを、武者小路千家に一時「里帰り」させたときの様子もビデオで紹介されていた。利休という人は体が大きかったそうだ。肖像画も、力のある眼光、容易に笑いそうのない、ふてぶてしい面構えを伝えている。面白かったのは、武者小路千家14代の家元も、どことなく利休と同系統のお顔立ちに見えたこと。
500年の時を隔てて、利休の血脈である家元から、始祖・利休の像に献じられるお茶。器は、会場にも展示されていたけれど、南宋の建盞天目に室町の朱漆金彩台である。内に籠るような渋い輝きが、京の冬の底冷えにふさわしかったことだろう(お茶席は本年2月、雪の日だったそうだ)。
冒頭にあった、南宋の玳玻盞(たいひさん)天目茶碗と明代の青貝松竹梅文台のとりあわせもよかったなあ。時代と空間を超えて、作品と作品、作品と人を引き合わせる。コレクターの妙味って、ただ集めることだけではないんだなあ、と思った。
ところで、会場では「出品作品リスト」を入手することができるが、これには展示替え日程が記載されていない。webサイトからダウンロードできる「出品作品リスト」には、ちゃんと記載されている。まあ、逆よりはいいけど、ちょっと不親切である。
http://www.toobi.co.jp/
新橋にある東京美術倶楽部に行くのは、2006年の創立百周年記念展以来2度目である。久しぶりなので、道に迷いながら、なんとか辿り着いた。
本展は、正木美術館の開館40周年を記念し、創始者・正木孝之(1895-1985)が一代で収集した東洋美術コレクションの全貌を紹介するもの。大阪府泉北郡に位置する正木美術館には、まだ行ったことがない(関西には、まだまだ未踏の美術館・博物館が多い)。そのため、初めて接する優品が多くて、堪能した。
気に入ったものを挙げていくと、まず『減翁文礼墨蹟』と『虚堂智愚墨蹟』。肩の力の抜けた書が2点並んだところが微笑ましかった。前者は「瀟洒な造形美」(解説文)といえば聞こえはいいが、行末が左に流れる、癖の強い字である。後者は1字ずつバラけた感じが、訥々とした語りを彷彿とさせる。どちらも南宋時代の書。水墨『山水図』は「拙宗(雪舟)」の署名あり。作者には議論がある(あった)そうだが、画面の手前、黒々した墨を大胆に塗りつけているあたりが雪舟っぽいなあ、と素人目には見えた。光悦作のたっぷりした飴釉赤茶碗(銘・園城)と、長次郎の生真面目な黒楽茶碗(銘・両国)が、微妙な距離をおいて並んだ図もよかった。万有引力の働きによって、最も自然な距離を保っている、2つの天体みたいに見えた。
愛らしい能阿弥の小品、水墨『蓮図』。讃をよく読んだら、75歳のときの作と分かってびっくり。能阿弥という名前は初めて聞いたが、調べてみたら、むかし気になった水墨画の作者・相阿弥の祖父であるそうだ。足利義教、義政に仕え、唐物の鑑定を行い、書院飾りを完成させたという。そこで、足利義政の別荘・慈照寺(銀閣)の東求堂にこの『蓮図』を掛け、さらに唐物飾りを再現するというプロジェクトをビデオで紹介しており、面白かった。須田悦弘さんの、リアルな木彫の「花」が彩りを添える。
正木コレクションには、長谷川等伯筆と伝える『千利休図』がある。天正11年(利休在世中)の年記がある貴重なもの。これを、武者小路千家に一時「里帰り」させたときの様子もビデオで紹介されていた。利休という人は体が大きかったそうだ。肖像画も、力のある眼光、容易に笑いそうのない、ふてぶてしい面構えを伝えている。面白かったのは、武者小路千家14代の家元も、どことなく利休と同系統のお顔立ちに見えたこと。
500年の時を隔てて、利休の血脈である家元から、始祖・利休の像に献じられるお茶。器は、会場にも展示されていたけれど、南宋の建盞天目に室町の朱漆金彩台である。内に籠るような渋い輝きが、京の冬の底冷えにふさわしかったことだろう(お茶席は本年2月、雪の日だったそうだ)。
冒頭にあった、南宋の玳玻盞(たいひさん)天目茶碗と明代の青貝松竹梅文台のとりあわせもよかったなあ。時代と空間を超えて、作品と作品、作品と人を引き合わせる。コレクターの妙味って、ただ集めることだけではないんだなあ、と思った。
ところで、会場では「出品作品リスト」を入手することができるが、これには展示替え日程が記載されていない。webサイトからダウンロードできる「出品作品リスト」には、ちゃんと記載されている。まあ、逆よりはいいけど、ちょっと不親切である。