見もの・読みもの日記

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関西旅行10月編:京都で見るアジアの仏像

2008-10-16 23:04:08 | 行ったもの(美術館・見仏)
 秘仏をめぐる関西旅行。初日の11日(土)は、京都で途中下車し、以下の展覧会に寄った。

■泉屋博古館 平成20年秋季展『仏の形、心の姿-東アジアの仏教美術-』
http://www.sen-oku.or.jp/kyoto/

 中国・朝鮮・日本の金銅仏や木彫仏を集めた展覧会。しかし、展示室に入ると、並んだ仏像を後にして、国宝『線刻仏諸尊鏡像』に、ふらふらと吸い寄せられてしまう。八稜形の銅鏡である。中央の如来は、しもぶくれの赤ちゃんのように愛らしい相貌。左右に文殊と普賢、下段に不動、毘沙門天が控える(平和的なんだか、戦闘的なんだか)。見る位置によって、鏡面が金色に見えたり、銀色に見えたりする。泉屋博古館の古鏡コレクションは、むかし見たなあ、と思って、過去ログを検索したら、たぶんこの鏡のことだろう、あまり感心しないことを書いていた。鏡背の文様(鴛鴦、唐草)も、今回は、平安の美意識らしくていいなあ、と思ったのだが。

 それから、おもむろに日本の木彫仏のコーナーへ。なんと言っても『木彫毘沙門天像』(鎌倉時代)がすごい完成度である。博物館の外壁に貼られた、大きな写真ポスターを目にしたばかりなので、あれっ、こんなに小さいのかと驚く。写真をどんなに引き伸ばしても、プロポーションに破綻がないのだ。袖のふくらみ方、裾のなびき方、垂れた帯の先端まで、神経が行き届いている。尊像だけでなく、邪鬼にも、鎧の獅噛(しがみ=ベルトの飾り)にも玉眼が嵌まっていて、尊像の玉眼は、左右の瞳の位置を少しずらすことで、右下向に視線が向くように調整してある。解説によれば「昭和49年、奈良博で展観されて以来、長く公開されることがなかった幻の仏像」だそうだ。ふーん。どこで何をして、おいでだったのか、想像は広がる。

 対面のケースには、中国・朝鮮の金銅仏が並んでいた。身高10~20センチくらい。個人の念持仏だったものと思われ、大寺の本尊と違って、親しみやすく、ユニークな姿をしたものが多い。南方風の特徴を持つ、雲南大理国の鍍金観音菩薩立像をなつかしく眺めた。明清の仏具(僧侶の持物)もきれいだった。数珠、払子、如意など、簡素で品があって、”男のお洒落”のお手本という感じがした。

■京都大学総合博物館 平成20年秋季企画展『シルクロード発掘70年-雲岡石窟からガンダーラまで-』
http://www.museum.kyoto-u.ac.jp/indexj.html

 京都大学が、人文科学研究所を中心に行ってきた、中国と中央アジアの仏教遺跡調査70年の歩みを振り返る展示会。パネル展示と文物展示の2室から成る。私は、けっこうパネル展示に見入ってしまった。最も早い調査は、1936年、中国河北省の響堂山石窟と河南省の龍門石窟を対象に行われている。日中戦争勃発(盧溝橋事件)の前年だ。

 そして、1938年から1944年まで、7次にわたる中国山西省の雲崗石窟調査が行われた。日中戦争の真っ最中に、どうしてそんなことが出来たのか、不思議でしかたがない。この調査では、北京の職人・徐立信に拓本を取らせるとともに、5,000枚を超えるガラス乾板写真を撮影しており、「今もこれを上回るすぐれた写真は撮影されていない」という。複数の鏡を使って、リレー式に太陽光を石窟内に引き入れたり、張り渡したタコ糸で三次元のグリッドを作り、正確な測量を行うなど、さまざまな悪条件を、智恵をしぼって乗り越えている。

 戦後は、イラン、アフガニスタン、パキスタンなどに調査隊が派遣され、ベルトコンベア、気球などの新技術も使用されるようになった。しかし、変わらないのは現場で記される調査日記。日々簡潔な記述の行間に、さまざまな空想がふくらむ。1970年、アフガニスタン調査の「新たに購入した物品リスト」というファイルも面白かったなあ。正露丸、大学目薬、ボラギノールに仁丹! 昆布@340×5とか、細かい。

 文物展示室には、塑像や瓦、建築意匠の断片などが、大量に並んでいる。美術的な価値のある完成品はほとんどなくて、いかにも考古調査の展示である。いちばん驚いたのは、雲崗石窟で採取された「仏像の目」。黒い笠をつけた巨大マッシュルームのようだ。石窟の前で発見されたという遼金代の瓦も面白かった。瓦当の真ん中に、福々しい丸顔の獅子が刻まれていて、かわいい。どら焼きにしたら売れるだろうに。

 ところで、京大人文研は、戦前の調査をまとめた報告書『雲崗石窟』全16巻を1950~70年代に刊行しているが、その続集となる「遺物篇」を2006年に刊行した。70年前の発掘調査の成果を、ようやくまとめ終えたわけで、このくらい悠長な時間を刻む学問も、あっていいのではないかと思う。
コメント
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