見もの・読みもの日記

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仏教史のキーパーソン/解脱上人貞慶(奈良国立博物館)

2012-04-21 20:08:35 | 行ったもの(美術館・見仏)
奈良国立博物館 御遠忌800年記念特別展『解脱上人貞慶-鎌倉仏教の本流-』(2012年4月7日~5月27日)

 日吉神社の山王祭と京都・原谷苑の桜を目当てに出かけた週末旅行だが、4月15日(日)は奈良をまわって、奈良博の特別展を見てきた。解脱上人貞慶(1155-1213)は、鎌倉時代前期の僧。興福寺で法相教学と律を学び、笠置寺、さらに海住山寺に住した。パネルの紹介を読んだら、おお、藤原通憲(信西)の孫にあたるのか。この血脈、同時代人には、どう思われていたのかなあ。

 貞慶については、名前を聞いたことがある程度の認識だった(黒田俊雄氏の『寺社勢力』は、中世前期、伝統仏教の内部から発した改革運動の一例として貞慶の活動を挙げている)が、周辺には、けっこうビッグネームが多い。明恵上人が春日社に参ったあと、笠置寺に貞慶を訪ねていくと、香気が満ち、「春日明神を連れてきた」と言われた。この説話が『春日権現記絵』第18に絵画化されている。

 貞慶が隠棲した笠置寺は弥勒信仰の聖地で、奈良時代の僧・実忠は、笠置の龍穴から兜率天に至り、十一面観音悔過の修法を学んで、修二会を始めたと言われる。大和文華館所蔵の『笠置曼荼羅図』も見ることができた。この絵に描かれた弥勒磨崖仏(高さ約16メートル)は、元弘元年(1331)の焼討ち(元弘の乱)によって失われ、現在は光背の窪みが確認できる程度だという。笠置には行ったことがないので、大きなパネル写真を興味深く眺めた。

 晩年、貞慶は海住山寺に移住するのだが、自分は弥陀や弥勒の浄土に行くのは無理だと感じるようになり、観音に関心を移した、という説明が面白かった。真面目な人だったんだなあ。ただ、この企画のキャッチコピー「ストイックでアクティブ!」は取ってつけたようで、やめてほしいと思ったが…。『逆修願文草案』だったか、貞慶の自筆を見たが、あまり連綿体でない、平明で理性的(どちらかというと理系っぽい)筆跡だった。

 教科書に載るような有名人ではないが、日本仏教史のキーパーソンのひとりなのだな、ということはよく分かった。この企画、私のような観光客向けというより、寺院関係者への啓蒙の意味も込めているのかな、と思ったりした。でも単なる仏像好きにも満足のいく内容。海住山寺の小柄だがシャープな十一面観音立像、京都・現光寺の十一面観音坐像、その背後に深い森におおわれた海住山寺境内の航空写真を並べた構成がよかった。

※参考:海住山寺Webマガジン:解脱上人特集
情報の充実ぶりがすごい!

 このあと、常設展は「観音特集」の仏画を堪能。兵庫・太山寺の宋風な十一面観音像、いいなあ。奈良・千光寺の千手観音二十八部衆像は、踏み下ろしの千手観音坐像って珍しいと思った。

 さらに京都に出て、京博の特別展も見ていくつもりだったのだが、よく確認したら『陽明文庫名宝展』は4月17日(火)からではないか。え~フライングしてしまった。さらに帰宅したら、京博から封筒が届いていて(友の会会員なので)京都非公開文化財特別公開(4/27~5/6)のチラシが入っていた。法住寺と法性寺、さらに檀王法林寺が公開されるという。うぬぬ、結局、ゴールデンウィークも、また京都に行かざるを得ないか、と喜んだり、ため息をついたり。

【おまけ】博物館の開館前に、はじめてじっくり建物を見に行った「仏教美術資料研究センター」。公開は水・金曜日だけなので、閉まった門扉の外から。明治35年(1902)竣工の奈良県物産陳列所である。


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