○猪瀬直樹『作家の誕生』(朝日選書) 朝日新聞社 2007.6
本書は、明治34年(1901)雑誌『女子之友』の誌友懇話会の場面で幕を開け、1970年の三島由紀夫の自決に至るまでを、作家たちのエピソードでつづった近代日本文学史である。
作品(表現)中心ではなく、作者中心の文学史を「文壇史であって、文学史でない」と貶める立場がある。確かにそれも一見識だろう。しかし、作家たちは生身を抱え、家族を養う生活者でもあった。ある者は文学者といえどもマーケットの中で生きることを自覚してベストセラーを生み出し、ある者は気まぐれな消費者に翻弄されて消えていった。その悪戦苦闘ぶりは、正統な文学史ではないかもしれないが、読み応えがあって面白い。
本書に登場する主な作家を挙げていくと、田山花袋、森田草平、川端康成、滝田樗陰、菊池寛、島田清次郎、賀川豊彦、大宅壮一、芥川龍之介、小林多喜二、太宰治、三島由紀夫。著者の「作家評伝三部作」『ペルソナ:三島由紀夫伝』『マガジン青春譜:川端康成と大宅壮一』『ピカレスク:太宰治伝』が本書の基礎になっていることは見てのとおりだが、ふつうの近代文学史とは、少し視点がズレていることが分かる。
滝田樗陰、菊池寛、大宅壮一らへの注目は、彼らがいかに文学を「売りもの」にしたか、編集者としての才覚と手腕への興味である。島田清次郎、賀川豊彦、そして小林多喜二は、当時の読者(消費者)の心を掴んだベストセラー作家であった。逆に、今でこそ近代文学史に名を輝かす、太宰治、三島由紀夫は、初めから売れっ子作家であったわけではなく、地味なスタートを切った、等々。
森田草平と平塚明子(らいてう)の恋に憧れる川端康成。芥川を意識し、また小林多喜二ふうの文章をかいてみせる太宰治。一度だけ太宰に会いに行った三島由紀夫。作家たちが、微妙な邂逅とすれ違いを繰り返して、歴史を織りなしていく様子も興味深い。そのほか、平塚らいてうのぶっとび方など、個別にも面白いエピソードが多数。やっぱり、いちばん読み応えがあるのは、太宰治の生涯かなあ。
本書は、明治34年(1901)雑誌『女子之友』の誌友懇話会の場面で幕を開け、1970年の三島由紀夫の自決に至るまでを、作家たちのエピソードでつづった近代日本文学史である。
作品(表現)中心ではなく、作者中心の文学史を「文壇史であって、文学史でない」と貶める立場がある。確かにそれも一見識だろう。しかし、作家たちは生身を抱え、家族を養う生活者でもあった。ある者は文学者といえどもマーケットの中で生きることを自覚してベストセラーを生み出し、ある者は気まぐれな消費者に翻弄されて消えていった。その悪戦苦闘ぶりは、正統な文学史ではないかもしれないが、読み応えがあって面白い。
本書に登場する主な作家を挙げていくと、田山花袋、森田草平、川端康成、滝田樗陰、菊池寛、島田清次郎、賀川豊彦、大宅壮一、芥川龍之介、小林多喜二、太宰治、三島由紀夫。著者の「作家評伝三部作」『ペルソナ:三島由紀夫伝』『マガジン青春譜:川端康成と大宅壮一』『ピカレスク:太宰治伝』が本書の基礎になっていることは見てのとおりだが、ふつうの近代文学史とは、少し視点がズレていることが分かる。
滝田樗陰、菊池寛、大宅壮一らへの注目は、彼らがいかに文学を「売りもの」にしたか、編集者としての才覚と手腕への興味である。島田清次郎、賀川豊彦、そして小林多喜二は、当時の読者(消費者)の心を掴んだベストセラー作家であった。逆に、今でこそ近代文学史に名を輝かす、太宰治、三島由紀夫は、初めから売れっ子作家であったわけではなく、地味なスタートを切った、等々。
森田草平と平塚明子(らいてう)の恋に憧れる川端康成。芥川を意識し、また小林多喜二ふうの文章をかいてみせる太宰治。一度だけ太宰に会いに行った三島由紀夫。作家たちが、微妙な邂逅とすれ違いを繰り返して、歴史を織りなしていく様子も興味深い。そのほか、平塚らいてうのぶっとび方など、個別にも面白いエピソードが多数。やっぱり、いちばん読み応えがあるのは、太宰治の生涯かなあ。