付け焼き刃の覚え書き

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「ハンニバルの象」 ギャヴィン・デ・ビーア

2012-12-18 | エッセー・人文・科学
『危険を前にして恐れを知らず、不撓不屈で、暑さ寒さにびくともせず、飲食は質素で、歩哨と前哨地の間の地面に寝て満足し、部下と同じ服装の上にマント一枚羽織るだけでいるような人物のためなら、兵士は何でもするだろう』
 古代ローマの歴史家、ティトゥス・リウィウスによるハンニバル評。

 紀元前218年、ローマ帝国との戦いに赴いたカルタゴの名将ハンニバルは、敵の防衛網を突破するため、37頭の象、38000人の歩兵、8000人の騎兵を率いて雪のアルプス越えを敢行した。
 この大胆な戦略による、ローマ領への侵攻ルートについて知ることは、歴史家たちの長年の課題の一つだった……。

 そんな象を引きつれた大軍勢の移動ルートなんて簡単にわかりそうだと思ったら大間違い。それはユリウス・カエサルの時代からの問題であり、資料も多い反面、古代の研究者たちが自分たちの考えに沿うよう改竄したものも少なくなく、オリジナルの手稿にまで遡って考察しても論拠もない戯言でもっともらしく批判してくる批評家によって足を引っ張られてしまうありさま。
 どれが正しい説かというより、なんでそんなに正解が出ないのかという検証の方が面白いくらいです。
 しかし、著者はひとつひとつ検証しながら、ハンニバルのアルプス越えルートを探っていきます。
 まず、どのような資料にまで遡ったかを明らかにし、ついで過去の編纂者たちが勝手な解釈で原本を改編して出版した経緯を示し、ルートを順番に検討しつつ、たとえば象が渡河したという記述があるなら当時の川の流量率から渡河地点を推測し、大西洋の堆積物から当時の気候を推定しそれに基づいて氷河の大きさまで考察しています。
 いろいろ調べるのには、ここまでやらなきゃいけないし、ここまでやっても全員を納得はさせられないんでしょうね。

【ハンニバルの象】【ギャヴィン・デ・ビーア】【軍史】【プレアデス星団】【ハンニバルが門前にあり】【最古の生物兵器】
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