付け焼き刃の覚え書き

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「近世漢方医学史」 矢数道明

2015-09-11 | エッセー・人文・科学
「上流直にして清く、下流曲にして不浄なり」
 蘇東坡の詩より。原文は「不浄」ではないけれど、辞書にないので意味の方で。

 曲直瀬道三といえば、田代三喜に師事して漢方を学び、道三流の開祖として皇室や将軍家、さまざまな戦国武将の治療にあたると同時に、京都に医学生養成のための医学舎、啓迪院を設立して後進の育成に努め、庶民へも広く門戸を開いた人物。
 呪術や宗教の影響を排除した実証的手法から、日本医学中興の祖と言われており、大河ドラマの主人公にはならないけれど、戦国時代を舞台にしたドラマや小説では、だいたい1度は名前が出てくるような、マニアックな範疇での有名人です。『織田信奈の野望』ではスケベな老医師として登場したりしてますね。
 この、名前が残る程度には有名で、誰もが知っているほど有名ではない……というあたりから、今までの研究にはミスもあれば漏れもあるということで(なにせ辞典ですら初代道三と二代目道三を混同してたりします)、その総括も兼ねた医学史研究の集大成です。
 時代的には室町時代から幕末まで、人物的には田代三喜から道三以後の医師たちまで含めて日本医学の移り変わりを展望しますが、メインは初代道三と二代目道三こと曲直瀬玄朔。そして現代に至る寿徳院の系譜についてもさらりとまとめ。
 後陽成天皇から今大路の家号を与えられ、本家が曲直瀬ではなく今大路を名乗るようになったことから始まる本家騒動のもの悲しい顛末まで、あれこれ論文をまとめた1巻です。
 年表や地図、過去の論文等の誤り訂正まで含んで、曲直瀬道三について書かれた本としては、これが決定版かと思います。

【近世漢方医学史】【曲直瀬道三とその学統】【矢数道明】【名著出版】【翠竹院】【養安院】【寿徳院】
コメント
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