
イトカ島は太平洋上の孤島だが、ちゃんと日本の領土で都立の実業高校も私立高校もある。
その私立イトカ島学園高等学校に転校してきた美少女・久遠かぐやは、なぜか褐葉貴人の過去を知っていた。中学時代はイジメを受けながら電波の飛びまくったハガキをラジオ番組に投稿し続けていた褐葉は、遙か太平洋上の孤島で高校デビュー。大財閥創始者の孫娘である翠の手下となって、クラスの安定と進学率の向上をめざして陰からクラスを動かしていた。
そんな褐葉にかぐやは、自分のケータイ電話を宇宙に飛ばす手伝いをしろと命じた。ケータイの中には地球人の情報を集めに来た宇宙人が入っているというのだ……。
いるのかいないのか不明な宇宙人から始まって、南海の孤島でロケット花火のような農民ロケットを改良して、衛星軌道に届くロケットを開発することになった高校生たちの物語。行く手に立ちふさがる社会秩序の壁(法令とか校則とか)や技術的障害を、知恵と勇気(無鉄砲さ)で乗り越えて前代未聞の挑戦に挑む高校生たちと、彼らを背後から支える大人たちという良きジュブナイルの構造であり、同時にネットや学校内でのいじめとかの問題にも切り込み、さらには民間による宇宙開発も先取りした意欲作です。
さて、このかぐやの正体は、かつての天才シンガー“クドリャフカ”。深夜ラジオでオタク嫌いとうっかり発言してしまったことから大炎上し、メンヘって引きこもったあげく、そのまま芸能界から消えてしまった神秘的な歌声の持ち主。褐葉はそのきっかけになった投稿ハガキの書き手であり、彼もまた事件が原因で自殺未遂を起こしている、いわば互いに引け目を感じている関係ながら、それでも虚勢を張り合って駆け引きを繰り広げます。
ロケット開発の修羅場は屈指の名シーン。良い意味でも悪い意味でもプロジェクトX。PM大事! 翠のおにぎり、サイコー。
「オタクって2種類いるのね。役に立つオタクと立たないオタク」
褐葉いわく“電波デレ”。ケータイの中にデータとして存在しているという宇宙人の言うことだけは、よく聞くんですよね。イマジナリー・フレンドに甘過ぎと思われてますが、それにつきあう褐葉や仲間たちもかなり甘いと思います。
長い黒髪の美少女で、幻の天才シンガーで、でも口が悪くて、感性はオヤジで、なにより自分のことが大好きで、ケータイの中の宇宙人に話しかけている変わり者。開発現場の修羅場っぷりと、かぐやや翠のツンデレっぷりをしっかり堪能するのが幸せなのです。