付け焼き刃の覚え書き

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「ライトノベル・データブック」 榎本秋

2021-09-30 | エッセー・人文・科学
 2004年から2005年にかけてライトノベル完全読本とか『ライトノベル☆めった斬り』『このライトノベルがすごい!』、さらには『コバルト風雲録』と、当時なんとなくぼんやりとした存在であった「ライトノベル」を定義づけしつつ紹介していこうというムックが相次いで出てました。そんな中で、いちばん後発だけにまとまっていて、今、読んでいて面白かったもの。

 1990年12月にパソコン通信「ニフティ・サーブ」のSFフォーラムでライトノベルという言葉が生まれたところから簡単にライトノベルをまとめた「ライトノベル概論」はたった6頁の小論ながら、あまたのライトノベル論を一蹴する過不足ない通史。これと巻頭の「はじめに」の序文の「表紙と本文にマンガ・アニメ的なイラストを多用した少年少女向けレーベル」とした定義を踏まえて、レーベルと作家と作品という3つの視点からデータを集め、紹介しています。
 「ライトノベルレーベル案内」では、電撃文庫から徳間デュアル文庫までその成立の歴史から傾向、代表的な作家や作品を紹介しつつ、さらにはハヤカワ文庫JAやハルキ文庫にまで言及しています。ファミ通文庫だとログアウト文庫の創刊からファミ通ゲーム文庫などの統合で生まれるあたりまで。アラビアの夜の種族『砂の王 ウィザードリィ外伝Ⅱ』のリライトだったと、ここで始めて知りました。
 「ライトノベル作家徹底ガイド60」では、90年代以降に活躍している作家60人をピックアップして、水野良や深沢美潮から桜庭一樹や小川一水まで著者紹介から著作リスト、代表作品解説などを載せています。そうだ、冲方丁も『マルドゥック・スクランブル』あたりまでライトノベル作家の区分に入れられてたんだよ。
 そして「ライトノベルシリーズ作品BOOK GUIDE」では「ライトノベルという存在自体が様々な小説のクロスジャンルである」という認識を前提に、SF、アドベンチャー、ほのぼの・コメディ、歴史・伝奇のジャンル分けして紹介してます。つまりライトノベルという言葉自体はジャンルではないというポジションなのです。ここで紹介される作品はA君(17)の戦争とか『妖魔夜行』など今読んでも面白い作品ばかり。自分は名探偵紳士録SF英雄群像などミステリやSFの啓蒙的なガイドブックを読んで、リアルタイムでは読んでいなかった過去の名作を掘り起こしていったので、ライトノベルにおいてもこういう本がもっと欲しいなあ。「最近のアレも面白かったけど、90年代のコレもスゴいんだよ」と推してくれるようなもの。
 いや、今こそ、これで90年代からゼロ年代のラノベ作家を追うための良いテキストですね。今も現役で活躍する作家から物故した作家や一般文芸に転身して成功した作家まで、これを参考にまた掘り下げてみるのも面白そうです。

 『このライトノベルがすごい!』は今も毎年出ているのだけれど、あれはその年のベスト作品を紹介するのが主になっていて、オールタイムベストの参考にするには少しもの足りないのです。
 残念ながら『ライトノベル・データブック』はこの1冊だけ。せめて「少女系」も欲しかったところですが、これも「少年系」といいつつもコラムなどで『マリア様がみてる』や『十二国記』など少女小説系にまで言及しています。そのあたりの判断も、そもそもの「コバルト・ソノラマみたいな」というニフティでの議論を踏まえていて完璧じゃありませんか?

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