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鋭く強い心を持ち、世界に対する好奇心にあふれた真面目な少女。次期女王として教育を受けていましたが、彼女の擁護者として命じられていた聖騎士スパーホークが陰謀により追放処分となり、その間にアルドレアス王が毒殺されて18歳にしてエレニア国の女王として戴冠します。しかし、彼女も間もなくして父王と同じ症状に倒れ、宮廷は摂政リチアスとアニアス司教によって牛耳られてしまいます。また、死に瀕した彼女を延命させるためクリスタルに封印されていますが、その封印を維持するために守護者である12人の聖騎士たちの生命が代償となっており、守護者たちが次々に倒れていくため残り時間は後わずか……というところから物語が始まります。
『エレニア記』は彼女を救うべく、聖騎士スパーホークが仲間の騎士たちと探索の旅に出かけ、毒の正体と解毒法を手に入れ、エラナ女王を復権させて陰謀を叩き潰すまでのエレニア国の物語。『タムール記』はその続編で、エレニア国に怪異を解決する助けを求めてきたタムール帝国を救うため、エラナ女王とスパーホークが仲間たちと共に遙かタムール国まで遠征し、神々との戦いに勝利するまでの物語です。王国貴族や騎士から泥棒、殺し屋まで個性豊かな登場人物たちがテンポの良い軽妙な会話を交わしつつ、国家間や宗教界での権力闘争や異形の怪物たちとの戦いに打ち勝ち、神話の戦いに決着をつける物語は、同じ作者の『ベルガリアード物語』『マロリオン物語』と並んでストーリー運びやキャラクター造形のお手本となるべき作品です。
さて、このエラナ女王ですが、スパーホークにとっては世話係をしていた当時のまだ幼かった姫のイメージのまま。異変を聞きつけ戻ってみればクリスタルに封印された若い貴婦人の姿。それで読者的にはなんとなく悲劇のヒロインというか、守ってあげたいお姫さまのイメージになるのですが、なんといっても女性がみんなしたたかでパワフルなエディングス作品です。めでたく女王が復活してびっくり。可愛らしくて、スパーホークを慕う美少女ではありますが、単なる無邪気な美少女では王として海千山千の貴族や聖職者たちを相手に統治なんかできないわけです。
ウェブ小説に多い悪役令嬢もので気になるのは、こんな甘っちょろい若者たちが王族や貴族の跡取りが務まるのか?ということですが、エラナ女王に死角はありません。自分が毒殺される瀬戸際ではありましたが、「アニアスは優秀な政治家だったわ。人を殺すのにふさわしい時期というものを正確に心得ていたの」とむしろ反省しています。あれは単に暗殺合戦の結果で、相手の親玉をやる前にこっちがやられただけだったという解釈です。
「政治はれっきとした犯罪なのよ」
「政治とはそういうものだわーーー不正、裏切り、インチキ。だからこんなにおもしろいのよ」
さすがはエラナ女王の言いきりっぷり。そこにシビれる! あこがれるゥ!
人の上に立つ者とは、必要に応じて敵をためらいなく殺せる人間なのです。こんな風に立派に政治家として成長したエラナ女王が、まだ幼い頃のイメージのまま再会したスパーホークを翻弄し、すっかり危険な女になっていた相手に戸惑う姿が見所のひとつなんですね。
知謀派のお姫さまの脇に忠義一筋の巨女戦士や本質は暗殺者の男爵令嬢たちが控え、脳筋の聖騎士たちも含めた男たちを巧く転がしていくのが『タムール記』の本筋かもしれません。