付け焼き刃の覚え書き

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「すずめの戸締まり」 原作・脚本・監督:新海誠

2022-11-25 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「おはよう」「行ってきます」「お帰りなさい」

 震災で母を失い、叔母に引き取られて宮崎県の静かな町で暮らしている17歳の女子高校生、岩戸鈴芽(すずめ)は廃墟になった集落でぽつんと立っている扉を見つけた。なにかに引き寄せられるように扉を開けば、その向こうには星空の下に広い草原が広がっていた。見えるけれど足を踏み入れることのできない不思議な空間に、すずめは思わず逃げ出して学校に戻るのだが……。

 地上に災いをもたらす“ミミズ”が這い出てくる「扉」を封じて回るために全国各地の廃墟を巡る『閉じ師』の青年と巻き込まれた女子高生による、南九州から東北までの伝奇ロードムービー。

 我が家では大好評。

 ただ、東日本大震災を筆頭に地震大国日本の鎮魂がテーマみたいなものなので、未だにトラウマを抱えている人には震災警報が頻繁に鳴り響くから無理っぽい。震災をエンタテイメントに落とし込むなと怒ってしまう生真面目すぎる人にも無理。震災だけじゃなくて原発事故にも言及しないのはけしからんとか見当外れの重箱をつつきがちな人も観ない方がみんなが幸せ(一応、閉鎖地区の前を通過して復興が進まない様子が描写されてます)。女子高生の生足洗いとか椅子に座られるとか監督の性癖を深読みして気持ち悪がる人は、作品ってのは創作者の分身であるのと同時に見る人にとっての鏡でもあるってことを考えてみた方が良いです。エッチっていう方がエッチなんだぞ(小学生の理屈)。
 あと、ネコ映画っぽい気がして観に行く猫好きがいたら、かなりアウトかも。

 神様は害意も悪意もなくても、強大な力があって、気まぐれで迷惑で厄介なのだ。好かれたらなお面倒くさくなる。左大臣のやったあれこれも「神様、そこまで考えてないと思うよ?」で言い切れる気がするよね。思ってることは吐き出した方がいいんじゃない?くらいで。

 伝奇ロードムービーというと古くは『河童の三平~妖怪大作戦』から『さくや妖怪伝』とかいろいろあるのだけれど、単にテーマ的な「少女の成長」とか「心の奥底に押し込めた想いや記憶の解放」といったもの以外に、無人となった田舎の廃墟から都会の喧噪まで2020年代の日本の情景を切り取って記録していく意味合いがかなり大きい感じがします。
 最近の映像作家は日本の中しか視ていないという評がTwitterに流れてたけど、新海誠は現代日本しか舞台にできないのではなく、あえて現代日本をテーマにしているんだと思わせる映像でした。海外の街並みを再現するのもスゴいし、視た事もない異世界を創造するのもスゴいけど、東日本大震災から干支一回りする歳月の現代日本の変遷を、人があふれる大都会から閑散とした田舎まで写して残しているのもスゴいと思うのよ。最近の作品には珍しく、スモーカーの登場人物もがいますね。比率的にリアル。
 そしていきなり始まる昭和歌謡大全。

 ちなみに主人公の岩戸鈴芽の名前は、天岩戸のウズメから来ているんだそうな。あれは開ける方だけど。そして、彼女を導くのは三本足なのだ。

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コメント
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