付け焼き刃の覚え書き

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「上海~魔都100年の興亡」 ハリエット・サージェント

2007-08-24 | 時代・歴史・武侠小説
【shang・hai/他動】(水夫にするため)麻酔をかけて誘拐すること

 第三者的な無責任ではあるのだけれど、魔都とかイエロー・バビロンとかいう言葉を聞くとワクワクする。20世紀前半の上海という街は、そんな代名詞で呼ばれる土地であり、欧米によるアジア植民地支配とその利権に食い込もうとする後発・日本の力関係も象徴する都市だった。
 小さな漁村を東インド会社に交易拠点として与えた清政府のもともとの意図は、交易のために進出してきた欧米人たちを1カ所に押し込めるつもりだったとか。少なくともそれが常套手段だったらしい。長崎の出島と同じだ。
 しかし出島と違い、上海租界は欧米人たちを押しとどめることには失敗した。商人たちは個人に与えられた、治外法権の特権を拡大解釈して「治外法権を与えられた外国人の自治組織」をつくってしまい、行政、警察、消防からガス、水道の供給まで自分たちで管理するようにしてしまったのだ(これには彼らのために治外法権を獲得した母国の政府すら当惑したらしい)。
 もはや租界は1つの小国家だった。1920年代には人口密度が当時世界最大の都市であったロンドンの3倍という上海は、アジア交易の拠点であり、世界有数の金融市場であり、極東最大の工業都市となっていた。
 サージェントの『上海~魔都100年の興亡』はそうした上海に当時住んでいた人々へのインタビューをまとめたもの。華やかな社交界の舞台裏から、警官が浮浪者を川に投げ捨てるような荒んだ裏通りまであれこれ。

 だいたい何か1つのことがらについて「わたし、気になります!」となったら一度は徹底的に文献を集めるのが性分。調べないまま否定も肯定もできないものね。
 そういうわけで、これ以外にもとりあえず何冊か。

 河出書房新社の『図説上海~モダン都市の150年』は、建物や風景の写真や地図から、上海という街の変遷をとらえたもの。ただ同じ通りでも時代によって名前が変わったり、英語名や仏語名と中国語名が併用されているなどややこしいので、気になりだしたらこの1冊でも足りない。

 劉建輝の『魔都上海~日本知識人の「近代」体験』は、明治から昭和にかけて、上海が日本人に与えた影響に言及したもの。そしてNHKのドキュメンタリーがベースの『魔都上海 十万の日本人』では、日本人が本格的にアジア進出を始めて以後の上海をテーマにしたもの。
 2002年に上海に行ったとき、電視台タワーで老上海展をやっていたので、あれこれ書籍を買い込んできたが、これもなかなか読めずに図版だけ眺めて放置してある。もったいない……。 (2013/04/02改稿)

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