付け焼き刃の覚え書き

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「アンの娘リラ」 L・M・モンゴメリ

2022-09-25 | その他フィクション
「あんたをかかげておくために、わたしたちはみんな、なにかしらささげてきました。四十万もの男の子が海外に行き、そのうち五万が戦死しました。けれども、あんたには、それだけの値打ちがありますよ!」
 スーザン・ベーカーは戦勝の報せに英国旗を高く掲げた。

 新聞の一面にはどこかの国で誰かが暗殺されたとか記事が載っているけれど、炉辺荘の住人たちにはそれよりもグレン・セント・メアリ便りに書かれている子供たちがレドモンド大学を卒業した記事の方が重要だ。そして、末娘のリラ・ブライスにとっては次のダンスパーティに着ていくドレスのことがなによりも大事。
 ところがそのパーティの最中、イギリスがドイツに宣戦布告したというニュースが飛び込んできた……。

 勉強を頑張る気もなく、かといって家事を学ぶのも好きではない、かわいがられ甘やかされて育った、ブライス家の14歳の末娘が戦時体制に塗り固められ変わっていく日常に翻弄されながら成長していきます。最初はみんな遠くの国で誰かが暗殺されたといっても興味がないし、戦争が始まったといっても所詮は余所の国の話で関係ないよ……というスタンスだったのが、次第に戦火が広がり、身の回りにも軍に志願する者が増え、気がつけば食糧や日用品も配給の対象となり、みんないつの間にか誰もがキッチナー卿の発言や戦線の動きに一喜一憂するようになっていきます。つまり、日常が戦争に呑み込まれ、それを克服しながら待ち続ける銃後の人々の物語です。

 今も読み継がれる「赤毛のアン」シリーズを今風のイラストで児童向けにしてみたものだけれど、翻訳は昔ながらの定番である大御所・村岡花子。ただし、全体の構成は今も手に入る新潮文庫版準拠ではなく、70年代に出た鈴木義治がイラストを描いた全集版「赤毛のアン」シリーズ。なんでそれが言えるかというと、どちらも第31章「マティルダ・ピットマン夫人」のエピソードがまるまるカットされているから(伏線無しのタナボタは酷いよ)。それ以外でも、人々が「ワルシャワが陥ちたよ」とか戦争について語り合うシーンとかちょこちょこカットされている抄訳版。
 それでも、そこかしこに読み取れる同調圧力。イギリスが参戦したからカナダの若者も軍に志願しよう、しないヤツは卑怯者で臆病者だと白い羽が送りつけられるとか、反戦思想の人間はドイツのスパイだとか。

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