『人はその理想のために死なねばならないのと同様に、その理想のために生きねばならないこと、さもなければ、この理想のために払われた犠牲が無に帰すと教えるだろう。これは、きみの役目の一つなのです、リラ』
夢見がちで臆病者と思われていたウォルターは誰よりも勇敢だったと、他の戦友たちは語った。そのウォルターが、なぜか今日リラに手紙を書かねばならないという気になった。これは今伝えねばならないと。
母親のアンの青春時代は平和な農場でマシューとマリラの愛情に包まれて、親友ダイアナとの友情を育んだものだったが、彼女の末娘であるバーサ・マリラ・ブライスことリラの青春は世界大戦と共にあった。
女の子が手に入れられるものはすべて手に入れる、15歳から19歳が女の子の人生でいちばん良い年月だと言うけれど、ならば楽しいことでいっぱいにしようと考えていたリラだったが、その初パーティーはイギリスがドイツに宣戦布告したとの知らせで終わった。世界大戦の始まりだった。
兄弟や友人たちは次々に志願して出征して海を渡り、残された家族は聞き慣れない名前の外国の土地をめぐる一進一退に一喜一憂しながら子どもたちの安否に心痛める日々となった。そして、リラは赤十字の寄付集めで出かけた先で、死んでしまった母親の隣で死にかけている戦争孤児を押しつけられてしまい、大鍋に乳児を入れて持ち帰るはめに陥っていた……。
我が家に何冊目かの『アンの娘リラ』到着。
「赤毛のアン」シリーズ全8作の最終巻。21世紀になって刊行された『アンの想い出の日々』を含めて9冊をアン・ブックスとするのが主流らしいのだけれど、こちらは短編集なので長編は全8巻。内容的にキャラや舞台が共通する部分もないではないレベルの短編集『アンの友達』『アンをめぐる人々』に『アンの想い出の日々』を含めて短編集3冊ということになります。
第一次大戦の銃後を舞台とした青春群像劇。可愛がられて育ち、家事も勉強も嫌いでパーティのことしか頭になかった少女が、戦場へ行った家族や友人の心配をしつつ、目の前にできることをひとつずつ片づけていく5年弱の物語です。
村岡訳でさんざん読み込んだ作品を、掛川恭子訳に続いて松本訳であらためて完訳・新訳で読めるのは嬉しいですね。
分厚い本だけれど、その1/5はリラたちが見ていた映画とか当時の風習やら章題や作中で引用されている聖書や文学などの解説、戦争の推移とその中での社会変化の説明など、読んでいるだけでは分かりづらい、あるいは抄訳で飛ばされた部分など当時を知る手がかりがひもとかれます。訳注だけで590項目超。抄訳やその抄訳のさらに改訳ばかりの中での完全版は嬉しい作品。
「赤毛のアン」があまりに有名すぎて、その舞台となる世界はいかにも牧歌的で穏やかで美しい世界……みたいに思われがちかなと思っているのですが、全巻しっかり読みこんでみれば、保守党と自由党で支持政党が違えば親の仇みたいなもので選挙になると暴動寸前で仲違いしたら何十年、長老教会派とメソジスト(プロテスタント)で信仰する宗派が違えば(現世の問題に過ぎない政治以上に)不倶戴天の敵となってケンカしているとか……という「のどかで平和な島」のイメージを否定するエピソード満載。さらに、ここに来て「反戦論者は敵のスパイ」、「五体満足な男で軍に志願しないのは臆病者か卑怯者」と同調圧力が強調されるステキな描写が追加されて、世に言う因習村と何が違うんじゃい?!という感じですが、そんなところまで含めて好きな作品です。
【アンの娘リラ】【赤毛のアン8】【L.M.モンゴメリ】【松本侑子】【文春文庫】【第一次大戦とカナダの家庭】【腸チフス】【ワーズワス】【笛吹き】【キッチナー卿】【ロイド・ジョージ】【パリ砲】【ヨブ記】【ルシタニア号】【ユトランド海戦】【ハーツ・オブ・ザ・ワールド】
夢見がちで臆病者と思われていたウォルターは誰よりも勇敢だったと、他の戦友たちは語った。そのウォルターが、なぜか今日リラに手紙を書かねばならないという気になった。これは今伝えねばならないと。
母親のアンの青春時代は平和な農場でマシューとマリラの愛情に包まれて、親友ダイアナとの友情を育んだものだったが、彼女の末娘であるバーサ・マリラ・ブライスことリラの青春は世界大戦と共にあった。
女の子が手に入れられるものはすべて手に入れる、15歳から19歳が女の子の人生でいちばん良い年月だと言うけれど、ならば楽しいことでいっぱいにしようと考えていたリラだったが、その初パーティーはイギリスがドイツに宣戦布告したとの知らせで終わった。世界大戦の始まりだった。
兄弟や友人たちは次々に志願して出征して海を渡り、残された家族は聞き慣れない名前の外国の土地をめぐる一進一退に一喜一憂しながら子どもたちの安否に心痛める日々となった。そして、リラは赤十字の寄付集めで出かけた先で、死んでしまった母親の隣で死にかけている戦争孤児を押しつけられてしまい、大鍋に乳児を入れて持ち帰るはめに陥っていた……。
我が家に何冊目かの『アンの娘リラ』到着。
「赤毛のアン」シリーズ全8作の最終巻。21世紀になって刊行された『アンの想い出の日々』を含めて9冊をアン・ブックスとするのが主流らしいのだけれど、こちらは短編集なので長編は全8巻。内容的にキャラや舞台が共通する部分もないではないレベルの短編集『アンの友達』『アンをめぐる人々』に『アンの想い出の日々』を含めて短編集3冊ということになります。
第一次大戦の銃後を舞台とした青春群像劇。可愛がられて育ち、家事も勉強も嫌いでパーティのことしか頭になかった少女が、戦場へ行った家族や友人の心配をしつつ、目の前にできることをひとつずつ片づけていく5年弱の物語です。
村岡訳でさんざん読み込んだ作品を、掛川恭子訳に続いて松本訳であらためて完訳・新訳で読めるのは嬉しいですね。
分厚い本だけれど、その1/5はリラたちが見ていた映画とか当時の風習やら章題や作中で引用されている聖書や文学などの解説、戦争の推移とその中での社会変化の説明など、読んでいるだけでは分かりづらい、あるいは抄訳で飛ばされた部分など当時を知る手がかりがひもとかれます。訳注だけで590項目超。抄訳やその抄訳のさらに改訳ばかりの中での完全版は嬉しい作品。
「赤毛のアン」があまりに有名すぎて、その舞台となる世界はいかにも牧歌的で穏やかで美しい世界……みたいに思われがちかなと思っているのですが、全巻しっかり読みこんでみれば、保守党と自由党で支持政党が違えば親の仇みたいなもので選挙になると暴動寸前で仲違いしたら何十年、長老教会派とメソジスト(プロテスタント)で信仰する宗派が違えば(現世の問題に過ぎない政治以上に)不倶戴天の敵となってケンカしているとか……という「のどかで平和な島」のイメージを否定するエピソード満載。さらに、ここに来て「反戦論者は敵のスパイ」、「五体満足な男で軍に志願しないのは臆病者か卑怯者」と同調圧力が強調されるステキな描写が追加されて、世に言う因習村と何が違うんじゃい?!という感じですが、そんなところまで含めて好きな作品です。
【アンの娘リラ】【赤毛のアン8】【L.M.モンゴメリ】【松本侑子】【文春文庫】【第一次大戦とカナダの家庭】【腸チフス】【ワーズワス】【笛吹き】【キッチナー卿】【ロイド・ジョージ】【パリ砲】【ヨブ記】【ルシタニア号】【ユトランド海戦】【ハーツ・オブ・ザ・ワールド】
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