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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

走れ!タカハシ

2012-11-01 18:40:12 | 読んだ本
村上龍 1989年 講談社文庫版
きのうのつづきというわけでもないけど、連作小説ってのは、こういうのを言うんぢゃないかと、私は勝手に思ってるわけで。
タイトルのタカハシは、タカハシヨシヒコ、広島カープの往年の名遊撃手・高橋慶彦のことである。
著者の村上龍が好きなスポーツ選手、その理由は、日本人にはめずらしく、美しい人間だからである。
タカハシヨシヒコの魅力は、守備がうまいこともあるし、バントヒットとか狙わずに33試合連続安打を達成した打撃センスもあるんだけど、この作品のなかでは、なんといっても盗塁にあるとされている。
っつーわけで、この連作短編集では、
横浜球場でビール売りのアルバイトをしている高校生も、
ボクシングやってた高校を中退して新宿でホストになった17歳も、
デパートの花屋に勤めるダイアン・レインに似た店員も、
女に訴えられているテレビ制作会社のディレクターも、
天才だと思われてたけど最近はランキングが落ちる一方のテニスプレイヤーの学生の彼女も、
人妻のストーカーをしてその家族三人を殺した薬局の息子も、
妻子持ちの男との関係に悩む二十五歳のメイキャップ師の女に惚れた三十五歳の売れない役者も、
バーのママと高校の同窓でソフトボール部員だった女友達も、
小説家のニセモノでクラブの女の子をだました男も、
会社が倒産してしまったトラックの運転手の娘も、
元海軍の砲術士官で七十半ばなのに道路工事の交通整理をしているおじいちゃんも、
登場人物たちは、みんなみんな、クライマックスで「走れ!タカハシ!」と叫びます。
その声にこたえるかのように、タカハシヨシヒコは、鮮やかな、スピードにのったプレイをみせます。
とても健全で、イイ短編集だなって思います。

コンテンツは以下のとおり。
PART 1 おまえ、いいな巨人戦も観れるんだろ?
PART 2 まったく一体どうなっているんだろう?
PART 3 海へ行って陽焼けをしてきただけではだめで、ただ女をモノにできなかったということだけでオレだけどうしてこう差別されなければならないのだろうか?
PART 4 カウンターで飲んている時、いつも思うのだが、バーテンダーというのは何と崇高な職業なのだろう
PART 5 お前にはさのうがない、とコーチは言った
PART 6 「調書を全部何回読んでも、わからんことがある、どうしてお前はあの女を殺さなかったんだ?」
PART 7 新学期が始まった
PART 8 「あなた、なにかスポーツやってました?」
PART 9 私は小説家である
PART 10 あれはちょうど一年半くらい前のことだった
PART 11 オレは十七歳だが、とても忙しい、その理由は、しっかり者だからだ

上記のタイトルはどれも書き出しの一文をそのまま使ってるんだけど、私の好きなのは、PART4とPART11かな。
PART4では、内縁関係にあったので損害賠償をしろと女から訴えられた男が、裁判で証言してもらうために別の女に相談をもちかけると、その御礼として「カープのヨシヒコに会わせろ」と言われて、スポーツ局の同僚にヨシヒコを紹介しろと頼むと、報酬としてイタリア製の珍しい煙草を要求され、イタリア政府観光局の知り合いのところへ行けば、築地の電通のすぐ裏手の料理屋の小魚の干物を手に入れろと言われて、…と出口なきダンジョンをさまようような話。
コメント
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