クリスティ/中村能三訳 昭和35年 新潮文庫版
持ってるのは昭和56年の19刷。そのころ読んだんでしょう。
原題もそのまま「THE A.B.C. MURDERS」、数冊しか読んでないポワロものだけど、私はこれがいちばん好きだな。
「ABC」という署名のある、犯罪の予告状みたいなものが、ポワロに届いたとこから始まる。
で、アンドーヴァ(Andover)という町で、アッシャー(Ascher)という老婦人が殺される。
現場には、ABC鉄道案内(という時刻表の本)がアンドーヴァのところをひらいて残されていた。
次に、また予告状がきて、ベクスヒル海岸(Bexhill-on-Sea)という場所で、バーナード(Barnard)という若い女性が殺される。
偶然ぢゃない証拠に、ベクスヒル行きのところをひらいたABC鉄道案内が死体の下から見つかる。
三度目は、チャーストン(Churston)で、クラーク卿(Clarke)という医師を隠退して今はシナ美術品の蒐集に没頭している名士が殺される。
アルファベット・コンプレックス(?)の狂人のしわざとしか思えない、この連続殺人の真の狙いは何か、ポワロが突きとめるんだけど。
捜査会議で、ABC順にいったいどこまで続くんだろうって話題に、ある関係者が、
「まさかZまでは行きますまい。その近くまでもむりでしょう。(略)Xという字を、やつがどう始末するか、こいつは見物ですな」
って不謹慎なこというのが妙におもしろくて初めて読んだときから印象に残ってる。
ポワロ自身も、第一の犯行現場を見て、関係者の事情聴取をした帰りに、語り手である友人のヘイスティングズ大尉に、
「この殺人犯人は、赤毛で、左の眼がやぶにらみの中肉中背の男だよ。右足がかるいびっこで、肩胛骨のすぐ下にアザがある」
だなんて、でまかせの冗談を言ったりする。これは、もちろん、シャーロック・ホームズ流のやりかたへの皮肉にすぎない。
で、それよりも何よりも、今回読み返すまでどこに書いてあったか忘れてたんだけど、私の気に入ってるエピソードがこの本にあったのを再発見した。
>料理を注文するように、犯罪を注文することができるとすれば、どんなやつをえらぶかね
という問いに対するポワロの答えが秀逸。
「四人の人物がテーブルをかこんでブリッジをしている、あまった一人は暖炉のそばの椅子に腰をかけている。ところが、いよいよおひらきという時になってみると、暖炉のそばの男が死んでいる。四人のうちの一人が、ダミーのあいだにその男を殺したのだが、ほかの三人は勝負に夢中になっていて気がつかなかったのだ。うん、こういうのこそ、われわれが求めている犯罪だよ! 四人のうち、誰が犯人なのか?」
いいねえ、実にいい趣味だ。非常に文学的な感じがする。(←自分で言ってて、やや意味不明。)
持ってるのは昭和56年の19刷。そのころ読んだんでしょう。
原題もそのまま「THE A.B.C. MURDERS」、数冊しか読んでないポワロものだけど、私はこれがいちばん好きだな。
「ABC」という署名のある、犯罪の予告状みたいなものが、ポワロに届いたとこから始まる。
で、アンドーヴァ(Andover)という町で、アッシャー(Ascher)という老婦人が殺される。
現場には、ABC鉄道案内(という時刻表の本)がアンドーヴァのところをひらいて残されていた。
次に、また予告状がきて、ベクスヒル海岸(Bexhill-on-Sea)という場所で、バーナード(Barnard)という若い女性が殺される。
偶然ぢゃない証拠に、ベクスヒル行きのところをひらいたABC鉄道案内が死体の下から見つかる。
三度目は、チャーストン(Churston)で、クラーク卿(Clarke)という医師を隠退して今はシナ美術品の蒐集に没頭している名士が殺される。
アルファベット・コンプレックス(?)の狂人のしわざとしか思えない、この連続殺人の真の狙いは何か、ポワロが突きとめるんだけど。
捜査会議で、ABC順にいったいどこまで続くんだろうって話題に、ある関係者が、
「まさかZまでは行きますまい。その近くまでもむりでしょう。(略)Xという字を、やつがどう始末するか、こいつは見物ですな」
って不謹慎なこというのが妙におもしろくて初めて読んだときから印象に残ってる。
ポワロ自身も、第一の犯行現場を見て、関係者の事情聴取をした帰りに、語り手である友人のヘイスティングズ大尉に、
「この殺人犯人は、赤毛で、左の眼がやぶにらみの中肉中背の男だよ。右足がかるいびっこで、肩胛骨のすぐ下にアザがある」
だなんて、でまかせの冗談を言ったりする。これは、もちろん、シャーロック・ホームズ流のやりかたへの皮肉にすぎない。
で、それよりも何よりも、今回読み返すまでどこに書いてあったか忘れてたんだけど、私の気に入ってるエピソードがこの本にあったのを再発見した。
>料理を注文するように、犯罪を注文することができるとすれば、どんなやつをえらぶかね
という問いに対するポワロの答えが秀逸。
「四人の人物がテーブルをかこんでブリッジをしている、あまった一人は暖炉のそばの椅子に腰をかけている。ところが、いよいよおひらきという時になってみると、暖炉のそばの男が死んでいる。四人のうちの一人が、ダミーのあいだにその男を殺したのだが、ほかの三人は勝負に夢中になっていて気がつかなかったのだ。うん、こういうのこそ、われわれが求めている犯罪だよ! 四人のうち、誰が犯人なのか?」
いいねえ、実にいい趣味だ。非常に文学的な感じがする。(←自分で言ってて、やや意味不明。)