丸谷才一 平成27年4月 新潮文庫版
前回から、「持ち重り」つながり。
持ち重りする薔薇の花って、なんのことかっていうと、作中で重要登場人物のひとりが、
>そして、クヮルテットといふのは四人で薔薇の花束を持つやうなものだな、なんて思ったんですよ。(略)
>いや、薔薇の花束を一人ならともかく四人で持つのは面倒だぞ、厄介だぞ、持ちにくいぞ、なんて思ひ返した。むしろ惑星を四人で担ぐほうが楽かもしれない、なんてね。(略)
と言って、それに対して聞いていた、この物語の語り手役のひとが、
>それで、「薔薇の花も惑星も、どちらも重さうだな。惑星が重いのは当り前だが、薔薇の花束も見かけよりずつと持ち重りしさうだ」なんて答へました。(略)
と答えた。
ということで、クヮルテット、弦楽四重奏団のおはなし。
財界総理と呼ばれたかつての経済界のトップが、いまは名誉会長職になってんだけど、知合いのジャーナリストに、若い友人たちのつくるクヮルテットにまつわる話を語る。ただし、関係者が全員亡くなってからぢゃなきゃ、出版しちゃダメという条件つきで。
その有名な弦楽四重奏団は、ブルー・フジ・クヮルテットといって、第一ヴァイオリンの厨川、チェロの小山内、第二ヴァイオリンの鳥海、ヴィオラの西の四名が結成したもの。
彼らと知り合ってグループ名を命名したところから、成功のきっかけをつかんだころの話、やがてゴタゴタがあってメンバーが喧嘩別れする話など、いろいろ。
…しかし、うまいなあ。
財界トップが、半生を回顧するなかで、自分の経歴や経営のこととときにからめてクヮルテットの歴史を語るという、そのつくりもうまい。
そして、独特のキャラづくり。なんかの作品(なんだっけ?「たった一人の反乱」だ)で、ことわざ故事成語の類をちょっとズレて使うというキャラがあったんだけど、この作品の第一ヴァイオリンの奏者は、あだなが「プロフェッサー」といい、秀才の姉の受験英単語集を丸暗記して育ったせいもあって、妙にむずかしい英語の語彙を用いる、っていうキャラである。
なんか、すごい設定だが、それが設定の説明だけしてんぢゃなくて、ほんとにそういう言動を描くんだから、すごい。
あと、いつものことながらの旧仮名づかいだけど、すらすらと読ませてくれる。ホント文章うまい。なんだろう、リズムがいいのかな。
この小説が、著者最後の長編ということで帯やカバーに紹介があるが、ちょっと、またいくつか読み返してみたくなってきた。
(まだ読んだことないものも、いっぱいあるはずだし。)
音楽というものについても、いままで私は知らなかったんだけど、著者はかなり詳しくて、
>それに五重奏曲そのものが、四重奏曲と違って緊密な構造ぢやなくて、奏いてて気楽だつてこともあるらしい。
>うん、このことはいつか君としやべつたこともありましたね。聴いてるほうにとつてもクィンテットのほうがくつろげていい、なんて。(略)
なんてサラッと書いてるとこなんかにも、そういうものを感じたりする。
前回から、「持ち重り」つながり。
持ち重りする薔薇の花って、なんのことかっていうと、作中で重要登場人物のひとりが、
>そして、クヮルテットといふのは四人で薔薇の花束を持つやうなものだな、なんて思ったんですよ。(略)
>いや、薔薇の花束を一人ならともかく四人で持つのは面倒だぞ、厄介だぞ、持ちにくいぞ、なんて思ひ返した。むしろ惑星を四人で担ぐほうが楽かもしれない、なんてね。(略)
と言って、それに対して聞いていた、この物語の語り手役のひとが、
>それで、「薔薇の花も惑星も、どちらも重さうだな。惑星が重いのは当り前だが、薔薇の花束も見かけよりずつと持ち重りしさうだ」なんて答へました。(略)
と答えた。
ということで、クヮルテット、弦楽四重奏団のおはなし。
財界総理と呼ばれたかつての経済界のトップが、いまは名誉会長職になってんだけど、知合いのジャーナリストに、若い友人たちのつくるクヮルテットにまつわる話を語る。ただし、関係者が全員亡くなってからぢゃなきゃ、出版しちゃダメという条件つきで。
その有名な弦楽四重奏団は、ブルー・フジ・クヮルテットといって、第一ヴァイオリンの厨川、チェロの小山内、第二ヴァイオリンの鳥海、ヴィオラの西の四名が結成したもの。
彼らと知り合ってグループ名を命名したところから、成功のきっかけをつかんだころの話、やがてゴタゴタがあってメンバーが喧嘩別れする話など、いろいろ。
…しかし、うまいなあ。
財界トップが、半生を回顧するなかで、自分の経歴や経営のこととときにからめてクヮルテットの歴史を語るという、そのつくりもうまい。
そして、独特のキャラづくり。なんかの作品(なんだっけ?「たった一人の反乱」だ)で、ことわざ故事成語の類をちょっとズレて使うというキャラがあったんだけど、この作品の第一ヴァイオリンの奏者は、あだなが「プロフェッサー」といい、秀才の姉の受験英単語集を丸暗記して育ったせいもあって、妙にむずかしい英語の語彙を用いる、っていうキャラである。
なんか、すごい設定だが、それが設定の説明だけしてんぢゃなくて、ほんとにそういう言動を描くんだから、すごい。
あと、いつものことながらの旧仮名づかいだけど、すらすらと読ませてくれる。ホント文章うまい。なんだろう、リズムがいいのかな。
この小説が、著者最後の長編ということで帯やカバーに紹介があるが、ちょっと、またいくつか読み返してみたくなってきた。
(まだ読んだことないものも、いっぱいあるはずだし。)
音楽というものについても、いままで私は知らなかったんだけど、著者はかなり詳しくて、
>それに五重奏曲そのものが、四重奏曲と違って緊密な構造ぢやなくて、奏いてて気楽だつてこともあるらしい。
>うん、このことはいつか君としやべつたこともありましたね。聴いてるほうにとつてもクィンテットのほうがくつろげていい、なんて。(略)
なんてサラッと書いてるとこなんかにも、そういうものを感じたりする。