吉行淳之介 一九九〇年 講談社文芸文庫
丸谷才一さんが『雁のたより』のなかで、「これだけ短くてしかもこれだけ完璧な短編小説」とか、「奇蹟的な傑作である」とか評してるんで、読んでみたくなったもの。9月ごろ買った古本の短編集。
吉行淳之介って、有名なんだけど、私はほとんど読んだことがないと思う、なんでだかわかんないけど。
イメージとしては、村上春樹さんが「吉行淳之介という人は我々若手・下ッ端の作家にとってはかなり畏れおおい人である。」(『村上朝日堂』p.122)って書いてたのがすごく記憶に残ってんで、そういうひとなんだろうなって勝手に思い込んでる。
百目鬼恭三郎さんの『現代の作家一〇一人』では、「日本の自然主義文学は、事実を媒介にして、読者の感受性に訴える文学であった。吉行のは、現代絵画的なイメージによって、読者の想像力に働きかけようという文学である。」と、その手法を評されている、自然主義的ぢゃないよと、むしろ抽象絵画みたいなとこあるよと。
んで、表題作の「鞄の中身」は、文庫にして12ページとたしかに短い。
最初のとこに「夢の話である」ってことわってあるように、夢の話。
自分の死体が地面に倒れているのをみて、どこかに隠さなくてはと思って、そこにあった手軽に持ち歩ける大きさの鞄に、くにゃくにゃした死体を折りたたんで入れて、その鞄を提げて逃げる。
鞄を持っているのも自分、中身の死体も自分。
うーん、不条理系なんかをよろこんで読んでた若いころなら、おもしろいと思って、これはなんの象徴なのか心象なのかとか、理解してないままに、深くていいねえ、みたいに感じ入ったかもしれないが、最近あまりそういうの好みぢゃないというか、楽しめなくなってる気がする。
ほかの短編も、ちょっと不気味なテイストがあって、あー、こーゆの書くひとだったんだ、と初めて認識した次第。
コンテンツは以下のとおり。
手品師
家屋について
風呂焚く男
錆びた海
白い半靴
子供の領分
雙生
埋葬
曲った背中
廃墟の眺め
流行
紺色の実
蠅
古い家屋
百メートルの樹木
鞄の中身
三人の警官
ミスター・ベンソン
暗闇の声