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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

東京の空間人類学

2020-11-14 18:00:40 | 読んだ本

陣内秀信 一九九二年 ちくま学芸文庫版
丸谷才一さんの「日本の町」を読んだときに、この本の話が出てきて、読んでみなくてはと思ったもので。
単行本が出たのは一九八五年のことだというので、いまからみれば、ずっと前ということになってしまう。
丸谷さんも刺激を受けたという富士山がランドマークって話は、江戸の町ってのは格子状につくるにしても、方角を東西南北の向きにあわせるんぢゃなくて、富士山とか筑波山を遠景として望む形に通りを設計するって、ある意味スケール大きいつくりのことである、なんかかっこいい。
まあ、あちこちに「富士見」(坂とか台とかつくこともある)って地名があったりするのは、関東地方では経験的に知ってることなんだけど、同時に「江戸時代から潮見坂と呼ばれていた坂は、東京に八つある」(p.182)というように、海のほうも見渡していたってことは初めて知った。
そうそう、主題は実は富士山ではなくて、東京は水の都だってことのほうで、
>江戸の場合には、豊かな水辺を都市の周縁部にとりこんでいたから、市民のだれもがこうした解放感に満ちた水辺の遊興空間を享受できた。(略)水辺には、同時に、高級な料亭から大衆的な水茶屋まで開放的なつくりの様々な建物が並んだから、どんな階層の市民も、風光明媚な水際の遊興施設の恩恵に浴すことができた。(p.154)
って江戸のすばらしさを説明してくれてるんだけど、それに比べて現在は川にみんなフタをしちゃって高速道路ばかりつくって、よかったものは失われちゃったってことに気づかされる。
そうだよねえ、渋谷とか有楽町とかどこに川があって橋がかかってたのかなんて、まったくわかんない。
そういう大都市ができる前に、そもそもどうやって江戸の町ができてきたのかっていうと、東京の地形は高台と谷がいっぱいあって、って話になると私なんかは中沢新一の「アースダイバー」をすぐ思い出したんだが。
高台や丘の上には大名の屋敷ができて、谷とか窪地のような部分には町人が住む家が広がってったんだそうで。
この屋敷づくりというもの、敷地を塀で囲んで、そのなかに門から入ってったとこに屋敷を置くという形が、のちのちまで街に影響したんだというのは解説されなきゃわかんなかった。
明治になって、江戸が東京になって、新しい役所とか企業とか学校とか作ってったときも、旧の屋敷を利用してったから、街並みが変わんない。
だからヨーロッパのような、中心から周囲へひろがる道路とかをつくるって都市計画にはなんないし、主要な建物が街路や広場に直接面しているってつくりになんない、町は格子状のままで、建物は柵のなかに引っ込んでいる。
>(略)敷地の形態やそのなかでの土地利用のあり方、さらには都市空間に対する意識構造といった、都市づくりの根幹に江戸からの連続性が強く働いていたことを見抜く必要があろう。(p.234)
ってのが、世界の他都市にはないユニークな東京の景観ができてった理由なんだと。
で、建物ばかり西洋で見てきたものを真似して、「塔」のようなものをつくるんだけど、なんかそこだけ唐突に立ってるだけで、都市の空間全体としては何か調和しない。
それでも計画的な広場がないなんてのは、そのうち自然に橋のたもとに広場がとられていくってスタイルで解消されていくんだけど。
そうやって江戸と東京は連続しているって説明をきくと、前になにかで(なんだっけ?)読んだ、江戸の持っていたものが消えちゃったのは関東大震災のせいである、みたいなことがよくわかる気がする。都市の歴史が断絶するような転換点だったんぢゃないかと。
それはそうと、私はやっぱ神話とか民俗信仰とかってほうに興味あるんで、
>こうして、高密な江戸の市街をはさんで北東の端に神田明神、南西の端に山王権現が置かれ、しかもそれぞれの氏子は市街の中央を流れる日本橋川筋によってほぼ二分される、というユニークな都市の空間構造が成立したのである。(略)この重要な二つの神社が両端に位置したのに対し、江戸の市街地の内部には大きな神社は全く存在しなかった。(略)
>このように江戸では、市街地の周縁部に、しかも自然の要素と結びつきながら宗教空間が成立したのである。すなわち、山の手では武蔵野台地の〈森(緑)〉が、一方、下町では海や河川の〈水〉が明らかに神聖な場所として考えられ、宗教空間を生み出した。(p.132)
みたいな、ひとの精神面と関わりのある空間の成り立ちみたいな話がおもしろく思えた。
大きな章立ては以下のとおり。
I 「山の手」の表層と深層
II 「水の都」のコスモロジー
III 近代都市のレトリック
IV モダニズムの都市造形

コメント
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