今年も残すところあとわずか。最も印象に残った店2店を思い返す。夏(8月末)に閉店してしまった岐阜市花沢町の老舗食堂「丸市」と、北一色の喫茶レストラン「コロムビア」。もう味わうことが出来なくなってしまった貴重な戦前からの食堂の味と、皆に愛された昭和の喫茶店の味をいくつか記憶として記しておこうと思う。
ある夏の夕方に伺って注文したのは「冷やし中華」。この日は女将さんだけで、主人の姿は見当たらない。鋳物コンロの上に置かれた昔ながらの下駄のような木の蓋(正式名称何だろう?)がのった羽釜で麺が茹でられる。いつものように静かに包丁で刻まれた具材は、キュウリ、ハム、カマボコ。それに刻み海苔が振られている。麺は細ストレート麺。中華そばの時と同じ麺じゃないかと思う。スープの酸味もほどほど。市販のマヨネーズとカラシが置かれたが、カラシだけちょこっとつけていただいた。(勘定は¥480)
別の日には、始めてこの店に入った時に食べて、そのクラシックなスタイルと素朴な味に感動した「オムライス」をもう一度注文。白い平皿に盛られたシンプルな姿のオムライスには少なめのケチャップがたらされている。薄皮玉子に包まれた中身は、いつにも増してあっさりとした味付け。いつも女将さんがウスターソースを置いてくれるので、この日は少し垂らしていただいた。(勘定は¥500)
また別の日にいただいたのは「ヤキソバ」。テレビの音だけが流れる静かな店内に、いつもの静かな調理と違い、珍しく炒める音が響く。白い平皿に盛られたヤキソバは、キャベツと、下味の付けられた(苦手な味付けの)豚小間切れ肉、それに紅生姜がのっている。細ストレート麺なので、例の中華麺と同じだろうか。ウスターソースの容器も一緒に置かれたが、ソースで味付けはされている。優しい味。(勘定は¥450)
そして壁に貼られた閉店の告知に記されていた8月31日。何とか営業終了時間(午後8時)までに店にたどり着けそうだったので、思い切って車を走らせる。最後にあの旨いハヤシライスを食べておきたい。近くに車を停めて勇んで店まで歩くが…、無情にも回転灯は消え、暖簾はしまわれ、カーテンが引かれていた…。あぁ、最終日は早仕舞いだったか…。無念。
少しだけ開いていたカーテンの隙間からはテーブル席で老齢の御主人と女将さんが仲良く2人だけでテレビを見ながら食事していらっしゃる姿が見えた。これで店の歴史は終わりとなるが、何も特別なことはせず、今まで通り、いつものように過ごしていらっしゃったんだろう。長い間お疲れ様でした。ほんの少しの間とはいえ、この店を味わうことが出来て幸せでした。
丸市(丸市食堂)
岐阜県岐阜市花沢町3-25
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