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はみだし自販機住民訴訟(不作為の違法確認) 最高裁H16.4.23

2014-11-17 23:00:00 | 行政法学
 はみだし自販機住民訴訟(不作為の違法確認) 最高裁H16.4.23


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事件番号

 平成12(行ヒ)246



事件名

 不作為の違法確認等請求事件



裁判年月日

 平成16年4月23日



法廷名

 最高裁判所第二小法廷



裁判種別

 判決



結果

 棄却



判例集等巻・号・頁

 民集 第58巻4号892頁




原審裁判所名

 東京高等裁判所



原審事件番号

 平成7(行コ)106



原審裁判年月日

 平成12年3月31日




判示事項

 1 権原に基づかない道路の占有と道路管理者の占有者に対する占用料相当額の債権の取得
2 東京都が自動販売機を都道にはみ出して設置した者に対して占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を行使しないことが違法ではないとされた事例



裁判要旨

 1 道路が権原なく占有された場合には,道路管理者は,占有者に対し,占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得する。

2 道路占用許可を受けることなく都道にはみ出して設置されたたばこ等の自動販売機が約3万6000台もあったこと,その1台ごとに債務者を特定して債権額を算定するには多くの労力と多額の費用を要するが,1台当たりの占用料相当額は少額にとどまること,東京都は,対価を徴収することよりも,上記自動販売機の撤去という抜本的解決を優先させる必要があると判断したこと,上記自動販売機を設置した販売商品の製造業者が,東京都の指導に応じ,費用の負担をして上記自動販売機を撤去したことなど判示の事実関係の下においては,東京都がその業者に対して上記自動販売機の設置による都道占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を行使しないことは,違法ではない。



参照法条

 道路法(平成12年法律第106号による改正前のもの)32条1項,道路法(平成11年法律第87号による改正前のもの)39条1項,道路法施行令(平成11年政令第352号による改正前のもの)19条の4第1項,民法703条,民法709条,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号,地方自治法施行令171条の5第3号,東京都道路占用料等徴収条例(昭和27年東京都条例第100号)2条


****************************
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/310/052310_hanrei.pdf
判決文 全文

         主    文
       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人らの負担とする。

         理    由
 上告代理人浅野晋,同伊佐山芳郎,同山本政明,同三枝基行,同原勝己の上告受
理申立て理由(排除されたものを除く。)について
 1 本件は,東京都の住民である上告人らが,自動販売機で販売されるたばこ又
は清涼飲料水等の商品の製造業者(以下「商品製造業者」という。)である被上告
人らは自動販売機を東京都の管理する都道に権原なくはみ出して設置し,これによ
って東京都は都道の占用料相当額の損害を被ったとして,地方自治法(平成14年
法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)242条の2第1項4号に基づき,
東京都に代位して,被上告人らに対し,その損害賠償又は不当利得返還を請求する
住民訴訟である。
 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 「D」,「E協議会」,「F協議会」などの市民団体(以下「D等」とい
う。)は,自動販売機が道路にはみ出して設置されることは通行の妨害になり,ま
た,酒及びたばこの自動販売機は未成年者の飲酒喫煙の防止の観点から望ましくな
いなどとして,都道にはみ出して設置された自動販売機(以下「はみ出し自動販売
機」という。)を撤去させるための活動を始めることとし,平成2年8月から9月
にかけて行った調査の結果を踏まえ,同年10月4日,東京都その他の関係行政機
関,酒類及びたばこの製造業者等に対し,はみ出し自動販売機の撤去を促す趣旨の
申入れをした。さらに,D等は,被上告人らを含む商品製造業者に対し,はみ出し
自動販売機の撤去を要請するなど,はみ出し自動販売機の撤去運動を進めた。
 (2) 東京都は,D等の前記申入れを受けて,平成2年10月末日ころ,自動販
- 1 -
売機関係団体に対し,はみ出し自動販売機の移設,撤去等の是正措置をとることを
要請した。
 次いで,東京都が,同3年1月から12月にかけて,道路延長約604㎞にわた
り,はみ出し自動販売機のサンプル調査を実施したところ,同4年6月,1539
台が道路にはみ出していることが判明した。そこで,東京都は,上記調査結果を受
けて,商品製造業者及びその上部団体並びに自動販売機関係団体に対し,是正指導
をするとともに,商品製造業者に対し,はみ出し自動販売機の実態を把握した上で
その是正計画を同5年3月末日までに書面で提出することを要請した。さらに,東
京都は,同年5月14日,商品製造業者から提出された実態調査及び是正計画につ
いての報告書をまとめるとともに,個々のはみ出し自動販売機についてその管理者
を特定することは困難で,そのためには多数の人員と多額の費用を要すると想定さ
れるものであったことから,関係団体や商品製造業者に対して協力を要請し,はみ
出し自動販売機の撤去等の是正措置の促進を指導した。
 さらに,東京都は,同年10月20日から同年12月10日にかけて,再三にわ
たり,商品製造業者及びその上部団体並びに小売店等に対し,はみ出し自動販売機
の撤去等の是正措置を速やかに実施するように,その方法,費用負担,期限,関係
業者の協力等を含めて具体的かつ明示的な指導をした。
 (3) 被上告人らは,D等の前記申入れを受け,また,上部団体や東京都等の関
係行政機関からの指導を受けて,はみ出し自動販売機の撤去等によりはみ出しの是
正を進めようとしたが,道路敷と私有地との境界が明確でないこと,他のはみ出し
物件と自動販売機との取扱いの不平等,是正に必要な費用負担,是正不可能な場合
の取扱いなど数多くの問題点があったこと,また,自動販売機の利便性や有用性を
理由として,小売店のほか一般人にも抵抗感があったことなどから,その撤去は,
当初必ずしも円滑に進まなかった。しかし,東京都は,当初の方針を変えず,継続
- 2 -
して被上告人らの協力を得てその目的の達成を目指し,これを受けた被上告人らも
,小売店等の説得に努めるとともに,是正に必要な費用の相当部分を負担するなど
東京都の是正指導に対して極めて積極的に対応し,協力を続けた。その結果,本件
において上告人らの指摘する原判決別紙自動販売機の目録(以下「本件目録」とい
う。)の1,3ないし5記載の各自動販売機については,平成5年11月までに撤
去され,また,その当時約3万6000台もあった東京都内のはみ出し自動販売機
のほとんどが同6年初めころまでに撤去された。
 (4) 被上告人B1株式会社は本件目録1記載の自動販売機を,被上告人B2株
式会社は本件目録3及び4記載の各自動販売機を,また,被上告人B3株式会社は
本件目録5記載の自動販売機を,それぞれ遅くとも平成5年3月までに,道路占用
許可を受けることなく都道にはみ出して設置した。
 その後,被上告人B1株式会社は,同年10月20日,本件目録1記載の自動販
売機を都道敷から撤去した。次いで,被上告人B2株式会社は,同年11月12日
に本件目録3記載の自動販売機を,同月16日に本件目録4記載の自動販売機をそ
れぞれ都道敷から撤去した。また,被上告人B3株式会社は,同月12日,本件目
録5記載の自動販売機を都道敷から撤去した。
 (5) 上告人らが本件訴訟において請求する平成5年3月23日又は同年4月1
日から上記撤去の日までの都道の権原のない占有を理由とする損害賠償又は不当利
得の額は,本件の自動販売機がいずれも道路法32条1項1号及び東京都道路占用
料等徴収条例(昭和27年東京都条例第100号)別表の広告塔に該当し,その設
置場所は同別表の特別区の一級地に該当するので,占用料相当額は1㎡につき1年
当たり2万0200円(1か月当たり約1683円)であるなどとして,その1か
月当たりの金額に基づいて算出したものであった。
 3 道路法32条1項は,道路に広告塔その他これに類する工作物等を設け,継
- 3 -
続して道路を使用しようとする場合においては,道路管理者の許可を受けなければ
ならないと定めている。そして,同法39条1項は,道路管理者は道路の占用につ
き占用料を徴収することができる旨を定めており,この規定に基づく占用料は,都
道府県道に係るものにあっては道路管理者である都道府県の収入となる(道路法施
行令19条の4第1項)。このように,道路管理者は道路の占用につき占用料を徴
収して収入とすることができるのであるから,【要旨1】道路が権原なく占有され
た場合には,道路管理者は,占有者に対し,占用料相当額の損害賠償請求権又は不
当利得返還請求権を取得するものというべきである。

 これを本件についてみると,被上告人らは,前記のとおり,それぞれ,本件目録
の1,3ないし5記載の各自動販売機を都道にはみ出して設置した日から撤去した
日までの間,何らの占有権原なくこれらの自動販売機を設置してはみ出し部分の都
道を占有していたのであるから,東京都は,被上告人らに対し,上記各占有に係る
占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得したものというべき
である。
 4 地方公共団体が有する債権の管理について定める地方自治法240条,地方
自治法施行令171条から171条の7までの規定によれば,客観的に存在する債
権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず,原則として,地方公共
団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない。しかしながら,地方公共団
体の長は,債権で履行期限後相当の期間を経過してもなお完全に履行されていない
ものについて,「債権金額が少額で,取立てに要する費用に満たないと認められる
とき」に該当し,これを履行させることが著しく困難又は不適当であると認めると
きは,以後その保全及び取立てをしないことができるものとされている(地方自治
法施行令171条の5第3号)。
 これを本件についてみると,前記事実関係等の下において,上告人ら主張のとお
- 4 -
りにはみ出し自動販売機の占用料相当額を算定するとしても,その金額は,占用部
分が1台当たり1㎡とすれば,1か月当たり約1683円にすぎず,他方,はみ出
し自動販売機は当時約3万6000台もあったというのであるから,東京都が,は
み出し自動販売機全体について考慮する必要がある中において,1台ごとに債務者
を特定して債権額を算定することには多くの労力と多額の費用とを要するものであ
ったとして,本件について,「債権金額が少額で,取立てに要する費用に満たない」
と認めたことを違法であるということはできない。また,はみ出し自動販売機に係
る最大の課題は,それを放置することにより通行の妨害となるなど望ましくない状
況を解消するためこれを撤去させるべきであるということにあったのであるから,
対価を徴収することよりも,はみ出し自動販売機の撤去という抜本的解決を図るこ
とを優先した東京都の判断は,十分に首肯することができる。そして,商品製造業
者が,東京都に協力をし,撤去費用の負担をすることによって,はみ出し自動販売
機の撤去という目的が達成されたのであるから,そのような事情の下では,東京都
が更に撤去前の占用料相当額の金員を商品製造業者から取り立てることは著しく不
適当であると判断したとしても,それを違法であるということはできない。
 以上によれば,【要旨2】本件の事実関係の下では,東京都が被上告人らに対し
て前記損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を行使しなかったからといって,こ
れを違法ということはできない。これと同旨の原審の判断は正当として是認するこ
とができ,論旨は採用することができない。なお,その余の請求に関する上告につ
いては,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却する
こととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 滝井繁男)
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里道の近くに居住する者が当該里道の用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しないとされた判例

2014-11-16 23:00:00 | 行政法学
  里道の近くに居住する者が当該里道の用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しないとされた事例 最高裁S62.11.24

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事件番号

 昭和62(行ツ)49



事件名

 認定外道路用途廃止処分取消



裁判年月日

 昭和62年11月24日



法廷名

 最高裁判所第三小法廷



裁判種別

 判決



結果

 棄却



判例集等巻・号・頁

 集民 第152号247頁




原審裁判所名

 東京高等裁判所



原審事件番号

 昭和61(行コ)59



原審裁判年月日

 昭和62年1月27日




判示事項

 里道の近くに居住する者が当該里道の用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しないとされた事例



裁判要旨

 里道の近くに居住し、その通行による利便を享受することができる者であつても、当該里道の用途廃止により各方面への交通が妨げられるなどその生活に著しい支障が生ずるような特段の事情があるといえないときは、右用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しない。



参照法条

 行政事件訴訟法9条,国有財産法3条2項2号,建設省所管国有財産取扱規則17条


****************************
判決文全文

         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

         理    由
 上告人の上告理由について
 本件里道が上告人に個別的具体的な利益をもたらしていて、その用途廃止により
上告人の生活に著しい支障が生ずるという特段の事情は認められず、上告人は本件
用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しないとした原審の認定判断は、
原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、原
判決に所論の違法はない。本件訴えを却下したからといつて憲法三二条に違反する
ものでないことは、当裁判所大法廷判決(昭和三二年(オ)第一九五号同三五年一
二月七日判決・民集一四巻一三号二九六四頁)の趣旨に徴して明らかである。本件
訴えが適法であることを前提として本件用途廃止処分の違憲をいう上告人の主張は、
失当であり、また、その余の違憲の主張はその実質において単なる法令違背の主張
にすぎないところ、原判決に法令違背のないことは、右に述べたとおりである。論
旨は、いずれも採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    長   島       敦
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土地区画整理事業の事業計画決定の違法性は、換地処分の取消訴訟において主張することはできない

2014-11-15 23:00:00 | 行政法学
最判平成20・9・10土地区画整理事業計画決定の処分性

違法性の承継の問題(調査官解説より)

 違法性の承継が認められるのは、先行行為と後行行為が特定の行政目的を達成するための一連の手続を構成するものであって、両者が相結合して一つの法的効果を完成させる関係にある場合とされる。

 違法性の承継を認めると、公定力ないし取消訴訟の排他的管轄の趣旨に反することになるから、上記の趣旨を犠牲にしてもなお、国民の権利救済のために違法性の承継を認める必要があると判断される例外的な場合に限られると解するべきである

 土地区画整理事業の事業計画の決定は、土地区画整理事業に係る手続の一環としてされるものではあるが、それ自体固有の法的効果をもつものであることなどからすると、事業計画の決定と換地処分等との関係につき、両者が相結合して一つの法的効果を完成させる関係にあるとはいえないだろう。

 また、利害関係者が多数に及び、法律関係の安定性が強く要請される土地区画整理事業において、公定力ないし取消訴訟の排他的管轄の趣旨を犠牲にしてまで、違法性の承継を認めることは相当でないと考えられる。
よって、土地区画整理事業の事業計画の決定の違法性は、換地処分の取消訴訟において主張することはできないというべきである。


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違法な都市計画変更により土地を収用されるXを救済する方法(事例研究行政法第2部問題3を題材に)

2014-11-08 23:00:00 | 行政法学
 都市計画のもともとの決定(原決定)通りなら、自宅の土地を収用されることはなかったのに、原決定とは異なる形の道路工事が先になされ、後追いで、そのなされた道路工事の形の都市計画変更決定がなされ、第2次都市計画事業認可がなされました。
 第2次都市計画事業認可により、自宅の土地を収用されるXを救済するには、どうすればよいか。

 第2次都市計画事業認可の取り消しを争えばよいのであるが、すでに時が経ってしまっていたとして。




(事例研究行政法 第二部問題3を題材にして、2013/11/08第3稿)


 第1、土地収用裁決取消訴訟の提起について(設問1に関連して)

1、都市計画変更決定における違法について

(1)手続的違法について
ア、本件では、都市計画変更決定において、都市計画審議会手続の瑕疵を主張しうると考える。
イ、都市計画変更決定において、都市計画決定と同様に、変更内容を公告し(21条2項、17条1項)、その計画変更に対し、住民及び利害関係人は、意見書を提出することができる(21条2項、17条2項)。都道府県は、関係市町村の意見を聴き、かつ、都道府県の都市計画審議会の議を経て、都市計画の変更を決定する(21条2項、18条1項)。その都市計画審議会では、意見書の要旨が提出されることになっている(21条2項、18条2項)。
 都市計画審議会を経ることは、判断の適正と公正を担保することにあり、住民及び利害関係人の意見書が同審議会に提出されるのは、重大な利害関係を有する者に対しても、意見を提出する機会を与え、判断の基礎及びその過程の客観性と公正を保障する趣旨に出たものと考えられる。
 従って、審議会手続については、都市計画法が審議会の諮問を経ることを要求した趣旨に反するような瑕疵が認められる場合、違法になることが考えられる。
ウ、本件では、Xは、原決定の変更に対して意見書を提出し、その意見書は都市計画審議会に要旨が提出された。同審議会において、一委員から変更決定に対して地元では反対がでていないか懸念が示されたが、事務局が、自治会が反対するなどのような特に強い反対運動は見られていないと説明しただけであり、Xからの意見書提出のことやXが反対していることが説明されることはなかった。Xのような反対者がいた場合は、慎重に審議されるはずのところ、事務局の説明は、本件計画変更に反対者がいないことを委員に意識付けたものと考えられる。
エ、従って、事務局から審議会委員に、正しい情報提供がなされたとはいえず、反対者の有無は、決議を左右する重要な情報である以上、同審議会の決議は、重大な瑕疵がある。
 よって、都市計画変更決定には、審議会における手続き上の瑕疵があって違法である。


(2)実体的違法について
ア、本件では、都市計画変更決定において、都市計画法21条違反を主張しうると考える。
 都市計画法21条は、都市計画の変更の事由を規定する。すなわち、①都市計画区域または準都市計画区域が変更されたとき、②調査(同法6条1項、2項、13条1項各号)の結果都市計画を変更する必要が明らかになったとき、③「その他都市計画を変更する必要が生じたとき」である。
 これら変更事由にあたるかどうかは、都市計画変更が、各地域の状況、将来予測、地域の人々の意向、合意形成の過程など総合的に判断して決定変更していくべきことがらであるため、広範な行政庁の裁量によるべきものであると考えられる。ただし、その裁量も無制約のものではなく、都市計画法1条の目的、2条の基本理念、13条の都市計画基準などの制約を受けつつ、裁量権の逸脱濫用があった場合、違法であると考えられる。
イ、形質的違法理由
 本件では、既になされた都市計画施設区域外の事業を追認的に適法化しようとするものであって、21条のいずれの要件にも該当しないにも関わらず、該当するとして計画変更したことは、行政権の逸脱濫用があり、形式的には、違法である。

ウ、実質的違法理由
 ただし、本件では、本来、第1次事業認可の際に都市計画変更をすべきものが、手順を前後したとの行政庁の主張もありうるのであって、本件裁決取消事由の瑕疵を判断する上では、形式的違法事由のみならず、実質的な都市計画変更理由も合わせて検討すべきと考える。
 当初計画では、①中学校設置基準の問題、②土地R1とR2の所有者Zとの関係、③国の施設の問題があって、都市計画変更をしている。
 ①③は、公共的な理由であるが、①は、当初計画を是正する理由として正当であるが、ただし、校舎の位置自体を道路に面する計画から移動することにより対処可能である。③は、当初から、都市計画道路と面するはずであったのであって、理由とはなりえない。②は、土地所有者個人の希望であり他事考慮であるが、Zの反対で収容が長引き、施設設置の時期に間に合わなくなるおそれを考慮したものと考えられる。
 すると、①の公共的な理由はありうるが対応が可能なことがらであり、②③という本来考慮すべきでないものを考慮して、都市計画変更を判断しており、行政権の逸脱濫用があり、実質的にも違法である。


2、都市計画変更決定における違法を、収用裁決の取消訴訟で主張することについて

 1において、都市計画決定変更の違法はあるとしても、では、後続の収用裁決の取消訴訟で主張しうるか問題である。
(1)都市計画変更決定の処分性
道路は、都市計画に掲げられた施設であり(11条1項1号)、都市計画により定められる(4条6項)。都市計画の決定や変更は、都市計画審議会を経て、都道府県が決定し(18条1項)、都市計画で定められた道路などを整備する「都市計画事業」(4条15項)は、市町村が、都道府県知事の認可を受けて施行することとなっている(59条1項)。都市計画事業認定は、収容適格事業であって(69条)、土地収用法の事業認定の要件は、都市計画事業認可によって代えられる(70条)。
 従って、都市計画変更決定は、一種の立法類似の行為としての性格をもつもので国民の権利義務は形成しておらず、処分性はない。
一方で、都市計画決定事業認可は、公権力の行使である公用収用又は公用換地の手法によって、その法的実現が担保されており、処分性がある。
 よって、都市計画変更決定の違法性は、本来、都市計画事業認可の取消訴訟において主張することとなる。


(2)都市計画事業認可の違法性の承継
ア、しかし、本件では、都市計画事業認可は、2005年の段階で認められ、都市計画事業認可の取消訴訟の出訴期間はすでに徒過してしまっている。
 先行行為である都市計画事業認可に後続の収用裁決において、都市計画事業認可の違法を主張しうるのは、違法性が承継される場合である。
イ、違法性の承継
先行行為と後行行為とが相結合して一つの効果の実現をめざし、これを完成させるものである場合には、先行行為の違法性が後行行為に承継され、従って、後行行為の取消訴訟で先行行為の違法性を主張できる。
ウ、都市計画事業認定の違法性が収用裁決に承継されることについて
 土地収用の事業認定と収用裁決の関係においては、違法性の承継が認められる。なぜならば、先行の事業認定が、起業者の申請に基づき起業者に収用権を付与し、土地所有権の消滅取得という法効果は収用裁決によって完成され、両者は、一連の手続きを構成し、一定の法律効果の発生を目指しているといえるからである。
 アで述べたように、都市計画事業認定は、土地収用の事業認定とみなされ、収用裁決へと至るのであって、土地収用の事業認定と同様に、都市計画事業認定の違法性は、土地収用裁決に承継されると考えられる。
エ、さらに、今回の違法性は、処分性のない都市計画変更決定にあるのであって、本来、都市計画事業認可において争うべきであったとはいえ、手続き保障を与えるうえでも、後行行為の土地収用裁決で争えることを認めることが妥当である。




第2、収用裁決の執行停止の申立て(設問2に関連して)

 仮の権利保護として、収用裁決の執行停止の申立て(行訴法25条)が考えられる。

 以下、行訴法25条の各要件を検討する。
1、重大な損害をさけるための緊急の必要(積極要件)について
 執行による重大な損害とは、執行により、原状回復が困難である場合や金銭賠償が不可能な場合であり、損害の回復の困難の程度も考慮し損害の性質・程度、処分の内容・性質を勘案すべき(行訴法25条3項)とされる。
 本件では、夫婦2人で31年間やってきた理髪店・美容室であり、顧客はその地域のなじみの人を中心としたものであると推測できる。そうすると、収用によって移転を余儀なくされた場合には、他の場所で同様の営業を行うことは極めて困難であり、生業の基盤を失うことともなりかねない。金銭補償が
 したがって、積極要件(25条3項)を充足する。
2、公共の福祉への重大な影響(消極要件①)および本案について理由がないとみえるとき(消極要件②)について
 本件執行停止は、あくまでXとの関係における執行停止であり、Xの収用をストップしても、拘束力(行訴法33条4項参照)によって、任意買収も含めてそれまでなされた道路建設に関わる行為のすべての効力を停止しなければならないものではない。
 Xの土地の収用を強行し、道路を完成させることを急ぐ公益上の理由の有無を検討すると、当該道路がG地点で接続する予定の南北に走る道路はさほど基幹道路とは見受けられず、それに接続する本件道路の公益性の必要は、Xの受ける損害の重大性に比して、さほど大きいものとは言えない。従って、消極要件①はない。
 また、裁決の違法性の検討(第1)から、消極要件②はない。
3、小結
 以上から、執行停止は認められるべきと考える。


第3、第2次都市計画事業認可の取消訴訟が提起できたとしたならば (関連問題に関連して)

 第2次都市計画事業認可(以下、「同認可」という。)がなされた際に、Xが、認可取消しの訴えを起こすことで、Xは目的を達することができ、その効力は、第1の収用裁決の取消訴訟を、通常の場合は、上回っていたと考える。以下、論ずる。
 同認可で、事業計画が決定されると、Xを含め道路の周辺に土地を所有する住民の権利に影響を及ぼすことが、一定の限度で具体的に予測することが可能になる。そして、その後の事業計画に定められたことに従って、換地処分が当然に行われることになる。
 Xは、第1のように、土地収用裁決の段階で取消訴訟を提起できるが、その場合に、たとえ違法の主張が認められたとしても、事情判決(行訴法31条1項)がされる可能性が相当程度あり、救済が十分されるとは言いがたい。
 実行的な権利救済を図るためには、事業計画の決定がされた段階で、事業決定を対象とした取消訴訟の提起することに合理性があると考える。
 ただし、本件の場合は、第2次都市計画事業認可の段階で、すでに工事は進んでいるのであって、事情判決がなされてしまう可能性が同様に残る。

以上
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村道の自由使用に関する判例S39.1.16

2014-11-06 23:00:00 | 行政法学
 村道の自由使用に関する判例S39.1.16です。

 村民各自は、村道に対し、他の村民の有する利益ないし自由を侵害しない程度において、自己の生活上必須の行動を自由に行いうべき使用の自由権を有するとのことです。




*********************************************


事件番号

 昭和35(オ)676



事件名

 村道共用妨害排除請求



裁判年月日

 昭和39年1月16日



法廷名

 最高裁判所第一小法廷



裁判種別

 判決



結果

 破棄差戻



判例集等巻・号・頁

 民集 第18巻1号1頁




原審裁判所名

 名古屋高等裁判所



原審事件番号





原審裁判年月日

 昭和35年2月29日




判示事項

 一 村民の村道使用関係の性質
二 村民の村道使用権に対する侵害の継続と妨害排除請求権の成否



裁判要旨

 一 村民各自は、村道に対し、他の村民の有する利益ないし自由を侵害しない程度において、自己の生活上必須の行動を自由に行いうべき使用の自由権を有する。

二 村民の右村道使用の自由権に対して継続的な妨害がなされた場合には、当該村民は、右妨害の排除を請求することができる。



参照法条

 地方自治法(昭和38年6月8日法律99号による改正前のもの)10条,民法709条,民法710条,民法198条
*********************
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/244/056244_hanrei.pdf


         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

         理    由
 上告人らの上告理由について。
 上告人らの本件訴の趣旨とするところは次の如くである。すなわち、本件道路は
三重県安芸郡a村の村道であつて、その道路敷の所有権も同村に属し、過去数十年
の間同村の管理の下に、一般住民の共用に供せられてきたものであるが、該道路は
上告人らの住宅及び宅地の西側に接着している関係もあり、又上告人らの耕地が右
道路の西方に密集している関係上、上告人らの生活及び農業経営は、専ら右村道を
通じてなされており、現に過去数十年の永きに亘つて上告人らは居宅及び宅地の出
入に又耕地えの通路として耕作のための肥料、苗、農具、農作物等の運搬のため一
日数回、多いときは十数回も通行、利用して来たものであり、また右のような事情
であつたので、上告人らは自家宅地又は本道えの出入口等数ケ所に自費を以て踏板
を架したり、道路敷保護のため自己の宅地を潰して排水溝を開設したりして来た。
ところが、被上告人は昭和三元年一月頃から、右道路に架設されていた村有の板橋
二個及び上告人Aが架けた溝板を恣に撤去処分し、又右道路上に槇を植栽し或は石
材を堆積したりなどして、上告人ら住宅と通路口に木柵二個(高さ一丈長さ二間位
のものと、高さ四尺長さ五尺位のものと)を設置して上告人らの通行は勿論一般住
民の通行を不可能ならしめている。のみならず、被上告人は上告人らの制止にかか
わらず、右道路上に基礎コンクリート木造平家建の納屋建坪五坪を建築完成した上
更に右建物の北側に前同様の基礎構造を有する建坪二坪の本屋建増工事を完成し、
その余の道路敷もすべて排他的占有をなすに至り、延いて該道路の機能一切を消滅
に帰さしめているのである。よつて、上告人らは被上告人に対し上叙の通行妨害の
- 1 -
排除を求める為め本訴に及んだものであるというのである。これに対し、原判決の
引用する第一審判決は上告人らが本件道路に対し、排他的使用権を有する法律上の
根拠は見当らない。してみれば、上告人らは本件道路に対し単に村民としての通行
の自由を有するに過ぎないものと解すべきであり、云い換えれば上告人らは地方自
治団体が村道を開設していることの反射的効果として村道を使用できる利益を有す
るに過ぎないもので、固有の権利を有するものではない。そしてこのように反射的
利益を享受し得るに過ぎない者は、第三者の行為によつて、その利益の亨受が妨害
されたからといつて、直ちにその第三者に対して妨害排除を請求する権利を存する
ものではないと判示し、依つて上告人らの本訴請求を排斥しているものであること
は判文上明らかである。
 しかしながら、思うに、地方公共団体の開設している村道に対しては村民各自は
他の村民がその道路に対して有する利益ないし自由を侵害しない程度において、自
己の生活上必須の行動を自由に行い得べきところの使用の自由権(民法七一〇条参
照)を有するものと解するを相当とする。勿論、この通行の自由権は公法関係から
由来するものであるけれども、各自が日常生活上諸般の権利を行使するについて欠
くことのできない要具であるから、これに対しては民法の保護を与うべきは当然の
筋合である。故に一村民がこの権利を妨害されたときは民法上不法行為の問題の生
ずるのは当然であり、この妨害が継続するときは、これが排除を求める権利を有す
ることは、また言を俟たないところである。これを上告人らの主張に即して考える
に、もし、上告人らの主張にして真実に合致するならば、上告人らは被上告人に対
し所論妨害の排除を求め得べき権利あるやも計り難いのである。然るに原判決は上
告人ら主張の事実関係については十分に審究を尽さず、ただ漫然と上叙の法律論に
のみ拘着して、上告人らの請求を排斥し去つているのである。これでは審理不尽理
由不備の欠陥を包蔵するか、或は原判決に影響するところの重大な法令違背を犯し
- 2 -
ているとの誹を免れないものであつて、論旨は結局理由あるに帰し、原判決は到底
破棄を免れないものと言わなければならない。
 よつて、民訴四〇七条一項に従い裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   朔   郎
 裁判官高木常七は退官につき署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
- 3 -
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段ボール小屋の撤去に関する判例H14.9.30威力業務妨害罪

2014-11-05 23:00:00 | 行政法学
 段ボール小屋の撤去に関する判例H14.9.30、威力業務妨害罪に関連しています。


***************************


事件番号

 平成10(あ)1491



事件名

 威力業務妨害被告事件



裁判年月日

 平成14年9月30日



法廷名

 最高裁判所第一小法廷



裁判種別

 決定



結果

 棄却



判例集等巻・号・頁

 刑集 第56巻7号395頁




原審裁判所名

 東京高等裁判所



原審事件番号

 平成9(う)853



原審裁判年月日

 平成10年11月27日




判示事項

 1 東京都による動く歩道の設置に伴う環境整備工事が威力業務妨害罪にいう「業務」に当たるとされた事例
2 東京都による動く歩道の設置に伴う環境整備工事に威力業務妨害罪としての要保護性が肯定された事例



裁判要旨

 1 東京都が都道である通路に動く歩道を設置するため,通路上に起居する路上生活者に対して自主的に退去するよう説得して退去させた後,通路上に残された段ボール小屋等を撤去することなどを内容とする環境整備工事は,自主的に退去しなかった路上生活者が警察官によって排除,連行された後,その意思に反して段ボール小屋を撤去した場合であっても,威力業務妨害罪にいう「業務」に当たる。

2 東京都が都道である通路に動く歩道を設置するため,通路上に起居する路上生活者に対して自主的に退去するよう説得して退去させた後,通路上に残された段ボール小屋等を撤去することなどを内容とする環境整備工事は,自主的に退去しなかった路上生活者が警察官によって排除,連行された後,その意思に反して段ボール小屋を撤去するに及んだものであっても,同工事が公共目的に基づくものであるのに対し,路上生活者は通路を不法に占拠していた者であり,行政代執行の手続を採ってもその実効性が期し難かったことなど判示の事実関係の下では,威力業務妨害罪としての要保護性を失わせるような法的瑕疵を有しない。



参照法条

 刑法234条

*****************
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/001/050001_hanrei.pdf

判決文全文

            主     文
       本件各上告を棄却する。


            理     由
 被告人両名の弁護人大口昭彦,同向井千景,同森川文人及び同萱野一樹の上告趣
意は,違憲をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑
訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ,本件における威力業務妨害罪の成否について職権で判断す
る。
 1 原判決の認定によれば,本件に関する事実関係は,以下のとおりである。
 (1) 東京都は,東京都庁の新宿移転に伴い,通勤者等の通行人の増加に対処し
,高齢者等のための利便性を高めるという目的から,新宿駅西口から新宿副都心へ
通じる都道新宿副都心4号線(以下「本件通路」という。)に水平エスカレーター
(以下「動く歩道」という。)を設置することを計画し,平成7年12月8日,そ
の設置計画を発表した。
 (2) 本件通路は,地下道となっていて,寒さや雨,風をしのげることから,段
ボールを用いた簡易な小屋(以下「段ボール小屋」という。)等の中で起居する路
上生活者が集まるようになり,その数は,平成8年1月13日の時点で約200名
に達していた。このような状況に対しては,周辺の商店街の事業者や通行人等から
,東京都に対してしばしば苦情が寄せられていた。本件通路上に段ボール小屋を置
いて起居していた路上生活者は,本件通路を占用する何らの権原を有するものでは
なかった。
 (3) 東京都は,動く歩道の設置によって本件通路からの退去を求められる路上
生活者等を保護するため,臨時保護施設を開設することとし,同月中旬,港区aに
- 1 -
保護人員を約200名とする同施設を設け,食事や衣服を提供し,健康診断を行う
とともに,自立支援策として,就労のあっせん等を行うことにした。東京都は,本
件工事に着手するに先立ち,平成7年12月15日から平成8年1月13日までの
間,3回にわたって周知活動を行い,本件工事を実施する旨の事前通告及び上記臨
時保護施設の案内を行うとともに,路上生活者に自主的退去を促した。
 (4) 東京都は,同月24日午前6時から動く歩道の設置に伴う環境整備工事(
以下「本件工事」という。)を実施することとした。本件工事は,①路上生活者が
自主的に退去した後に残された段ボールやごみ等を撤去する作業,②工事区域内に
歩行者が入らないようにするためのバリケードやカラーコーンを設置する作業,③
動く歩道を設置するため床のタイル舗装を撤去する作業から成り,それぞれ民間業
者に請け負わせるものであった。
 (5) 被告人両名は,本件工事を実力で阻止するため,同日午前2時ころから,
多数の路上生活者に指示して,本件通路の都庁側出入口に強化セメント製植木ボッ
クス,ベニヤ板等でバリケードを構築し,その内側で約100名の者とともに座り
込むなどして東京都職員らの同工事区域内への進入を阻止した上,同日午前6時3
0分ころから同日午前8時10分ころまでの間,警備員に補助させて本件工事に従
事していた東京都職員らに対し,鶏卵,旗竿,花火等を投げ付け,消火器を噴射し
,「帰れ,帰れ」とシュプレヒコールを繰り返し怒号するなどして座込みを続けた。
 (6) 警察官は,再三警告を発していたが,同日午前7時34分ころ,座込みを
続ける者らを1人ずつ引き抜く排除行為を始め,排除した者を近隣の公園まで連行
するなどして,同日午前8時10分ころ,これを了した。
 (7) 東京都職員は,予定より遅れて,同日午前8時20分ころ,本件工事に着
手し,臨時保護施設への入所受付を行うとともに,本件通路において説得活動を行
い,残っていた路上生活者数名に自主的に退去するよう促したところ,これらの者
- 2 -
は,自ら本件通路から退去した。
 (8) 東京都職員は,同日午前11時半ころまでに,自主的な退去者のもののほ
か,警察官に排除,連行された者のものを含め,本件通路に放置されていた段ボー
ル小屋を全部撤去し,鍋,釜等の有価物については,返還方法を掲示板に案内する
措置を講じた上保管した。
 2 【要旨1】以上の事実関係によれば,本件において妨害の対象となった職務
は,動く歩道を設置するため,本件通路上に起居する路上生活者に対して自主的に
退去するよう説得し,これらの者が自主的に退去した後,本件通路上に残された段
ボール小屋等を撤去することなどを内容とする環境整備工事であって,強制力を行
使する権力的公務ではないから,刑法234条にいう「業務」に当たると解するの
が相当であり(最高裁昭和59年(あ)第627号同62年3月12日第一小法廷
決定・刑集41巻2号140頁,最高裁平成9年(あ)第324号同12年2月1
7日第二小法廷決定・刑集54巻2号38頁参照),このことは,前記1(8)のよ
うに,段ボール小屋の中に起居する路上生活者が警察官によって排除,連行された
後,その意思に反してその段ボール小屋が撤去された場合であっても異ならないと
いうべきである。
 3 さらに,本件工事が威力業務妨害罪における業務として保護されるべきもの
といえるかどうかについて検討する。
 【要旨2】本件工事は,上記のように路上生活者の意思に反して段ボール小屋を
撤去するに及んだものであったが,前記1の事実関係にかんがみると,本件工事は
,公共目的に基づくものであるのに対し,本件通路上に起居していた路上生活者は
,これを不法に占拠していた者であって,これらの者が段ボール小屋の撤去によっ
て被る財産的不利益はごくわずかであり,居住上の不利益についても,行政的に一
応の対策が立てられていた上,事前の周知活動により,路上生活者が本件工事の着
- 3 -
手によって不意打ちを受けることがないよう配慮されていたということができる。
しかも,東京都が道路法32条1項又は43条2号に違反する物件であるとして,
段ボール小屋を撤去するため,同法71条1項に基づき除却命令を発した上,行政
代執行の手続を採る場合には,除却命令及び代執行の戒告等の相手方や目的物の特
定等の点で困難を来し,実効性が期し難かったものと認められる。そうすると,道
路管理者である東京都が本件工事により段ボール小屋を撤去したことは,やむを得
ない事情に基づくものであって,業務妨害罪としての要保護性を失わせるような法
的瑕疵があったとは認められない。
 4 以上のとおり,本件工事は,刑法上威力業務妨害罪により保護される業務に
当たると解するのが相当であるから,被告人らの行為について同罪の成立を認めた
原判断は正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤
武久 裁判官 横尾和子)
- 4 -
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社会福祉法人の設置運営する児童養護施設での子どもの事故に対し、国家賠償請求H19.1.25

2014-11-04 23:00:00 | 行政法学
 社会福祉法人の設置運営する児童養護施設での子どもの事故に対し、国家賠償請求H19.1.25の重要判例です。

***************************




事件番号

 平成17(受)2335



事件名

 損害賠償請求事件



裁判年月日

 平成19年1月25日



法廷名

 最高裁判所第一小法廷



裁判種別

 判決



結果

 その他



判例集等巻・号・頁

 民集 第61巻1号1頁




原審裁判所名

 名古屋高等裁判所



原審事件番号

 平成16(ネ)1125



原審裁判年月日

 平成17年9月29日




判示事項

 1 都道府県による児童福祉法27条1項3号の措置に基づき社会福祉法人の設置運営する児童養護施設に入所した児童を養育監護する施設の職員等と国家賠償法1条1項にいう公権力の行使に当たる公務員
2 国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に加えた損害につき国又は公共団体が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合における使用者の民法715条に基づく損害賠償責任の有無



裁判要旨

 1 都道府県による児童福祉法27条1項3号の措置に基づき社会福祉法人の設置運営する児童養護施設に入所した児童を養育監護する施設の長及び職員は,国家賠償法1条1項の適用において都道府県の公権力の行使に当たる公務員に該当する。

2 国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても,当該被用者の行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うときは,使用者は民法715条に基づく損害賠償責任を負わない。



参照法条

 (1,2につき)国家賠償法1条1項 (1につき)児童福祉法27条1項3号 (2につき)民法715条


**********

判決文 全文

- 1 -
主文
1 原判決中,平成17年(受)第2335号上告人敗
訴部分を破棄する。
2 前項の部分につき,平成17年(受)第2335号
被上告人の控訴を棄却する。
3 平成17年(受)第2336号上告人の上告を棄却
する。
4 第1項及び第2項の部分に関する控訴費用及び上告
費用は,平成17年(受)第2335号被上告人の
負担とし,前項の部分に関する上告費用は,平成1
7年(受)第2336号上告人の負担とする。


理由
第1 事案の概要
1 原審が適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 平成17年(受)第2335号上告人(以下「被告Y」という。)は,児
童福祉法(以下「法」という。)41条の児童養護施設であるA学園を設置運営す
る社会福祉法人である。
(2) 平成17年(受)第2335号被上告人・同第2336号被上告人(以下
「原告」という。)は,昭和63年11月生まれであり,母親が病気療養のため家
庭での養育が困難になったことから,平成4年1月10日,平成17年(受)第2
336号上告人(以下「被告県」という。)による法27条1項3号に基づく入所
措置(以下「3号措置」という。)によりA学園に入所した。
- 2 -
(3) 原告は,平成10年1月11日,午後3時30分ころから約30分間にわ
たり,A学園の施設内で,原告と同じく3号措置により同学園に入所中の児童ら4
名から暴行を受け,右不全麻痺,外傷性くも膜下出血等の傷害を負い,入院治療を
受けたが,高次脳機能障害等の後遺症が残った。上記暴行は,直前に同学園の職員
(以下「本件職員」という。)から,上記4名の児童の中の1名が原告を蹴ったこ
とで注意を受けた腹いせに,本件職員が事務室に戻った間に行われたものであっ
た。
(4) 本件職員には,原告の上記受傷につき,入所児童を保護監督すべき注意義
務を懈怠した過失があった。
2 本件は,原告が,本件職員の上記過失によって被った損害について,A学園
の施設長及び職員(以下,併せて「職員等」という。)による入所児童の養育監護
行為は被告県の公権力の行使に当たるから,被告県は国家賠償法1条1項に基づき
賠償責任を負い,被告県が同賠償責任を負う場合も,被告YはA学園の職員等によ
る不法行為につき民法715条に基づき使用者責任を負うと主張して,被告らに対
し,それぞれ損害賠償を求める事案である。
3 原審は,前記事実関係の下,次のとおり判断して,原告の被告らに対する請
求を各3375万1724円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度でい
ずれも認容すべきものとした。
(1) A学園は,民営の児童養護施設であり,その職員等は組織法上の公務員で
はないが,同学園が被告県から委託されて行う入所児童の養育監護行為は,高度な
公共的性質を有する行為であって,純然たる私経済作用ではないから,国家賠償法
1条1項にいう公権力の行使に当たる。
- 3 -
したがって,入所児童を養育監護するA学園の職員等は,被告県のために公権力
の行使たる公務の執行に携わる者として,国家賠償法上の公務員に該当し,被告県
は,国家賠償法1条1項に基づき,A学園の職員である本件職員の前記過失により
原告が被った損害を賠償する責任を負う。
(2) 本件職員は,A学園の入所児童の養育監護という被告Yの事業の執行につ
いて,入所児童の監督上の注意義務違反により原告に損害を与えたものであるか
ら,被告Yは,民法715条に基づき,原告が被った損害を賠償する責任を負う。
国家賠償法1条1項は,公権力の行使に当たる公務員が違法に他人に損害を与えた
ときは,当該公務員との関係で公務員個人の責任を排除したにすぎず,公務員の行
為の違法性が消滅するものではないから,組織法上の公務員ではないが国家賠償法
上の公務員に該当する者の使用者の不法行為責任まで排除するものとはいえない。
第2 平成17年(受)第2336号上告代理人後藤武夫の上告受理申立て理由
について
1 所論は,A学園における入所児童の養育監護行為が被告県の公権力の行使に
当たるとした原審の判断について,法27条1項3号及び国家賠償法1条1項の解
釈の誤りがある旨をいうものである。
2 法は,国及び地方公共団体が,保護者とともに,児童を心身ともに健やかに
育成する責任を負うと規定し(法2条),その責務を果たさせるため,都道府県に
児童相談所の設置を義務付け(法15条〔平成16年法律第153号による改正前
のもの〕),保護者がないか又は保護者による適切な養育監護が期待できない児童
(以下「要保護児童」という。)については,都道府県は,児童相談所の長の報告
を受けて児童養護施設に入所させるなどの措置を採るべきこと(法27条1項3
- 4 -
号),保護者が児童を虐待しているなどの場合には,都道府県は,親権者又は後見
人(以下,併せて「親権者等」という。)の意に反する場合であっても,家庭裁判
所の承認を得て児童養護施設に入所させるなどの措置を採ることができること(法
28条),都道府県が3号措置により児童を児童養護施設(国の設置する施設を除
く。)に入所させた場合,入所に要する費用のほか,入所後の養育につき法45条
に基づき厚生労働大臣が定める最低基準を維持するために要する費用は都道府県の
支弁とし(法50条7号),都道府県知事は,本人又はその扶養義務者から,負担
能力に応じて費用の全部又は一部を徴収することができること(法56条2項),
児童養護施設の長は,親権者等のない入所児童に対して親権を行い,親権者等のあ
る入所児童についても,監護,教育及び懲戒に関し,その児童の福祉のため必要な
措置を採ることができること(法47条)などを規定する。
このように,法は,保護者による児童の養育監護について,国又は地方公共団体
が後見的な責任を負うことを前提に,要保護児童に対して都道府県が有する権限及
び責務を具体的に規定する一方で,児童養護施設の長が入所児童に対して監護,教
育及び懲戒に関しその児童の福祉のため必要な措置を採ることを認めている。上記
のような法の規定及び趣旨に照らせば,3号措置に基づき児童養護施設に入所した
児童に対する関係では,入所後の施設における養育監護は本来都道府県が行うべき
事務であり,このような児童の養育監護に当たる児童養護施設の長は,3号措置に
伴い,本来都道府県が有する公的な権限を委譲されてこれを都道府県のために行使
するものと解される。
したがって,都道府県による3号措置に基づき社会福祉法人の設置運営する児童
養護施設に入所した児童に対する当該施設の職員等による養育監護行為は,都道府
- 5 -
県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為と解するのが相当である。原審の判断
はこれと同趣旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することがで
きない。
第3 平成17年(受)第2335号上告代理人多田元ほかの上告受理申立て理
由について
1 所論は,被告Yが使用者責任を負うとした原審の判断について,国家賠償法
1条1項,民法715条の解釈の誤りがある旨をいうものである。
2 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,
その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合に
は,国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責めに任ずることとし,公務員個
人は民事上の損害賠償責任を負わないこととしたものと解される(最高裁昭和28
年(オ)第625号同30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁,
最高裁昭和49年(オ)第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集3
2巻7号1367頁等)。この趣旨からすれば,国又は公共団体以外の者の被用者
が第三者に損害を加えた場合であっても,当該被用者の行為が国又は公共団体の公
権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して同項に基づく損害賠償
責任を負う場合には,被用者個人が民法709条に基づく損害賠償責任を負わない
のみならず,使用者も同法715条に基づく損害賠償責任を負わないと解するのが
相当である。
これを本件についてみるに,3号措置に基づき入所した児童に対するA学園の職
員等による養育監護行為が被告県の公権力の行使に当たり,本件職員の養育監護上
の過失によって原告が被った損害につき被告県が国家賠償法1条1項に基づく損害
- 6 -
賠償責任を負うことは前記判示のとおりであるから,本件職員の使用者である被告
Yは,原告に対し,民法715条に基づく損害賠償責任を負わないというべきであ
る。
3 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決中,被告Y敗訴部分は破棄を免れない。
第4 結論
以上によれば,被告Yの上告に基づき,原判決中,被告Y敗訴部分を破棄して同
部分につき原告の控訴を棄却し,被告県の上告は,これを棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官才口千晴裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官
泉治裁判官涌井紀夫)
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車のナンバーは、プライバシーか。「世田谷ナンバー」損賠訴訟提訴。

2014-10-29 10:52:39 | 行政法学
 問題提起型の訴訟が提訴されたようです。金銭が目的でないから、賠償額は各自1円。

 車のナンバーが、プライバシーにあたるか。

 区内の自動車が品川ナンバーから、世田谷ナンバーを義務付けられることの不利益はなにか。

 区長は、損害賠償責任を負うのか。


 車のナンバーは、選択できるのではなかったかな。義務なのかな。要確認。


*******朝日新聞********************
http://www.asahi.com/articles/ASGBX4WW6GBXUTIL02H.html

「世田谷ナンバーは不利益」 住民が区長ら提訴

2014年10月29日05時46分


 11月に導入される自動車の世田谷ナンバーについて反対する区民132人が28日、「プライバシーが侵害される」などとして、保坂展人区長と区に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。「金銭が目的ではない」として、賠償額は原告1人につき1円。

 代表して記者会見した田中優子区議は「ブランド力のある品川ナンバーを使えなくなる不利益や、住居地を特定されることでプライバシーや平穏な生活が侵害される」と主張。さらに区が導入を申請する際に実施したアンケートは「設問や配布先が偏っている」と批判した。

 世田谷ナンバーは国土交通省が募集した「ご当地ナンバー」で、11月17日から導入することが決まっている。同日以降に新規登録される区内の自動車は世田谷ナンバーが義務づけられる。保坂区長は「訴状が届いていないため、内容を確認でき次第コメントしたい」としている。




*******朝日新聞********************
http://www.asahi.com/articles/ASG5J5VLFG5JUTIL036.html


新たなご当地ナンバー11月に 世田谷・平泉・奄美など

2014年5月17日16時38分

 地域ゆかりの地名を記した自動車の「ご当地ナンバー」について、国土交通省は16日、平泉(岩手県)や世田谷(東京都)、春日井(愛知県)、奄美(鹿児島県)など新たに全国10地域で、11月17日から導入すると発表した。対象市区町村の住民が、同日以降に車を買うか、運輸支局などで手続きすると付けられる

 同省によると、ほかは盛岡(岩手県)、郡山(福島県)、前橋(群馬県)、川口(埼玉県)、越谷(同)、杉並(東京都)。ご当地ナンバーは2006年に始まり、すでに会津(福島県)、富士山(山梨、静岡県)、豊田(愛知県)、倉敷(岡山県)、下関(山口県)など19種類ある。各地の要望を受け、同省が対象地域の自動車台数などに基づき、決めている。

 今回の10地域を加え、全国のナンバーに書かれた地名の総数は116となる。
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入管法の構造:認定→判定→裁決→退去強制令書発布処分/ 在留特別許可

2014-10-25 23:00:00 | 行政法学
 入管法(出入国管理及び難民認定法)の構造です。

 ポイントは、認定→判定→裁決 / 在留特別許可




1 退去強制

(退去強制)

第二十四条  次の各号のいずれかに該当する外国人については、次章に規定する手続により、本邦からの退去を強制することができる。
一  第三条の規定に違反して本邦に入つた者

二  入国審査官から上陸の許可等を受けないで本邦に上陸した者

二の二  第二十二条の四第一項(第一号又は第二号に係るものに限る。)の規定により在留資格を取り消された者

二の三  第二十二条の四第七項(第六十一条の二の八第二項において準用する場合を含む。)の規定により期間の指定を受けた者で、当該期間を経過して本邦に残留するもの

三  他の外国人に不正に前章第一節若しくは第二節の規定による証明書の交付、上陸許可の証印(第九条第四項の規定による記録を含む。)若しくは許可、同章第四節の規定による上陸の許可又は第一節、第二節若しくは次章第三節の規定による許可を受けさせる目的で、文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書若しくは図画を作成し、若しくは偽造若しくは変造された文書若しくは図画若しくは虚偽の文書若しくは図画を行使し、所持し、若しくは提供し、又はこれらの行為を唆し、若しくはこれを助けた者

三の二  公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律 (平成十四年法律第六十七号)第一条 に規定する公衆等脅迫目的の犯罪行為(以下この号において「公衆等脅迫目的の犯罪行為」という。)、公衆等脅迫目的の犯罪行為の予備行為又は公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者として法務大臣が認定する者

三の三  国際約束により本邦への入国を防止すべきものとされている者

三の四  次のイからハまでに掲げるいずれかの行為を行い、唆し、又はこれを助けた者
イ 事業活動に関し、外国人に不法就労活動(第十九条第一項の規定に違反する活動又は第七十条第一項第一号から第三号の二まで、第五号、第七号、第七号の二若しくは第八号の二から第八号の四までに掲げる者が行う活動であつて報酬その他の収入を伴うものをいう。以下同じ。)をさせること。

ロ 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置くこと。

ハ 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又はロに規定する行為に関しあつせんすること。

三の五  次のイからニまでに掲げるいずれかの行為を行い、唆し、又はこれを助けた者
イ 行使の目的で、在留カード若しくは日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法第七条第一項 に規定する特別永住者証明書(以下単に「特別永住者証明書」という。)を偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の在留カード若しくは特別永住者証明書を提供し、収受し、若しくは所持すること。

ロ 行使の目的で、他人名義の在留カード若しくは特別永住者証明書を提供し、収受し、若しくは所持し、又は自己名義の在留カードを提供すること。

ハ 偽造若しくは変造の在留カード若しくは特別永住者証明書又は他人名義の在留カード若しくは特別永住者証明書を行使すること。

ニ 在留カード若しくは特別永住者証明書の偽造又は変造の用に供する目的で、器械又は原料を準備すること。

四  本邦に在留する外国人(仮上陸の許可、寄港地上陸の許可、通過上陸の許可、乗員上陸の許可又は遭難による上陸の許可を受けた者を除く。)で次のイからヨまでに掲げる者のいずれかに該当するもの
イ 第十九条第一項の規定に違反して収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を専ら行つていると明らかに認められる者(人身取引等により他人の支配下に置かれている者を除く。)

ロ 在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間(第二十条第五項の規定により本邦に在留することができる期間を含む。第二十六条第一項及び第二十六条の二第二項において同じ。)を経過して本邦に残留する者

ハ 人身取引等を行い、唆し、又はこれを助けた者

ニ 旅券法 (昭和二十六年法律第二百六十七号)第二十三条第一項 (第六号を除く。)から第三項 までの罪により刑に処せられた者

ホ 第七十四条 から第七十四条の六の三 まで又は第七十四条の八 の罪により刑に処せられた者

ヘ 第七十三条 の罪により禁錮以上の刑に処せられた者

ト 少年法 (昭和二十三年法律第百六十八号)に規定する少年で昭和二十六年十一月一日以後に長期三年を超える懲役又は禁錮に処せられたもの

チ 昭和二十六年十一月一日以後に麻薬及び向精神薬取締法 、大麻取締法 、あへん法 、覚せい剤取締法 、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律 (平成三年法律第九十四号)又は刑法第二編第十四章 の規定に違反して有罪の判決を受けた者

リ ニからチまでに掲げる者のほか、昭和二十六年十一月一日以後に無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、執行猶予の言渡しを受けた者を除く。

ヌ 売春又はその周旋、勧誘、その場所の提供その他売春に直接に関係がある業務に従事する者(人身取引等により他人の支配下に置かれている者を除く。)

ル 他の外国人が不法に本邦に入り、又は上陸することをあおり、唆し、又は助けた者

オ 日本国憲法 又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入している者

ワ 次に掲げる政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入し、又はこれと密接な関係を有する者

(1) 公務員であるという理由により、公務員に暴行を加え、又は公務員を殺傷することを勧奨する政党その他の団体

(2) 公共の施設を不法に損傷し、又は破壊することを勧奨する政党その他の団体

(3) 工場事業場における安全保持の施設の正常な維持又は運行を停廃し、又は妨げるような争議行為を勧奨する政党その他の団体

カ オ又はワに規定する政党その他の団体の目的を達するため、印刷物、映画その他の文書図画を作成し、頒布し、又は展示した者

ヨ イからカまでに掲げる者のほか、法務大臣が日本国の利益又は公安を害する行為を行つたと認定する者

四の二  別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者で、刑法第二編第十二章 、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条 又は第二百六十一条 に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条 若しくは第十六条 の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条 若しくは第六条第一項 の罪により懲役又は禁錮に処せられたもの

四の三  短期滞在の在留資格をもつて在留する者で、本邦において行われる国際競技会等の経過若しくは結果に関連して、又はその円滑な実施を妨げる目的をもつて、当該国際競技会等の開催場所又はその所在する市町村の区域内若しくはその近傍の不特定若しくは多数の者の用に供される場所において、不法に、人を殺傷し、人に暴行を加え、人を脅迫し、又は建造物その他の物を損壊したもの

四の四  中長期在留者で、第七十一条の二又は第七十五条の二の罪により懲役に処せられたもの

五  仮上陸の許可を受けた者で、第十三条第三項の規定に基づき付された条件に違反して、逃亡し、又は正当な理由がなくて呼出しに応じないもの

五の二  第十条第七項若しくは第十一項又は第十一条第六項の規定により退去を命ぜられた者で、遅滞なく本邦から退去しないもの

六  寄港地上陸の許可、通過上陸の許可、乗員上陸の許可、緊急上陸の許可、遭難による上陸の許可又は一時庇護のための上陸の許可を受けた者で、旅券又は当該許可書に記載された期間を経過して本邦に残留するもの

六の二  第十六条第九項の規定により期間の指定を受けた者で、当該期間内に帰船し又は出国しないもの

七  第二十二条の二第一項に規定する者で、同条第三項において準用する第二十条第三項本文の規定又は第二十二条の二第四項において準用する第二十二条第二項の規定による許可を受けないで、第二十二条の二第一項に規定する期間を経過して本邦に残留するもの

八  第五十五条の三第一項の規定により出国命令を受けた者で、当該出国命令に係る出国期限を経過して本邦に残留するもの

九  第五十五条の六の規定により出国命令を取り消された者

十  第六十一条の二の二第一項若しくは第二項又は第六十一条の二の三の許可を受けて在留する者で、第六十一条の二の七第一項(第一号又は第三号に係るものに限る。)の規定により難民の認定を取り消されたもの



第二十四条の二  法務大臣は、前条第三号の二の規定による認定をしようとするときは、外務大臣、警察庁長官、公安調査庁長官及び海上保安庁長官の意見を聴くものとする。

2  外務大臣、警察庁長官、公安調査庁長官又は海上保安庁長官は、前条第三号の二の規定による認定に関し法務大臣に意見を述べることができる。



(出国命令)

第二十四条の三  第二十四条第二号の三、第四号ロ又は第六号から第七号までのいずれかに該当する外国人で次の各号のいずれにも該当するもの(以下「出国命令対象者」という。)については、同条の規定にかかわらず、次章第一節から第三節まで及び第五章の二に規定する手続により、出国を命ずるものとする。
一  速やかに本邦から出国する意思をもつて自ら入国管理官署に出頭したこと。

二  第二十四条第三号から第三号の五まで、第四号ハからヨまで、第八号又は第九号のいずれにも該当しないこと。

三  本邦に入つた後に、刑法第二編第十二章 、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条 又は第二百六十一条 に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条 若しくは第十六条 の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条 若しくは第六条第一項 の罪により懲役又は禁錮に処せられたものでないこと。

四  過去に本邦からの退去を強制されたこと又は第五十五条の三第一項の規定による出国命令により出国したことがないこと。

五  速やかに本邦から出国することが確実と見込まれること。



2 収容

(収容)

第三十九条  入国警備官は、容疑者が第二十四条各号の一に該当すると疑うに足りる相当の理由があるときは、収容令書により、その者を収容することができる。

2  前項の収容令書は、入国警備官の請求により、その所属官署の主任審査官が発付するものとする。


(容疑者の引渡)

第四十四条  入国警備官は、第三十九条第一項の規定により容疑者を収容したときは、容疑者の身体を拘束した時から四十八時間以内に、調書及び証拠物とともに、当該容疑者を入国審査官に引き渡さなければならない。

   


3 認定

  第三節 審査、口頭審理及び異議の申出



(入国審査官の審査)

第四十五条  入国審査官は、前条の規定により容疑者の引渡しを受けたときは、容疑者が退去強制対象者(第二十四条各号のいずれかに該当し、かつ、出国命令対象者に該当しない外国人をいう。以下同じ。)に該当するかどうかを速やかに審査しなければならない。

2  入国審査官は、前項の審査を行つた場合には、審査に関する調書を作成しなければならない。



(容疑者の立証責任)

第四十六条  前条の審査を受ける容疑者のうち第二十四条第一号(第三条第一項第二号に係る部分を除く。)又は第二号に該当するとされたものは、その号に該当するものでないことを自ら立証しなければならない。



(審査後の手続)

第四十七条  入国審査官は、審査の結果、容疑者が第二十四条各号のいずれにも該当しないと認定したときは、直ちにその者を放免しなければならない。

2  入国審査官は、審査の結果、容疑者が出国命令対象者に該当すると認定したときは、速やかに主任審査官にその旨を知らせなければならない。この場合において、入国審査官は、当該容疑者が第五十五条の三第一項の規定により出国命令を受けたときは、直ちにその者を放免しなければならない。

3  入国審査官は、審査の結果、容疑者が退去強制対象者に該当すると認定したときは、速やかに理由を付した書面をもつて、主任審査官及びその者にその旨を知らせなければならない

4  前項の通知をする場合には、入国審査官は、当該容疑者に対し、第四十八条の規定による口頭審理の請求をすることができる旨を知らせなければならない。

5  第三項の場合において、容疑者がその認定に服したときは、主任審査官は、その者に対し、口頭審理の請求をしない旨を記載した文書に署名させ、速やかに第五十一条の規定による退去強制令書を発付しなければならない。



4 判定

(口頭審理)

第四十八条  前条第三項の通知を受けた容疑者は、同項の認定に異議があるときは、その通知を受けた日から三日以内に、口頭をもつて、特別審理官に対し口頭審理の請求をすることができる。

2  入国審査官は、前項の口頭審理の請求があつたときは、第四十五条第二項の調書その他の関係書類を特別審理官に提出しなければならない。

3  特別審理官は、第一項の口頭審理の請求があつたときは、容疑者に対し、時及び場所を通知して速やかに口頭審理を行わなければならない。

4  特別審理官は、前項の口頭審理を行つた場合には、口頭審理に関する調書を作成しなければならない。

5  第十条第三項から第六項までの規定は、第三項の口頭審理の手続に準用する。

6  特別審理官は、口頭審理の結果、前条第三項の認定が事実に相違すると判定したとき(容疑者が第二十四条各号のいずれにも該当しないことを理由とする場合に限る。)は、直ちにその者を放免しなければならない。

7  特別審理官は、口頭審理の結果、前条第三項の認定が事実に相違すると判定したとき(容疑者が出国命令対象者に該当することを理由とする場合に限る。)は、速やかに主任審査官にその旨を知らせなければならない。この場合において、特別審理官は、当該容疑者が第五十五条の三第一項の規定により出国命令を受けたときは、直ちにその者を放免しなければならない。

8  特別審理官は、口頭審理の結果、前条第三項の認定が誤りがないと判定したときは、速やかに主任審査官及び当該容疑者にその旨を知らせるとともに、当該容疑者に対し、第四十九条の規定により異議を申し出ることができる旨を知らせなければならない。

9  前項の通知を受けた場合において、当該容疑者が同項の判定に服したときは、主任審査官は、その者に対し、異議を申し出ない旨を記載した文書に署名させ、速やかに第五十一条の規定による退去強制令書を発付しなければならない。




5 裁決


(異議の申出)

第四十九条  前条第八項の通知を受けた容疑者は、同項の判定に異議があるときは、その通知を受けた日から三日以内に、法務省令で定める手続により、不服の事由を記載した書面を主任審査官に提出して、法務大臣に対し異議を申し出ることができる。

2  主任審査官は、前項の異議の申出があつたときは、第四十五条第二項の審査に関する調書、前条第四項の口頭審理に関する調書その他の関係書類を法務大臣に提出しなければならない。

3  法務大臣は、第一項の規定による異議の申出を受理したときは、異議の申出が理由があるかどうかを裁決して、その結果を主任審査官に通知しなければならない。

4  主任審査官は、法務大臣から異議の申出(容疑者が第二十四条各号のいずれにも該当しないことを理由とするものに限る。)が理由があると裁決した旨の通知を受けたときは、直ちに当該容疑者を放免しなければならない。

5  主任審査官は、法務大臣から異議の申出(容疑者が出国命令対象者に該当することを理由とするものに限る。)が理由があると裁決した旨の通知を受けた場合において、当該容疑者に対し第五十五条の三第一項の規定により出国命令をしたときは、直ちにその者を放免しなければならない。

6  主任審査官は、法務大臣から異議の申出が理由がないと裁決した旨の通知を受けたときは、速やかに当該容疑者に対し、その旨を知らせるとともに、第五十一条の規定による退去強制令書を発付しなければならない。



6 在留特別許可


(法務大臣の裁決の特例)

第五十条  法務大臣は、前条第三項の裁決に当たつて、異議の申出が理由がないと認める場合でも、当該容疑者が次の各号のいずれかに該当するときは、その者の在留を特別に許可することができる。
一  永住許可を受けているとき。

二  かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき。

三  人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき。

四  その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。

2  前項の場合には、法務大臣は、法務省令で定めるところにより、在留資格及び在留期間を決定し、その他必要と認める条件を付することができる。

3  法務大臣は、第一項の規定による許可(在留資格の決定を伴うものに限る。)をする場合において、当該外国人が中長期在留者となるときは、入国審査官に、当該外国人に対し、在留カードを交付させるものとする。

4  第一項の許可は、前条第四項の規定の適用については、異議の申出が理由がある旨の裁決とみなす。

    第四節 退去強制令書の執行


7 退去強制令書


(退去強制令書の方式)

第五十一条  第四十七条第五項、第四十八条第九項若しくは第四十九条第六項の規定により、又は第六十三条第一項の規定に基づく退去強制の手続において発付される退去強制令書には、退去強制を受ける者の氏名、年齢及び国籍、退去強制の理由、送還先、発付年月日その他法務省令で定める事項を記載し、かつ、主任審査官がこれに記名押印しなければならない。
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県による開発行為の誤った許可に続く建築確認を取消すことで、違法建築を止める方法

2014-10-20 15:20:00 | 行政法学
(2014/10/11作成第1稿) 
 『事例研究 行政法』第2部問題4にある問題。

 県による開発行為の誤った許可に続く建築確認を取消すことで、違法建築を止める方法がひとつ考えられる。

第1、 設問1

1、 開発行為非該当証明書の交付行為の取消訴訟(行訴3条2項)

(1) 処分性について
ア、行政庁のある行為について、個別法が明文で行審法による不服申立や行訴法による取消訴訟の提起を認めている場合は、その行為には処分性が認められる。
 都市計画法50条(以下、「都計法」という。)には、開発審査会に対して審査請求をすることができる都道府県知事の行為を列挙しているが、開発行為非該当証明書(以下、「非該当証明書」という。)の交付行為の記載はなく、この点で処分性があるとはいえない。

イ、処分とは、行政庁の行為によって、直接国民の権利義務を形成し、または、その範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最判昭和39年10月29日)。
 非該当証明書の交付は、開発許可権者が建築計画に「土地の区画形質の変更」(法4条12項)を伴うか否かについて単なる事実を証明する効果があるに過ぎず、その交付行為は建築主(申請人)に証明された事実を通知する行為であり、交付行為によって、私人の権利義務の範囲を画するような性質のものとはいえない。従って、処分性は認められない。
 また、非該当証明書の交付は、法律にもとづくものではなく、都市計画法施行規則60条という省令にその根拠があるに過ぎないのであって、その点からも処分性は認められない。

ウ、非該当証明書の交付行為に処分性が認められないため、取消訴訟は不適法である。


2、開発行為非該当証明書の交付行為が違法であることの確認訴訟(行訴4条後段の実質的当事者訴訟)

 上述1で、処分性がないことから、甲県を被告とする確認訴訟を検討する。

(1) 確認の利益について
 確認の利益は、①確認対象選択の適否、②即時確定の利益、③方法選択の適否の三点から判断される。

 ①確認対象選択の適否について検討するに、確認訴訟は、第三者効のない公法上の当事者訴訟であり(行訴32条1項、41条)、処分の名宛人以外の第三者の確認訴訟の提起が紛争解決としては、適当とは言えない。
 確認の利益がないため、確認訴訟は不適法である。


3、 直接型義務付け訴訟(行訴3条6項1号、37条の2)

 甲県知事に対して、工事中止命令等の規制権限(都計法81条)の行使を求めることを求めることを検討する。

 訴訟の過程において、非該当証明書の交付行為の適法性の判断がなし得るため、この訴訟の提起は妥当であると考える。


4、 建築確認取消訴訟(行訴3条2項)と甲県知事の訴訟参加の申立(行訴法23条)、建築確認の執行停止の申立(行訴25条)

 Bのなした建築確認を取消しを検討する。

(1) 被告について
 被告は、Bである(行訴法11条2項)。

(2) Bの建築確認審査における、非該当証明書の適法性の審査について

ア、建築主事は、建築確認の際に、都市計画法の規定の適合性の審査は、建築確認申請の受理要件である都市計画法29条1項に適合していることを証明する書面(以下、「適合証明書」という。)が添付されていることを形式的、外的的に審査することとされている(資料3)。

イ、本事例でも、Bは、通達に従い、適合証明書のひとつである非該当証明書の交付行為について、これが添付されているか否かという形式的、外形的審査をして建築確認をしている。結果として、開発許可が必要な本件開発区域が、開発許可なく建築確認が出されている。

ウ、建築確認に先行する処分性のない行政庁の行為の違法は、たとえ、建築主事等が形式的、外形的審査しかなしえないとしても、建築確認取消訴訟で非該当証明書の交付行為の違法を争いうると考えるべきである。
 なぜならば、争えないとなると、本件の場合のように、建築確認において、第三者の周辺住民が、処分性のない違法な先行行為を争いうる途が閉ざされかねないのであって、違法な行政庁の行為によって侵害された国民の権利利益の司法的救済を目的とする行訴法の趣旨に反し、合理性を欠くからである。

エ、ただし、被告Bは、非該当証明書の交付行為について、実質的審査をなしえないため、当該交付行為をなした開発許可権者たる甲県知事の訴訟参加を申し立てることが妥当と考える。

(3)仮処分の申立について

 建築物の完成で、訴えの利益が消滅するため、建築確認の執行停止の申立も同時に行う。



第2、 設問2

1、 棄却裁決の場合
 Xらは、Bを被告として(行訴11条2項)、開発行為非該当証明書の交付行為が違法であることを主張し、建築確認の取消訴訟を提起しうる。

 また、裁決は乙市の建築審査会がなしたのであるから、乙市を被告として(行訴法11条1項2号)、当該棄却裁決の取消訴訟(行訴3条3項)を提起しうる。

2、 建築確認の取消裁決の場合
(1) Aについて
 Aは、乙市を被告として(行訴法11条1項2号)、取消裁決の取消訴訟(行訴法3条3項)を提起しうる。

(2) 指定確認検査機関Bについて
ア、原処分庁が審査会の裁決の違法を争う訴訟は、行政機関相互の訴訟であり、機関訴訟(行訴6条)が可能かを検討する。

イ、機関訴訟は、権利義務の存否に関する法律上の争訟(裁判所法3条1項)ではないので、法律の定めがないと訴えは提起できない(行訴42条)。

ウ、また、指定確認検査機関の法制度上の位置づけを考えるに、

①指定確認検査機関の確認事務も建築主事の確認事務と同様に地方公共団体の自治事務であること、

②指定確認検査機関の確認等は建築主事の確認等とみなされること、

③指定確認検査機関は建築主事と同様に特定行政庁の監督の下において確認事務等を行っていること(建基4条、6条、6条の2)(以上、最決平成17年6月24日)、及び、不服申立てについて、指定確認検査機関を建築主事と同様に処分庁として取り扱っていること(建基94条)から、指定確認検査機関と建築主事は、建築確認について同様の法的地位にあると解しうる。

 建築主事の場合は、自らがした建築確認の取消裁決の取消訴訟は提起できないと解されるところ、指定確認検査機関もまた、上述のように建築主事と同様の法的地位にあるから、建築確認の取消裁決の取消訴訟は提起できないと考える。


第3、 設問3
 行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
 そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(最高裁平成元年(行ツ)第一三〇号同四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁参照)。

 都計法33条1項7号は、公益にとどまらず開発区域の周辺住民の個々人の生命・身体の安全という個別的利益をも保護の対象としている。

 本件においては、近接する開発区域はがけ崩れのおそれが多い土地などに当たり、絶えずがけ地崩壊等の危険にさらされ、その崩壊があった場合には、生命・身体・所有財産が危機に陥る蓋然性があるのであって、本件建築確認処分がなされると、都計法33条1項7号違反ゆえに生命・身体・所有財産が危機に陥る者は、原告適格を有すると言える。

 従って、開発区域の崖地に近接する位置に居住している者と、遠隔地に居住してはいるが近接地に土地・家屋等の所有権を有している者は、開発許可を経ない当該建築に起因する崖崩れで生命・身体・財産が危機に陥る蓋然性が高く、原告適格を有すると考える。
 一方、日常的にがけ地上の道路を通行・散策している者は、直接に崖崩れに巻き込まれ生命・身体が危機に陥る蓋然性が高いとまでは言えないため、原告適格は有しないと考える。


以上

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医薬品ネット販売の権利確認等請求事件(最高裁H25.1.11)を考察する。

2014-10-12 23:00:00 | 行政法学

H25の最重要判例のひとつ、医薬品ネット販売の権利確認等請求事件(最高裁H25.1.11)を考察します。



【事案の概要】
平成18年法律第69号1条の規定による改正後の薬事法(以下「新薬事法」という。)の施行に伴って平成21年厚生労働省令第10号により改正された薬事法施行規則(以下「新施行規則」という。)において,店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売又は授与(以下「郵便等販売」という。)は一定の医薬品に限って行うことができる旨の規定及びそれ以外の医薬品の販売若しくは授与又は情報提供はいずれも店舗において薬剤師等の専門家との対面により行わなければならない旨の規定が設けられたことについて,インターネットを通じた郵便等販売を行う事業者である被上告人らが,新施行規則の上記各規定は郵便等販売を広範に禁止するものであり,新薬事法の委任の範囲外の規制を定める違法なものであって無効であるなどと主張して,上告人を相手に,新施行規則の規定にかかわらず郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認(行訴法4条後段実質的当事者訴訟)等を求める事案である。(最判 判決理由1)



【訴訟選択】
1,原告らは,医薬品の店舗販売業の許可を受けた者とみなされる既存一般販売業者として,平成21年厚生労働省令第10号による改正後の薬事法施行規則の規定にかかわらず,第一類医薬品及び第二類医薬品につき店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による販売をすることができる権利(地位)を有することを確認する。(行訴法4条後段実質的当事者訴訟)

2,厚生労働大臣が平成21年2月6日に公布した薬事法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第10号)のうち,薬事法施行規則に15条の4第1項1号,159条の14,159条の15第1項1号,159条の16第1号並びに159条の17第1号及び第2号の各規定を加える改正規定が無効であることを確認する。(行訴法3条4項)

(予備的請求)
3, 前項の省令の改正規定を取り消す。(行訴法3条2項)


【争点】
1,本件無効確認の訴え及び本件取消しの訴えの適法性(本案前の争点)
2,本件地位確認の訴えの適法性(本案前の争点)
3,本件改正規定の適法性・憲法適合性(本案の争点)
   ア 委任命令としての適法性
   イ 本件規制の憲法適合性
   ウ 省令制定手続の適法性

【裁判所の判断】
1, 第1審(東京地判平成22・3・30)
○省令制定行為の処分性を否定→無効確認の訴え及び本件取消しの訴え却下

○地位確認の訴えの適法性→確認の利益あり

○委任の趣旨は、一般用医薬品の安全性確保のためリスクの程度に応じた販売などの適切な方法・態様を専門・技術的裁量判断に委ねるもので、その結果「一定の販売方法を採ることができなくなること」があっても、規制の必然的な随伴結果である委任の範囲内である。また、対面販売の義務づけと郵便など販売方法の禁止には必要性と合理性がある→請求棄却


2, 控訴審(東京高判平成24・4・26)
○ 訴訟要件→第1審と同様の判断

○ 郵便等販売規制は、憲法22条1項で保障される営業の自由を制限するから、「その委任規定については、明確性が求められると同時に、委任規定の立法過程において、その制限される権利について合憲性の推定が働くような資料に基づく議論」を要す。しかし、新薬事法36条の5等の規定は、明示的に対面販売を義務づけておらず、また、営業の自由に対する規制を省令に委任するに当たって、立法目的を達成するための手段の合理性を基礎づける検証・検討がない。そのため、郵便等販売を規制する新施行規則の各規定は、「新薬事法の委任の趣旨の範囲を逸脱した違法な規定であり、国家行政組織法12条3項に違反し、無効である」→原判決の一部を取消し、請求の一部を認容。国が上告。


3, 最高裁(第二小法廷平成25・1・11)
○ 上告棄却

○ 判旨 「」は判決文から原文抜粋
「薬事法が医薬品の製造,販売等について各種の規制を設けているのは,医薬品が国民の生命及び健康を保持する上での必需品であることから,医薬品の安全性を確保し,不良医薬品による国民の生命,健康に対する侵害を防止するためである(最高裁平成元年(オ)第1260号同7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁参照、クロロキン薬害訴訟最高裁判決)。このような規制の具体化に当たっては,医薬品の安全性や有用性に関する厚生労働大臣の医学的ないし薬学的知見に相当程度依拠する必要があるところである。」

「旧薬事法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は,郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかである。これらの事情の下で,厚生労働大臣が制定した郵便等販売を規制する新施行規則の規定が,これを定める根拠となる新薬事法の趣旨に適合するもの(行政手続法38条1項)であり,その委任の範囲を逸脱したものではないというためには,立法過程における議論をもしんしゃくした上で,新薬事法36条の5及び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て,そこから,郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が,上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するものというべきである。」

しかるところ,新施行規則による規制は,
①新薬事法36条の5及び36条の6は,いずれもその文理上義務付けていないことはもとより,その必要性等について明示的に触れているわけでもなく,

②医薬品に係る販売又は授与の方法等の制限について定める新薬事法37条1項も,郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな旧薬事法当時から実質的に改正されていない。

また,

③新薬事法の他の規定中にも,郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示すものは存在しない。

なお,④法案の国会審議等において,郵便等販売の安全性に懐疑的な意見が多く出されたが,それにもかかわらず郵便等販売に対する新薬事法の立場は不分明であり,その理由が立法過程での議論を含む事実関係等からも全くうかがわれないことからすれば,そもそも国会が新薬事法を可決するに際して第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を禁止すべきであるとの意思を有していたとはいい難い。

そうすると,新薬事法の授権の趣旨が,第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして,上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難であるというべきである。



【本判決の意義など】
1、 クロロキン薬害訴訟最高裁判決を引用しつつ、医薬品の製造・販売規制の趣旨を踏まえ、営業の自由に対する制限を新たに委任命令で課す場合に法律による明示の委任が必要となることを確認し、前期規定を違法無効として、原告らの第一類・第二類医薬品の郵便等販売できる権利(地位)を確認した判決。

2、 規範定立行為は、処分と実質的に同一視できる場合を除き、不特定多数者に対し一般的な法的効力を有するにとどまるため、処分性を否定する一方、新施行規則違反に対する制裁前に行政立法の違憲・違法を争う確認の訴え(実質的当事者訴訟)を認めた判決。
→予防的機能に着目すると、差止訴訟など抗告訴訟(無名抗告訴訟も含む)との連続性・相互関連が検討課題として残っている(平成24年重要判例解説 下山憲治 名古屋大学教授)


【関連法令】(注、争われた当時の法令です。)
〇薬事法(薬事法の一部を改正する法律 平成18年法律69号)
(一般用医薬品の販売に従事する者)
第三十六条の五  薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、厚生労働省令で定めるところにより、一般用医薬品につき、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める者に販売させ、又は授与させなければならない。
一  第一類医薬品 薬剤師
二  第二類医薬品及び第三類医薬品 薬剤師又は登録販売者
(情報提供等)
第三十六条の六  薬局開設者又は店舗販売業者は、その薬局又は店舗において第一類医薬品を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師をして、厚生労働省令で定める事項を記載した書面を用いて、その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない。
2  薬局開設者又は店舗販売業者は、その薬局又は店舗において第二類医薬品を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者をして、その適正な使用のために必要な情報を提供させるよう努めなければならない。
3  薬局開設者又は店舗販売業者は、その薬局若しくは店舗において一般用医薬品を購入し、若しくは譲り受けようとする者又はその薬局若しくは店舗において一般用医薬品を購入し、若しくは譲り受けた者若しくはこれらの者によつて購入され、若しくは譲り受けられた一般用医薬品を使用する者から相談があつた場合には、厚生労働省令で定めるところにより、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者をして、その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない。
4  第一項の規定は、医薬品を購入し、又は譲り受ける者から説明を要しない旨の意思の表明があつた場合には、適用しない。
5  配置販売業者については、前各項の規定を準用する。この場合において、第一項及び第二項中「薬局又は店舗」とあるのは「業務に係る都道府県の区域」と、「販売し、又は授与する場合」とあるのは「配置する場合」と、第一項から第三項までの規定中「医薬品の販売又は授与」とあるのは「医薬品の配置販売」と、同項中「その薬局若しくは店舗において一般用医薬品を購入し、若しくは譲り受けようとする者又はその薬局若しくは店舗において一般用医薬品を購入し、若しくは譲り受けた者若しくはこれらの者によつて購入され、若しくは譲り受けられた一般用医薬品を使用する者」とあるのは「配置販売によつて一般用医薬品を購入し、若しくは譲り受けようとする者又は配置した一般用医薬品を使用する者」と読み替えるものとする。


〇薬事法施行規則(平成21年厚生労働省令10号による改正後のもの。)
(薬剤師又は登録販売者による医薬品の販売等)
第百五十九条の十四  薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、法第三十六条の五 の規定により、第一類医薬品については、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に、自ら又はその管理及び指導の下で登録販売者若しくは一般従事者をして、当該薬局若しくは店舗又は当該区域における医薬品を配置する場所(医薬品を配置する居宅その他の場所をいう。以下この条及び第百五十九条の十八において準用する次条から第百五十九条の十七までにおいて同じ。)(以下「当該薬局等」という。)において、対面で販売させ、又は授与させなければならない。
2  薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、法第三十六条の五 の規定により、第二類医薬品又は第三類医薬品については、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者に、自ら又はその管理及び指導の下で一般従事者をして、当該薬局等において、対面で販売させ、又は授与させなければならない。ただし、…

(一般用医薬品に係る情報提供の方法等)
第百五十九条の十五  薬局開設者又は店舗販売業者は、法第三十六条の六第一項 の規定による情報の提供を、次に掲げる方法により、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に行わせなければならない。
一  当該薬局又は店舗内の情報提供を行う場所(薬局等構造設備規則第一条第一項第十号 若しくは第二条第九号 に規定する情報を提供するための設備がある場所又は同令第一条第一項第四号 若しくは第二条第四号 に規定する医薬品を通常陳列し、若しくは交付する場所をいう。次条及び第百五十九条の十七において同じ。)において、対面で行わせること。

第百五十九条の十七  薬局開設者又は店舗販売業者は、法第三十六条の六第三項 の規定による情報の提供を、次に掲げる方法により、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者に行わせなければならない。
一  第一類医薬品の情報の提供については、当該薬局又は店舗内の情報提供を行う場所において、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に対面で行わせること。
二  第二類医薬品又は第三類医薬品の情報の提供については、当該薬局又は店舗内の情報提供を行う場所において、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者に対面で行わせること。

(準用)
第百四十二条  店舗販売業者については、第二条から第七条まで(同条第六号及び第八号を除く。)、第十二条から第十五条の四まで、第十五条の十五、第十六条(第一項第七号を除く。)及び第十八条の規定を準用する。この場合において、第二条中「様式第二」とあるのは「様式第七十七」と、第六条、第十五条の四第二項及び第十六条第四項中「都道府県知事」とあるのは「都道府県知事(その店舗の所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、市長又は区長)」と、第六条中「様式第五」とあるのは「様式第七十八」と、第十二条第一項中「別に厚生労働省令で定めるところにより厚生労働大臣の登録を受けた試験検査機関(以下「登録試験検査機関」という。)」とあるのは「当該店舗販売業者の他の試験検査設備又は登録試験検査機関」と、第十六条第三項中「されている都道府県知事」とあるのは「されている都道府県知事(その店舗の所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、市長又は区長)」と読み替えるものとする。

(郵便等販売の方法等)
第十五条の四  薬局開設者は、郵便等販売を行う場合は、次に掲げるところにより行わなければならない。
一  第三類医薬品以外の医薬品を販売し、又は授与しないこと。



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場外車券販売施設から生活環境利益保護のため周辺医療機関が裁判提起可能

2014-09-30 23:00:00 | 行政法学
 誰が裁判を提起できるか、裁判を提起できる資格のありなし(原告適格)は、
 行政訴訟においても大事な問題です。

 以下の最高裁判決は、場外施設をめぐる周辺住民等の原告適格を判断した最初の最高裁の判決です。

 評釈では、「本判決が周辺住民に訴訟で争う途を閉ざした意味は重い」など批判もありますが、本判決により、場外車券発売施設設置許可に対する訴訟において、周辺医療機関の開設者X2,X3,X4(施設から120m 180m 200m)は、原告適格がありとされました(実際は、差し戻し審大阪地裁H24・2・29で原告適格は認められました。)。ちなみに800mの医療機関開設者X1は原告適格が認められませんでした。

 医療機関開設者は、生活環境利益を保護するために、裁判を提起する資格が認められます。

 ただ、生活環境利益の保護を理由に、裁判に、勝つには、次なるハードルがあります。



***********************判決文全文*******************************
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/073/038073_hanrei.pdf

主文

1 原判決中被上告人X1に関する部分を破棄する。

2 その余の被上告人らに関する部分につき,原判決を
次のとおり変更する。
(1) 第1審判決中,被上告人X2,同X3及び同X4に関する部分を取り消し,同部分につき,本件を大阪地方裁判所に差し戻す。
(2) その余の被上告人らの控訴を棄却する。
3 前項(2)の被上告人らの請求に関する控訴費用及び 上告費用は,同被上告人らの負担とする。
4 本件訴訟のうち被上告人X1に関する部分は,平成 19年12月13日同被上告人の死亡により終了し た。


理由

第1 職権による検討
記録によれば,被上告人X1は原判決言渡し前である平成19年12月13日に 死亡したことが明らかである。本件訴訟は,被上告人が死亡した場合においてはこ れを承継する余地がなく当然に終了するものと解すべきであるから,原判決中同被 上告人に関する部分を破棄し,同被上告人の死亡により本件訴訟が終了したことを 宣言することとする。
第2 上告代理人貝阿彌誠ほかの上告受理申立て理由について 1 本件は,経済産業大臣がA(以下「A」という。)に対し自転車競技法(平
-1-
成19年法律第82号による改正前のもの。以下「法」という。)4条2項に基づ き場外車券発売施設「サテライト大阪」(以下「本件施設」という。)の設置の許 可(以下「本件許可」という。)をしたところ,本件施設の周辺において病院等を 開設するなどして事業を営み又は居住する被上告人ら(被上告人X1を除く。以下 同じ。)が,本件許可は場外車券発売施設の設置許可要件を満たさない違法なもの であるなどと主張して,上告人に対しその取消しを求める事案である。
2 原審が確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) Aは,大阪市中央区日本橋1丁目所在の土地(以下「本件敷地」とい う。)に本件施設を設置することとし,経済産業大臣から平成17年9月26日付 けで本件許可を受けた。
(2) Aが作成した資料によれば,本件施設は,鉄骨造,7階建て,地下1階の 建物(高さ29.2m,延べ床面積8121.30m²)であり,同社から競輪施行 者(岸和田市)に対して賃貸され,競輪施行者においてその運営等を行うこととさ れている。また,本件施設における営業の日数として年間340日が予定され,1 日当たり約1700人の来場が見込まれている。
(3) 本件敷地は,大阪市営地下鉄の日本橋駅及び近鉄奈良線の近鉄日本橋駅に ほど近い大阪府道恵美須南森町線(堺筋)に面した商業地域に所在しており,建築 基準法48条及び同法別表第二により場外車券発売施設(以下「場外施設」とい う。)の設置が禁じられる地域やこれに隣接して所在するものではなく,また,こ れらと同様の実質を備えた地域に所在するものでもない。被上告人らのうち,被上 告人X2,同X3,同X4及び同X5は,それぞれ本件敷地から約120m,約180 m,約200m及び約800m離れた場所に,いずれも病院又は診療所を開設する
-2-
医師である。その余の被上告人らは,いずれも,本件敷地から1000m以内の地 域において居住し又は事業を営む者である。
(4) 法4条2項は,経済産業大臣は,場外施設の設置許可の申請があったとき は,申請に係る施設の位置,構造及び設備が経済産業省令で定める基準に適合する 場合に限り,その許可をすることができる旨規定している。そして,これを受け, 自転車競技法施行規則(平成18年経済産業省令第126号による改正前のもの。 以下「規則」という。)15条1項は,上記の基準として,1 学校その他の文教 施設及び病院その他の医療施設(以下,これらを併せて「医療施設等」という。) から相当の距離を有し,文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがないこと (同項1号。以下,この基準を「位置基準」という。),2 施設の規模,構造及 び設備並びにこれらの配置は周辺環境と調和したものであること(同項4号。以 下,この基準を「周辺環境調和基準」という。)を定めている。また,規則14条 2項は,場外施設の設置許可申請書に,敷地の周辺から1000m以内の地域にあ る医療施設等の位置及び名称を記載した場外施設付近の見取図,場外施設を中心と する交通の状況図並びに場外施設の配置図を添付すべき旨を定めている。
3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判示して,被上告人らは いずれも本件許可の取消しを求める原告適格を有すると判断し,原告適格を否定し て被上告人らの訴えをすべて却下した第1審判決を取り消して本件を第1審に差し 戻すべきものとした。
法及び規則の趣旨,目的に反する場外施設の設置許可がされた場合,そのような 施設に起因する善良な風俗及び生活環境に対する悪影響を直接的に受けるのは,当 該場外施設の周辺の一定範囲の地域において居住し又は事業を営む住民に限られ,
-3-
その被害の程度は,居住地や事業地が当該場外施設に接近するにつれて増大する。 また,これらの住民が,当該地域において居住し又は事業を営み続けることにより 上記の被害を反復,継続して受けた場合,その被害は,これらの住民のストレス等 の健康被害や生活環境に係る著しい被害にも至りかねず,そのような被害を受けな い利益は,一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものである。規則が,場 外施設の設置許可申請者に対し,その敷地の周辺から1000m以内の地域にある 医療施設等の位置及び名称を記載した見取図を添付することを求め,また,位置基 準及び周辺環境調和基準を定めていることにかんがみると,これらの規定は,当該 場外施設の敷地の周辺から1000m以内の地域において居住し又は事業を営む住 民に対し,違法な場外施設の設置許可に起因する善良な風俗及び生活環境に対する 著しい被害を受けないという具体的利益を保護したものと解するのが相当であり, 被上告人らは,いずれも本件許可の取消しを求める原告適格を有するものと解され る。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次 のとおりである。
(1) 行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1 項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該 処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵 害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多 数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属 する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解され る場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処
-4-
分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取 消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判 断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることな く,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及 び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっ ては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参 酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠とな る法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれ が害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項,最高裁平成16年 (行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁 参照)。
(2) 上記の見地に立って,被上告人らが本件許可の取消しを求める原告適格を 有するか否かについて判断する。
ア 一般的に,場外施設が設置,運営された場合に周辺住民等が被る可能性のあ る被害は,交通,風紀,教育など広い意味での生活環境の悪化であって,その設 置,運営により,直ちに周辺住民等の生命,身体の安全や健康が脅かされたり,そ の財産に著しい被害が生じたりすることまでは想定し難いところである。そして, このような生活環境に関する利益は,基本的には公益に属する利益というべきであ って,法令に手掛りとなることが明らかな規定がないにもかかわらず,当然に,法 が周辺住民等において上記のような被害を受けないという利益を個々人の個別的利 益としても保護する趣旨を含むと解するのは困難といわざるを得ない。
-5-
イ 位置基準は,場外施設が医療施設等から相当の距離を有し,当該場外施設に おいて車券の発売等の営業が行われた場合に文教上又は保健衛生上著しい支障を来 すおそれがないことを,その設置許可要件の一つとして定めるものである。場外施 設が設置,運営されることに伴う上記の支障は,基本的には,その周辺に所在する 医療施設等を利用する児童,生徒,患者等の不特定多数者に生じ得るものであっ て,かつ,それらの支障を除去することは,心身共に健康な青少年の育成や公衆衛 生の向上及び増進といった公益的な理念ないし要請と強くかかわるものである。そ して,当該場外施設の設置,運営に伴う上記の支障が著しいものといえるか否か は,単に個々の医療施設等に着目して判断されるべきものではなく,当該場外施設 の設置予定地及びその周辺の地域的特性,文教施設の種類・学区やその分布状況, 医療施設の規模・診療科目やその分布状況,当該場外施設が設置,運営された場合 に予想される周辺環境への影響等の事情をも考慮し,長期的観点に立って総合的に 判断されるべき事柄である。規則が,場外施設の設置許可申請書に,敷地の周辺か ら1000m以内の地域にある医療施設等の位置及び名称を記載した見取図のほ か,場外施設を中心とする交通の状況図及び場外施設の配置図を添付することを義 務付けたのも,このような公益的見地からする総合的判断を行う上での基礎資料を 提出させることにより,上記の判断をより的確に行うことができるようにするとこ ろに重要な意義があるものと解される。
このように,法及び規則が位置基準によって保護しようとしているのは,第一次 的には,上記のような不特定多数者の利益であるところ,それは,性質上,一般的 公益に属する利益であって,原告適格を基礎付けるには足りないものであるといわ ざるを得ない。したがって,場外施設の周辺において居住し又は事業(医療施設等
-6-
に係る事業を除く。)を営むにすぎない者や,医療施設等の利用者は,位置基準を
根拠として場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有しないものと解され
る。
ウ もっとも,場外施設は,多数の来場者が参集することによってその周辺に享 楽的な雰囲気や喧噪といった環境をもたらすものであるから,位置基準は,そのよ うな環境の変化によって周辺の医療施設等の開設者が被る文教又は保健衛生にかか わる業務上の支障について,特に国民の生活に及ぼす影響が大きいものとして,そ の支障が著しいものである場合に当該場外施設の設置を禁止し当該医療施設等の開 設者の行う業務を保護する趣旨をも含む規定であると解することができる。したが って,仮に当該場外施設が設置,運営されることに伴い,その周辺に所在する特定 の医療施設等に上記のような著しい支障が生ずるおそれが具体的に認められる場合 には,当該場外施設の設置許可が違法とされることもあることとなる。
このように,位置基準は,一般的公益を保護する趣旨に加えて,上記のような業 務上の支障が具体的に生ずるおそれのある医療施設等の開設者において,健全で静 穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益を,個々の開設者の個別的利益 として保護する趣旨をも含む規定であるというべきであるから,当該場外施設の設
置,運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区
域に医療施設等を開設する者は,位置基準を根拠として当該場外施設の設置許可の
取消しを求める原告適格を有するものと解される。そして,このような見地から,
当該医療施設等の開設者が上記の原告適格を有するか否かを判断するに当たって
は,当該場外施設が設置,運営された場合にその規模,周辺の交通等の地理的状況
等から合理的に予測される来場者の流れや滞留の状況等を考慮して,当該医療施設
-7-
等が上記のような区域に所在しているか否かを,当該場外施設と当該医療施設等と
の距離や位置関係を中心として社会通念に照らし合理的に判断すべきものと解する
のが相当である。
なお,原審は,場外施設の設置許可申請書に,敷地の周辺から1000m以内の 地域にある医療施設等の位置及び名称を記載した見取図等を添付すべきことを義務 付ける定めがあることを一つの根拠として,上記地域において医療等の事業を営む 者一般に上記の原告適格を肯定している。確かに,上記見取図は,これに記載され た個々の医療施設等に前記のような業務上の支障が生ずるか否かを審査する際の資 料の一つとなり得るものではあるが,場外施設の設置,運営が周辺の医療施設等に 対して及ぼす影響はその周辺の地理的状況等に応じて一様ではなく,上記の定めが 上記地域において医療等の事業を営むすべての者の利益を個別的利益としても保護 する趣旨を含むとまでは解し難いのであるから,このような地理的状況等を一切問 題とすることなく,これらの者すべてに一律に上記の原告適格が認められるとする ことはできないものというべきである。
エ これを本件について見ると,前記事実関係等によれば,本件敷地の周辺にお いて医療施設を開設する被上告人らのうち,被上告人X5は,本件敷地の周辺から 約800m離れた場所に医療施設を開設する者であり,本件敷地周辺の地理的状況 等にかんがみると,当該医療施設が本件施設の設置,運営により保健衛生上著しい 支障を来すおそれがあると位置的に認められる区域内に所在しているとは認められ ないから,同被上告人は,位置基準を根拠として本件許可の取消しを求める原告適 格を有しないと解される。これに対し,その余の被上告人X2,同X3及び同X4 (以下,併せて「被上告人X2ら3名」という。)は,いずれも本件敷地の周辺か
-8-
ら約120mないし200m離れた場所に医療施設を開設する者であり,前記の考 慮要素を勘案することなく上記の原告適格を有するか否かを的確に判断することは 困難というべきである。
オ 次に,周辺環境調和基準は,場外施設の規模,構造及び設備並びにこれらの 配置が周辺環境と調和したものであることをその設置許可要件の一つとして定める ものである。同基準は,場外施設の規模が周辺に所在する建物とそぐわないほど大 規模なものであったり,いたずらに射幸心をあおる外観を呈しているなどの場合 に,当該場外施設の設置を不許可とする旨を定めたものであって,良好な風俗環境 を一般的に保護し,都市環境の悪化を防止するという公益的見地に立脚した規定と 解される。同基準が,場外施設周辺の居住環境との調和を求める趣旨を含む規定で あると解したとしても,そのような観点からする規制は,基本的に,用途の異なる 建物の混在を防ぎ都市環境の秩序ある整備を図るという一般的公益を保護する見地 からする規制というべきである。また,「周辺環境と調和したもの」という文言自 体,甚だ漠然とした定めであって,位置基準が上記のように限定的要件を明確に定 めているのと比較して,そこから,場外施設の周辺に居住する者等の具体的利益を 個々人の個別的利益として保護する趣旨を読み取ることは困難といわざるを得な い。
したがって,被上告人らは,周辺環境調和基準を根拠として本件許可の取消しを
求める原告適格を有するということはできないというべきである。
他に,被上告人X2ら3名を除く被上告人らにおいて本件許可の取消しを求める 原告適格を有すると認めるに足りる事情は存在しないから,これらの被上告人ら は,本件許可の取消しを求める原告適格を有しないものと解される。
-9-
5 以上のとおり,被上告人らが本件許可の取消しを求める原告適格を有すると した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨 はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決のうち,被上告人X2ら3名を除 く被上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして,第1審判決中,被上告人X 2ら3名の訴えを却下した部分はこれを取り消し,同被上告人らが上記の原告適格 を有するか否か等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を第1 審に差し戻すのが相当である。また,第1審判決中,その余の被上告人らの訴えを 却下した部分に関する判断は,結論において相当であるから,同部分につき同被上 告人らの控訴を棄却することとする。これと異なる原判決は主文第2項のとおり変 更すべきである。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 涌井紀夫 裁判官 宮川光治 裁判官櫻井龍子 裁判官 金築誠志)
- 10 -
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情報公開条例をたてに情報を出さない行政から、いかに公開を勝ち取るか(事例研究第2部問題1を例に)

2014-09-29 23:00:00 | 行政法学
(事例研究行政法「第二部第1問土地買収価格の公開をめぐる紛争」を題材に)
  
第1 設問1 

1、本件取消訴訟における原告Xの違法性の主張について

(1)条例8条1項4号該当性について
 Xがなした道路拡幅工事用地として買収した土地に関して作成された文書P(以下、「同文書」という。)の公開をもとめたところ、Yは、「各土地の買収価格と単価」(以下、「本件非公開部分」という。)が、条例8条1項4号に該当するとして、非公開とした。
 同号には、「当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれ」と規定があるものの、①当該事務は、すでに土地を買収し目的を達成した結果としての情報であるし、また、②同種の事務として、道路拡張工事の他の地域の買収を考えたとしても、その地域の土地の価格はその地域の周辺地域の類似の土地の地価によって定まる損失補償基準が用いられているものであって、非公開とした土地の買収価格が公開されたからと言っても、目的が達成できなくなることや、著しい支障が及ぼされるとまでは言えない。
 従って、同号に該当せず、本件非公開処分は、取り消されるべきである。


(2)条例11条1項該当性について
 また、たとえ条例8条1項4号に該当する情報であったとしても、条例11条1項では、「公益上特に必要があると認めるとき」は、公開することを定める。
 本件非公開部分の情報は、道路拡幅工事において適正な価格で土地が買収されたかを示すもので、適正な公金支出がなされていることを知るために、公益上特に必要があると言える。
 従って、同項に該当し、本件非公開処分は、取り消されるべきである。


(3)手続法上の違法性について
 非公開処分においては、理由付記義務が定められている(条例13条3項)。すなわち、非公開決定には理由を付さなければならない。
 本件では、単に該当する条文を指摘するだけであり、具体的に非公開事由に該当することの説明がなく、十分な理由の付記がない。
 従って、非公開処分は、適切な手続きに則らずになされており、説明責任を果たすことで県民の県政への参加を推進し、県民の県政への信頼を深めるという情報公開条例の趣旨(条例1条参照)に大きく反し、条例13条3項1号違反であるが故に、本件非公開処分は、取り消されるべきである。



2、本件取消訴訟における被告行政Yの非公開処分の適法性の主張について

(1)条例8条1項4号該当性について
 公共事業用地の買収は、土地を手放したくない土地所有者に対して公共事業への理解を求め、何度も足を運んで納得してもらって買収に至るという説得に時間を要する事務であり、買収価格が明らかになると、今後同種の公共事業について買収交渉をする際にも困難が予想される。特に、道路Qの拡幅工事において、買収はほとんど終わっていたが、一部にまだ交渉中の土地も残っており、さらに、今後同種の道路工事を近くでも予定している状況であった。
 ①公共事業用地の買収という事務の特性を鑑みると、本件非公開部分の公開により、土地所有者は、同じ道路Qの拡幅工事であるというだけで、公開された土地価格と自らの土地の価格を土地の特性など考慮に入れることなく単純に比較することとなり、両者の差が大きい場合において、買収の説得作業が難航する可能性があるのであって、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなるか、又は著しく支障が来されることになるおそれがある。
 また、②今後、同種の道路事業が計画されており、買収価格が公開されると、それら事業における土地買収の交渉にも同様に支障を来すことが考えられる。
 従って、同号に該当し、非公開処分は、適法である。

(2)条例11条1項該当性について
 条例11条の公益上の判断には、行政に裁量が与えられている。
 本件非公開部分の情報は、個別の土地の値段であって、公益上特に重要なものとはいえないと判断することは、裁量権の逸脱濫用とまでは言えない。
 道路Qの拡幅工事への公金支出の適正をみるのであれば、別途、決算資料で把握すればよいわけであって、その点からも公益上特に重要なものとは言えない。
 従って、同行に該当せず、非公開処分は、適法である。

(3)手続法上の違法性について
 本件の場合は、該当条項から買収事務への支障という非公開理由は十分に理解できるのであり、手続法上の違法性はない。


3. 証明責任について
 条例は、6条で、何人も、行政文書の公開を請求することができるとしており、不開示情報に該当しない限り、原則公開であるという考え方となっている。非公開情報であることの証明責任を果たさねば公開になることからすると、その証明責任は、被告行政側にあることとなる。
 また、対象公文書を現実に所持するのは、行政であり、その内容を判断できるのも行政であるから、証明責任は行政側にある。


第2 設問2

1, 本件取消訴訟の段階における理由の追加・差し替えを否定する考え方について
 条例は、非公開処分において、理由付記を義務づけている。もし、訴訟の段階で処分時には主張されなかった理由を持ち出すことを許せば、条例が理由付記を定めた趣旨に反する結果となる。
 従って、許されない。

2, 本件取消訴訟の段階における理由の追加・差し替えを肯定する考え方について
 本件訴訟の訴訟物は、処分の違法性一般であり、処分の違法性を支える理由は、口頭弁論終結時まで自由に主張できるというのが、民事訴訟法上の原則であるからである。
 また、あらたな理由に基づいて再度非公開処分がなされるとすると、再度その処分の取消し訴訟が提起されることがありえ、訴訟経済において大いに不利益である。紛争の一回的解決の要請から、理由の追加・差し替えは許すべきである。


3, 非公開処分の取消し訴訟に加えて、公開処分の申請型義務付け訴訟(行訴法3条6項2号)が併合提起された場合に、理由の追加・差し替えの判断はどうなるかについて
 取消訴訟では、裁判所は非公開処分の理由として上げられた不開示情報該当性の有無についてだけ判断することが求められている。
 一方、義務付け訴訟の場合には、裁判所は、文書を公開すべきか否かを判断すべき要素をすべて考慮した上で判断すべきことが求められている(行訴法37条の3第5項本案勝訴要件)。行政庁が、新たな非公開理由を主張してきた場合は、それを審理判断することが当然に求められることとなる。
 取消訴訟では、前述の第2,1及び第2,2のよう理由の追加・差し替えは当然には認められない。


4, 本件取消訴訟で、新たな理由の追加が認められる状況で、「条例8条1項4号所定の非公開情報に該当する」という当初の非公開理由が認められず、取消訴訟が認容されることになった場合に、新たな理由に基づいて、再度非公開決定を出すことはできるかについて、

 非公開処分の取消判決が出た場合、行訴法33条2項は、「改めて申請に対する処分」をしなければならないこととなる。
 その場合、訴訟で争われなかった新たな理由に基づいて非公開処分をすることは、民事訴訟法上の既判力は、判決の理由中の判断には及ばないことから、可能である。
 ただし、原告の手続的権利保障から、処分段階において容易に主張できた理由については、主張できないと考えるべきである。すでに行われた取消訴訟において主張できた理由を、その時に主張せず、再度の非公開処分で主張することは、信義則に反し許されないからである。


第3、関連問題1 非公開から公開にYの姿勢が変わる場合に、土地所有者が非公開を維持してほしいと考えた場合。

1、 本件取消訴訟において、Aの主張を反映する法的手段について
 A自身も、本件取消訴訟に参加することが可能になれば、自らの主張を反映することができる。
 訴訟参加として、独立当事者参加(民訴法47条1項)または、共同訴訟参加(民訴法52条1項)が、考えられる。
 行訴法上は、22条に規定がある。

2、 Aがとりうる法的手段について
(1)差止め訴訟について
 非公開処分が取り消されることは、処分性があり、よって、非公開処分の取消処分の差し止め訴訟を提起することができると考える(行訴法3条2項7号、37条の4)。
 しかし、公開決定の処分後2週間の期間をおくことが定められており(条例17条2項3号)、「重大な損害を生じるおそれ」の要件を満たさず、差止め訴訟は却下される可能性がある。

(2)反対意見書を提出してからの手続きに従う(17条)

 
以上

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公文書非公開決定処分取消等請求事件 最高裁H22.2.25

2014-09-28 23:00:00 | 行政法学
 茨木市情報公開条例(平成15年茨木市条例第35号)

 7条6号柱書き所定の非公開情報である「公にすることにより,(中略)当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」

及び

 同号エ所定の非公開情報である「人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」があるもの

 に該当するかどうか、判断されました。



************************************************

事件番号

 平成21(行ヒ)25



事件名

 公文書非公開決定処分取消等請求事件



裁判年月日

 平成22年2月25日



法廷名

 最高裁判所第一小法廷



裁判種別

 判決



結果

 その他



判例集等巻・号・頁

 集民 第233号119頁




原審裁判所名

 大阪高等裁判所



原審事件番号

 平成19(行コ)29



原審裁判年月日

 平成20年10月30日




判示事項

 市立学校の教職員の評価・育成制度の下で教職員が作成した自己申告票中の設定目標,達成状況等に係る各欄に記載された情報及び校長が作成した評価・育成シート中の当該教職員の評価,育成方針等に係る各欄に記載された情報が,茨木市情報公開条例(平成15年茨木市条例第35号)7条6号柱書き及び同号エ所定の非公開情報に当たるとされた事例



裁判要旨

 市立学校の教職員の評価・育成制度の下で教職員が作成した自己申告票中の設定目標,達成状況等に係る各欄に記載された情報及び校長が作成した評価・育成シート中の当該教職員の評価,育成方針等に係る各欄に記載された情報は,次の1〜3など判示の事情の下では,茨木市情報公開条例(平成15年茨木市条例第35号)7条6号柱書き所定の非公開情報である「公にすることにより,(中略)当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」及び同号エ所定の非公開情報である「人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」があるものに当たる。
1 上記制度は,教職員による主体的な目標設定と達成状況等の点検及びこれを踏まえた校長による教職員に対する評価,指導等を通じて,教職員の意欲・資質能力の向上,組織の活性化等を図ることを目的とする。
2 上記自己申告票及び評価・育成シートは,上記制度を運用する過程で作成され,その写しが勤務成績評定権者である市教育委員会に送付されて,人事管理及び人事評価の資料として用いられる。
3 上記各欄には,作成者や関係者が特定できるような記載がされたり,教職員や評価者が外部に公開されることを望まないような記載がされることがある。



参照法条

 茨木市情報公開条例(平成15年茨木市条例第35号)7条6号

********************
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/499/038499_hanrei.pdf

判決文全文

- 1 -
主文
原判決中1審被告敗訴部分を破棄し,同部分につき1審
原告の控訴を棄却する。
1審原告の上告を棄却する。
控訴費用及び各上告費用は1審原告の負担とする。

理由

平成21年(行ヒ)第25号上告代理人高坂敬三ほかの上告受理申立て理由及び
同第26号上告代理人田窪五朗,同河村学の上告受理申立て理由(ただし,排除さ
れたものを除く。)について
1 本件は,1審原告が,茨木市情報公開条例(平成15年茨木市条例第35
号。以下「本件条例」という。)に基づき,同条例所定の実施機関である茨木市教
育委員会(以下「市教委」という。)に対して,平成15年度及び同16年度に茨
木市立学校の教職員の評価等に関して教職員が作成した自己申告票及び校長が作成
した評価・育成シートの一部につき,その公開を請求したところ,本件条例7条6
号柱書き及び同号エ所定の非公開情報が記録されているとしてこれを非公開とする
旨の各決定(以下「本件各処分」という。)を受けたため,その取消しを求めてい
る事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 本件条例7条は,「実施機関は,公開請求があったときは,公開請求に係
る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「非公開情報」という。)のいずれかが記
録されている場合を除き,公開請求者に対し,当該公文書を公開しなければならな
い。」と定めた上,非公開情報の一つとして,同条6号柱書きにおいて,「市の機
- 2 -
関(中略)が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に
掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に
支障を及ぼすおそれがあるもの」を掲げ,その例の一つとして,同号エにおいて,
「人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」
を掲げている。
(2) 市教委は,教職員が個人目標を主体的に設定し,他と協力しながらその達
成に積極的に取り組み,評価,改善等を行うことにより,教職員の意欲・資質能力
の向上,教育活動等の充実及び組織の活性化を図ることを目的として,茨木市立学
校に勤務する教職員の評価・育成システム(以下「本件システム」という。)を導
入した。その手順は,教職員が取り組む目標を記載した自己申告票を作成し,校長
との目標設定面談を経るなどしながら,目標達成状況等を順次追記して自己申告票
を完成させた上,これを校長に提出し,校長において,当該教職員に対する日常の
観察や自己申告票の内容等を踏まえてその評価を記載した評価・育成シートを作成
し,当該教職員との間でその開示をしつつ面談を行うなどして指導助言を行うもの
である。この過程で作成された自己申告票及び評価・育成シート(以下,両者を併
せて「本件各文書」という。)の写しは,校長から勤務成績の評定権者である市教
委(地方教育行政の組織及び運営に関する法律46条)に提出される。
平成15年度及び同16年度の本件各文書は,以上のようにして作成されたもの
であり,このうち,自己申告票は,作成者の所属校,氏名,経歴等及び今年度の組
織目標を記載する各欄のほか,設定目標,進ちょく状況,目標の達成状況及び「今
後習得したい知識・技能及び今後取り組みたいこと」の各欄(以下「本件公開請求
部分1」という。)から構成されている。他方,評価・育成シートは,作成者の氏
- 3 -
名及び所属校等を記載する欄のほか,能力の評価及び総合評価の各欄(以下「本件
公開請求部分2」という。)並びに業績の評価及び「次年度に向けた課題・今後の
育成方針」の各欄(以下「本件公開請求部分3」といい,これと本件公開請求部分
1,2を併せて「本件各公開請求部分」という。)から構成されている。
(3) 1審原告は,市教委に対し,本件各公開請求部分の公開請求をしたが,市
教委は,本件各公開請求部分に係る情報は,本件条例7条6号柱書き及び同号エ所
定の非公開情報に当たるとして,いずれについても非公開とする本件各処分をし
た。
3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,市教委が,
本件公開請求部分1,2につき非公開としたのは適法であるが,本件公開請求部分
3につき非公開としたのは違法であるとして,本件公開請求部分3に係る請求を認
容すべきものとし,その余の請求を棄却すべきものとした。
(1) 本件公開請求部分1,2が公開されると,教職員は他の教職員,生徒及び
保護者との無用な摩擦を避けるなどのために率直な記載を控えたり,教職員からの
本件システムへの協力が得られなくなったりするおそれがあり,同部分に係る情報
は本件条例7条6号柱書き及び同号エ所定の非公開情報に当たる。
(2) これに対し,本件公開請求部分3は,教職員個人に対する評価としての性
格は弱く,余り具体的な記載が要求されているとも考えられない。したがって,そ
の記載内容を公開しても,それによって教職員からの本件システムへの協力が得ら
れなくなるおそれがあるとは認められず,同部分に係る情報は本件条例7条6号柱
書き及び同号エ所定の非公開情報に当たるとはいえない。
4 原審の上記3の判断のうち,(1)は是認することができるが,(2)は是認する
- 4 -
ことができない。その理由は,次のとおりである。
前記事実関係等によれば,本件システムは,教職員による主体的な目標設定と達
成状況等の点検及びこれを踏まえた教職員に対する評価,指導等を通じて,教職員
の意欲・資質能力の向上,教育活動等の充実及び組織の活性化を図ることを目的と
するものであり,本件各文書は,このような本件システムを運用する過程で教職員
及び校長により作成され,その写しが勤務成績評定権者である市教委に送付され
て,人事管理及び人事評価の資料として用いられるものである。そうすると,本件
システムの上記のような目的が達成されるためには,教職員は,その目標や達成状
況等を,他の教職員,生徒及び保護者に関する事情等も含めて,自己申告票に率直
かつ具体的に記載し,校長は,当該教職員に係る所見,課題及び育成方針等を評価
・育成シートに率直かつ具体的に記載することがそれぞれ期待されていると考えら
れる。
ところが,このような本件各文書の性質等からして,本件各公開請求部分には,
作成者である教職員若しくは校長又は記載されている関係者が特定できるような記
載がされたり,教職員や評価者が外部に公開されることを望まないような記載がさ
れることがあり得ると考えられる(記録によれば,実際にもそのような記載がされ
ている例があることがうかがわれる。)。したがって,本件各公開請求部分が公開
されることになった場合,作成者や記載内容中の関係者が特定されて問題が生じる
のをおそれたり,自らが記載した具体的内容が広く第三者に公開される可能性があ
るのを嫌ったりして,教職員や校長が当たり障りのない記載しかしなくなる結果,
本件各文書の記載内容が形骸化するおそれがあるというべきである。このことは,
本件公開請求部分3についても,何ら変わるところがないものと考えられる。
- 5 -
そうすると,本件各公開請求部分に係る情報は,これを公開した場合に,学校の
組織活性化等を目的とした本件システムに係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすお
それがあり,ひいては公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるもの
であり,本件条例7条6号柱書き及び同号エの定める非公開情報に当たるというべ
きである。
5 以上と異なる見解の下に本件公開請求部分3につき請求を認容すべきものと
した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。1審
被告の論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中の1審被告敗訴部分
は破棄を免れない。そして,同部分について請求を棄却した第1審判決は正当であ
るから,同部分に係る1審原告の控訴を棄却すべきである。原判決中のその余の部
分は是認することができる。1審原告の論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官金築誠志裁判官
横田尤孝)
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東京入国管理局により退去強制令書発布処分に基づき、強制送還されようとするのを、いかに止めるか。

2014-09-26 09:13:51 | 行政法学


主   文

一 相手方が平成一四年一一月六日付けで申立人に対して発付した退去強制令書に基づく執行は、平成一五年六月一一日午後三時以降、本案事件(当庁平成一五年 (行ウ)第一一号退去強制令書発付処分取消請求事件)の第一審判決の言渡しの日から起算して一五日後までの間、これを停止する。

二 申立人のその余の申立てを却下する。

三 申立費用は、これを二分し、その一を申立人の負担とし、その余を相手方の負担とする。


***********
 
 上記判決は、執行停止の申立てが、認められた例(東京地決H15.6.11)です。
 本案事件の裁判が終わるまでは、強制送還や強制収容はされないことが認められました。


 以下、どのように認められたか、外観します。


1、事案の概要
 相手方(東京入国管理局主任審査官)が、平成14年11月6日付けで申立人に対して発布した退去強制令書(以下「本件退令発付処分」という。)に基づく執行について、その執行停止を申立てた事件。
 本案事件として、強制令書発布処分取消し請求がなされている。
 本件申立ては、理由があるとして認容され、本案事件の第一審判決の言渡しの日から起算して15日後までの間、執行停止の決定がなされた。

2、争点:
1)行訴法25条2項及び3項所定の要件が、2)退去強制令書発布処分においてはどのように解釈され、3)その解釈を本件にあてはめるとどうなるか。

行政事件訴訟法
(執行停止)
第二十五条  処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2  処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。
3  裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
4  執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、することができない。
5  第二項の決定は、疎明に基づいてする。
6  第二項の決定は、口頭弁論を経ないですることができる。ただし、あらかじめ、当事者の意見をきかなければならない。
7  第二項の申立てに対する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
8  第二項の決定に対する即時抗告は、その決定の執行を停止する効力を有しない。




 次に、1)~3)それぞれにおいて、検討する。


3、1)行訴法25条2項及び3項所定の要件について(決定文第3、1(1))
(1)行訴法25条2項「回復の困難な損害」とは、
 処分を受けることによって生ずる損害が、原状回復又は金銭賠償が不能であるとき、若しくは金銭賠償が一応可能であっても、損害の性質、態様にかんがみ、損害がなかった現状を回復させることは社会通念上容易でないと認められる場合。

(2)行訴法25条2項「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」=執行停止の必要性と同条3項「本案について理由がないとみえるとき」=消極要件該当性
 執行停止の必要性の判断を行うに当たっては、処分が違法である蓋然性の程度との相関関係を考慮する。
 発生の予想される損害が重大で回復可能性がない場合は、消極要件該当性は相当厳格に判断すべきで、損害が比較的軽微で回復可能性もないとはいえないときは、消極要件該当性は比較的緩やかに判断するのが相当である。


4、2)退去強制令書発布処分(送還、収容)における行政事件訴訟法25条2項及び3項所定の要件の解釈(決定文第3、1(2))
(1)送還部分について
①申立人の意思に反した送還でること
②送還前に置かれていた原状を回復する制度的な保障はないこと
③本案事件の訴訟を追行することが著しく困難
→消極要件該当性を相当厳格に判断するのが相当であり、申立人の主張がそれ自体失当であるような例外的な場合を除き、この消極要件を具備しないものとするのが相当である。

(2)収容部分について
社会的活動の停止を余儀なくされることや心身に異常を来すおそれのあること、それら以上に、身柄拘束自体が個人の生命を奪うことに次ぐ重大な侵害、人格の尊厳に対する重大な損害。(従来、この点については、ややもすると十分な考慮がされず、安易に金銭賠償によって回復可能なものとの考え方もないではなかったが、そのような考え方は個人の人格の尊厳を基調とする日本国憲法の理念に反するものというほかない。)。
送還部分の執行によって生ずる損害よりは軽微。
→消極要件該当性をそれほど厳密に判断する必要はなく、通常どおり、本案について申立人が主張する事情が法律上ないとみえ、又は事実上の点について疎明がないときと解すれば足りる。



5、3)本件へのあてはめ(決定文第3、2)
(1)執行停止の必要性
〇一般的に生ずる損害はすべて生じることがあきらかであり、送還部分のみならず収容部分についても執行停止の必要性がある。
〇申立人が収容の初期から心身に異状を来し、収容を原因とする統合失調症を発症。
   ↓
申立人の収容を解く必要性は極めて高い。


(2)「本案について理由がないとみえるとき」消極要件該当性
違法事由 ①口頭審理請求権の放棄の手続きの違法
     ②本件退令発布処分の裁量権の逸脱濫用又は比例原則違反の違法

①口頭審理請求権の放棄の手続きの違法
 口頭審理放棄の発言を申立人は否定、申立人の日本語能力からすると入国審査官の説明を理解した上で口頭審理放棄書に署名したか疑問が残る
   ↓
本件申立ては、消極要件に該当するものではない。

②本件退令発布処分の裁量権の逸脱濫用又は比例原則違反の違法
 処分権限を発動するかどうかは処分庁の裁量に委ねられている。
 本件において、申立人が甲野と既に内縁関係にあることを全く考慮していない
   ↓
 裁量判断の基礎に著しい欠落があった可能性が濃厚
   ↓
本件申立ては、消極要件を具備しない


(3)「公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれがあるとき」消極要件該当性
〇執行停止部分:相手方は送還停止による一般的な影響をいうもので具体性がない
   ↓
 相手方による疎明がない

〇収容部分:甲野太郎と申立人は処分後平成14年11月26日婚姻。甲野が申立人が働くに至った借金を無理なく返済する手段を講じる等
   ↓
 申立人の逃亡、醜業に就くことは認められず、消極要件に該当する事実が生じるとは認め難い。


6、結論
 本件申立ては、主文第一項記載の限度で理由があるから認容、その余の部分は却下。


以上
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