『カズオ・イシグロを探して』は、NHKのドキュメンタリーです。
昨年末、氏のノーベル賞受賞に際して再放送されました。
イシグロ氏にインタビューするのは、分子生物学者の福岡伸行氏です。
ご存知のようにイシグロ氏は長崎で生まれ、5歳で家族とともイギリス移住します。
イギリス生活に馴染みながらも異邦人の風貌であることを深く考えます。
5歳まで過ごした日本の記憶は心の中にどのようにあり続けるのか。
同じように幼少期(3歳)で日本を離れた大坂なおみさん。
彼女の日本の記憶はどのようなものでしょうか。
なおみさんのこころは、わたしなどに想像できないくらいの葛藤を繰り返してきたことでしょう。
イシグロ氏の記憶についての考察を考えていると、ついなおみさんのことを考えてしまいます。
『カズオ・イシグロを探して』に戻ります。
インタビューするのは、分子生物学者の福岡氏というのも興味深いです。
私の浅い理解では、人の細胞は短い期間で完全に入れ替わるにも関わらず一つの人格として保たれ時間を経過していくことができるのはなぜかという問いを発している方です。
「記憶」に大きな役割があるのではと、福岡氏は考えているのではないでしょうか。
福岡氏には、イシグロ氏のこころの深層(記憶か)に迫ろうとする思いがあるように思います。
「人は記憶を創る」と言います。
イシグロ氏は、3歳までの日本での記憶を心の中で創りかえているのではないと思っています。
人はそれぞれ「創りかえられた記憶」のなかに生きているというのは理解できる考えです。
自伝を書く人もいます。事実と異なる、虚偽とも思える記述によく出会います。
それは自己に都合のよいことを書きたいがためとばかりは言えないと思っています。
書き手の記憶が、すでに書き換えられているのではないでしょうか。
それも無意識のうちに。
私事になりますが、母親はレビー小体型認知症を発症しています。
この病は、「記憶」が混乱してしまいます。
それために不安な状態に陥ります。
記憶についても、事実と異なることと事実とが混在しています。
人からは、事実と違うことを指摘されてしまいます。
さらに混乱することなります。
記憶は、人のこころを安定させてという役割を持っていますが、逆に作用することになります。
しかし、人格の核となる部分は変わりません。
混乱状態から戻れば、私の「記憶」にある母が現れます。
そこでは、親子としての会話が成り立ちます。
私たちは日々記憶という心の有り様に対峙しています。
このことも、イシグロ氏と福岡氏という「記憶」の探訪を続ける冒険者たちに注目する理由だと思います。
※画像はネットから