井原西鶴の「日本永代蔵」は、元禄元(1688)年に出版された、30編の短編からなる庶民的経済小説です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/72/731af2983fcd2a4dd8cc5912fc62b998.jpg)
そのテーマは、貨幣経済を目の当たりにして、庶民に対して立身出世をするための教訓談と言って良いでしょう。耳に聞こえたモデルを使いながら上手に世渡りをして長者になったものの振る舞い方や、逆に不埒な振る舞いの結果没落していった者から得られる教訓を本に、町人としての正しい振る舞い方を教える内容になっています。
現代語訳の「日本永代蔵」(暉峻康隆訳・注 小学館ライブラリー)は平明な現代語でその意味するエッセンスを簡単に理解することができ重宝です。
元禄以降の江戸経済は資本を持つ者にお金が集まる商業資本主義の時代となり、次第に庶民が徒手空拳から金持ちになるということが難しい時代になって行きます。
そのため、この日本永代蔵で紹介されているモデルも多くは商業資本主義以前に才覚と努力で富者となった者を用いていて、そこに庶民に対する西鶴の優しいまなざしを感じることができるといえるでしょう。
※ ※ ※ ※
その中の一節をご紹介しましょう。第三巻の一「煎じよう常とはかわる問い薬」より
四百四病は世に名医がいて、必ず治すことができる。ところが人には知恵才覚の有無にかかわらず、貧病の苦しみがある。これを治す治療法はないものかと、ある裕福な人に尋ねると、次のように教えてくれた。
「今までそれを知らずに、よくもまあお前さんは養生が一番必要な四十の年までうかうかと暮らしてきなさったことだ。診断するには少し手遅れだが、まだ見込みはありましょう。いつも丈夫な皮足袋と雪駄をはいておられるようだが、その心掛けならひょっとしたら金持ちにおなりだろう。」
「長者丸という妙薬の処方をご伝授しましょう。△早起き五両 △家業二十両 △夜なべ八両 △倹約(しまつ)十両 △健康七両 この五十両の薬を細かにくだき、はかり目に違いの内容に気をつけて調合に念を入れ、これを朝晩飲んだら、長者にならぬということは、まずありますまい。」
「けれどもこれには大事な毒断ちがあります。○美食と好色と絹物の普段着 ○女房の乗り物外出、娘の琴や歌がるた遊び ○鼓や太鼓などの息子の遊芸 ○蹴鞠(けまり)、揚弓(ようきゅう)、香会、俳諧 ○座敷普請、茶の湯道楽 ○花見、船遊び、日風呂入り ○夜歩き、博打、碁、双六(すごろく) ○町人の居合い抜きと剣術 ○寺社参詣と後生を願う心 ○諸事の仲裁と保証人 ○新田開発の出願と鉱山事業の仲間入り ○食事ごとの酒、煙草好き、あてのない京のぼり ○勧進相撲の金主、奉加帳の世話焼き ○家業の他の小細工、金目貫の蒐集 ○役者遊びと廓通い、揚屋への出入り ○月息八厘より高い借金 まずこの通りを斑猫(はんみょう)や砒霜石(砒霜石=ともに猛毒)よりも恐ろしい毒薬と心得て、口に出すことはもちろん、心に思っても行けません」と、小さい貧相な耳にささやかれた…(後略)
…とまあこんな調子。この後には拾った材木で割り箸を作って売って金持ちになった話が続きます。
わたしも五十近くまで『うかうかと』暮らしてきてしまいました。食事ごとの酒が毒を飲んでいるようなものだとは。
所詮は金持ちにはなれない庶民のひがみもありますが、この中から少しでも教訓が得られると良いですね。
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そのテーマは、貨幣経済を目の当たりにして、庶民に対して立身出世をするための教訓談と言って良いでしょう。耳に聞こえたモデルを使いながら上手に世渡りをして長者になったものの振る舞い方や、逆に不埒な振る舞いの結果没落していった者から得られる教訓を本に、町人としての正しい振る舞い方を教える内容になっています。
現代語訳の「日本永代蔵」(暉峻康隆訳・注 小学館ライブラリー)は平明な現代語でその意味するエッセンスを簡単に理解することができ重宝です。
元禄以降の江戸経済は資本を持つ者にお金が集まる商業資本主義の時代となり、次第に庶民が徒手空拳から金持ちになるということが難しい時代になって行きます。
そのため、この日本永代蔵で紹介されているモデルも多くは商業資本主義以前に才覚と努力で富者となった者を用いていて、そこに庶民に対する西鶴の優しいまなざしを感じることができるといえるでしょう。
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その中の一節をご紹介しましょう。第三巻の一「煎じよう常とはかわる問い薬」より
四百四病は世に名医がいて、必ず治すことができる。ところが人には知恵才覚の有無にかかわらず、貧病の苦しみがある。これを治す治療法はないものかと、ある裕福な人に尋ねると、次のように教えてくれた。
「今までそれを知らずに、よくもまあお前さんは養生が一番必要な四十の年までうかうかと暮らしてきなさったことだ。診断するには少し手遅れだが、まだ見込みはありましょう。いつも丈夫な皮足袋と雪駄をはいておられるようだが、その心掛けならひょっとしたら金持ちにおなりだろう。」
「長者丸という妙薬の処方をご伝授しましょう。△早起き五両 △家業二十両 △夜なべ八両 △倹約(しまつ)十両 △健康七両 この五十両の薬を細かにくだき、はかり目に違いの内容に気をつけて調合に念を入れ、これを朝晩飲んだら、長者にならぬということは、まずありますまい。」
「けれどもこれには大事な毒断ちがあります。○美食と好色と絹物の普段着 ○女房の乗り物外出、娘の琴や歌がるた遊び ○鼓や太鼓などの息子の遊芸 ○蹴鞠(けまり)、揚弓(ようきゅう)、香会、俳諧 ○座敷普請、茶の湯道楽 ○花見、船遊び、日風呂入り ○夜歩き、博打、碁、双六(すごろく) ○町人の居合い抜きと剣術 ○寺社参詣と後生を願う心 ○諸事の仲裁と保証人 ○新田開発の出願と鉱山事業の仲間入り ○食事ごとの酒、煙草好き、あてのない京のぼり ○勧進相撲の金主、奉加帳の世話焼き ○家業の他の小細工、金目貫の蒐集 ○役者遊びと廓通い、揚屋への出入り ○月息八厘より高い借金 まずこの通りを斑猫(はんみょう)や砒霜石(砒霜石=ともに猛毒)よりも恐ろしい毒薬と心得て、口に出すことはもちろん、心に思っても行けません」と、小さい貧相な耳にささやかれた…(後略)
…とまあこんな調子。この後には拾った材木で割り箸を作って売って金持ちになった話が続きます。
わたしも五十近くまで『うかうかと』暮らしてきてしまいました。食事ごとの酒が毒を飲んでいるようなものだとは。
所詮は金持ちにはなれない庶民のひがみもありますが、この中から少しでも教訓が得られると良いですね。