星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
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グラン・モーヌ -ある青年の愛と冒険-

2006-10-11 | 文学にまつわるあれこれ(妖精の島)
秋だから、
「本」や「映画」の話をたくさんしようと思う。

、、、大人になって、ずいぶん経ってからやっとわかったことだけれど、
子供時代を過ごした「場所」って、生涯、自分に影響するものなのですね。。
まえに書いたこともあるけれど、
私が育った場所には、小・中・高・大などなど、学校が7つほどもあったんです。
それから、大きな病院がふたつ。。
近所に、ぽつんと商店はあったけれど、いわゆる「商店街」というのが無くて、、
これは割と特殊なんだということに、相当経ってから気づきました。

秋の午後、、 思い出をたどれば、、
学校や病院を囲む土手には、金や赤の落ち葉が散り敷かれ、かえりみち、、
草の斜面を滑ったり、姫林檎の実をかじったり、、そんなのんびりした記憶ばかり。。
だって、覗いて見るお店とか、工場とか、なんにも無いんだもの。
その環境が、良いか悪いかはべつとして、、。少女の頃、オルコットが一番好きだったのも
19世紀のマサチューセッツという土地が、自分の想像力にはとてもしっくり来た為なのかもしれない、、と今になって思います。

 ***

『グラン・モーヌ』という小説は、そんな感じに、ちょっと似てる。1890年代のフランスの田舎が舞台。
物語の語り手、フランソワは15歳の少年。両親は教師で、赴任先の村に着いたばかり。
、、、かつて、古い小学校などには、校舎の敷地内に先生の家があったりしましたが、
フランソワが住むのも校舎兼住居。
朝になれば父と母が先生になって、村の子供たちが登校してきます。

物語は、フランソワの家(学校)に、オーギュスタン・モーヌという少年が寄宿生として預けられるところから始まる。
「私たちがあの地方を去ってからやがて15年になるし、二度と再びあすこへ行くこともないだろうと思う」
、、と、こんな回想録風に、すでに今は大人の〈私〉が15歳の記憶をたどるように綴られます。

母に連れられて来たはずのオーギュスタンは、挨拶の場にもいずに、どうやら屋根裏部屋を歩き回っている様子。。
〈私〉と家族のいる戸口にあらわれた彼は、「それは17歳くらいの、丈の高い少年だった」、、、
そうしておもむろに〈私〉を外へ誘い、屋根裏で見つけたという未使用の花火に火をつける。
自分より大人で、背が高く(だから大きな=グラン・モーヌなのです)、予想外の行動に出るモーヌに、
フランソワは憧れのような感情で魅了されてしまいます。

こんな始まりだと、なんだか少女漫画風の少年たちの物語なのかな、、と思ったのですが、、。
ある日、、毎年恒例で訪れる祖父母を出迎えるため、フランソワはお父さんに馬車で駅まで行くように命じられ、
ところが、お父さんが借りた馬車よりも、もっといい馬の引く馬車があるのを聞いたモーヌは
独り勝手にその馬車を御して、駅をめざして行ってしまうのです、、、そして、モーヌは行方不明に、、
乗り手のいない馬車だけが帰ってくるのです。
モーヌは、4日目に学校へ戻って来ました。道に迷っていたのでした。

その彷徨いの3日間の出来事について、、フランソワはモーヌから話を聞こうとするのですが、、。

この小説の魅力は、
書き手フランソワが15年間の記憶をたどって書いているかたちになっているので、わからない部分はわからない。
モーヌが次第に明かす話もまた、道を失って彷徨った記憶なので、おぼろげで、曖昧で、おとぎ話みたい。。
空腹と疲れと闇の中でモーヌが見るのは、古めかしい屋敷にむかって駆けて行くおめかしした子供。
、、、?、、、(なんだか、不思議の国のアリスみたいじゃない?)、、
そうなの、この屋敷での出来事は、まるでフェリーニの映画か、デレク・ジャーマンの描く不思議なパーティーみたい。。。
(これって現実なの? 疲れて見た夢なのかしら?)・・・さあ、ここからほんの少しネタばれ・・・

 ***

学校に帰り着いた後のモーヌは、それまでのモーヌではもうないのでした。
だって、、彼は、愛することを知ってしまったから。。
モーヌは、、その屋敷でとても美しいひとに出会ったのです。
そして、その夢か、現実か、わからないような〈祝宴〉のことをモーヌはフランソワに語り
ふたりはもう一度、その不思議な屋敷を見つけ出すこと、そして、たったひと言だけ言葉を交わしたひとを、
見つけ出そうと思うのです。
、、、(この展開は、まるで中世の騎士物語や、妖精物語、みたいね)、、、

はじめに引用したように、語り手のフランソワは、30歳くらいになっているわけです。
モーヌは、その後、どうなったのでしょう? その美しいひとに出会えたのでしょうか?
一方のフランソワの境遇は、今は?
、、、これらはみんな物語の後半で明かされます。。
すご~くロマンティックなお話です。 そしてそして、、(泣いてしまった、、モーヌにも、フランソワにも、、)

 ***

著者のアラン=フルニエは、この作品たった1作を書き上げ、第1次大戦に出征。
そのまま行方不明となりました。27歳の生涯でした。。
物語のように、彼の両親も、村の学校に住み込みで教える教師だったそうです。

、、、この小説は、1966年に映画化されているのですって。。
グラン・モーヌ役には、ジェラール・フィリップの名が上っていたそうですが、
アラン=フルニエの死後、著作の管理をしていた妹が
「モーヌをやる役者はその後、他の役をやってはいけないと」(解説・317頁)、、というわけで
本当に、モーヌ役のかたのフィルモグラフィーはごく僅か、、(IMDb>>)。
うゎぁ、絶対に見てみたい、、きっと見ます、なんとか見つけて。。(邦題は「さすらいの青春」)

おとぎ話みたいなんだけどね、、、お伽話のような現実だってあるんだってこと、、信じられる貴方へ、、。

グラン・モーヌ/アラン=フルニエ/みすず書房