クレーヴの奥方 [DVD]紀伊國屋書店このアイテムの詳細を見る |
映画の文体が終始、揺るがない。
音楽はクラシックとポップスが接続される。異質なもの同士が融けあうことなく接続される。
原作は古典となっている不倫の話とはいっても、タッチとしてはまったく情念に寄ることはない。物語のいわゆるドラ マチックになりそうな部分は簡潔な一枚の字幕で示される。
何度も登場人物が石像や肖像画など、人間の似姿をじいっとみつめる姿が出てくる。人間の方も、ロック歌手ですら、ほとんど固定されたアングルからカットを割らずに凝視される。人間同士のまなざしは、ほとんど一方的なままで、人間が会話を交わすことで意思を伝える、普通のドラマではあたりまえのシーンは大きく二つ、死の床の母がヒロインと語り合うシーンと、夫がヒロインに不倫の告白を受けるシーンで、ともに語り合った相手はほどなく亡くなる。まともにヒロインと語り合うのを繰り返すのは石で固められた修道院の中の俗世間から無菌状態で生活している修道女だけだ。
その中に平和な世界にいる人間には本来的に不可視 の不幸(アフリカの子供たちの悲惨)が唐突に語られ、その断絶に関しては映画は厳密に「知ったかぶりして」画として示すのを排除している。
行方不明になってしばらくして届く、アフリカに渡ってそこで子供たちを相手にしている修道女たちについて書かれたヒロインの手紙を読み終えた修道女が、朝のお勤めにわずかに遅刻して参加するのは、断絶を突きつけられたためのわずかな動揺なのだろうか。
オリヴェイラの文体は一作ごとに違い、どうにもつかみにくくて往生することが多いが、これはブレッソンばりの簡明さを感じさせる。
(☆☆☆★★)
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