ロベール・ブレッソン監督の劇場未公開作。東京映画祭で上映されたきり、DVDのボックスでは出ていたが、単体で発売されたのは初めて。
甲冑同士がぶつかる音、馬のヒズメの音、などなど目に見えるものより、音によって暗示されているものが豊かなのは、ブレッソン独自の文体。
全身を甲冑で固めた騎士たちはただでさえ誰が誰だかわからないのに、アップその他の個々人を描き分ける技法をまったく採用していないので、完全に無人称になっている。
通常の「個性」や「感情表現」をオミットして、余白の見るものの想像力にゆだねる部分を最大限に活用する表現法。
オープニングの甲冑を通しておびただしい血が流れる描写は、作り物くさいのに、あるいは作り物くさいから妙に生々しいな残酷さがある。
その感覚を延長していくと、ただ甲冑を外しただけで体の一部を取り外したように見えたりする。通常のリアリズム以上の喚起力。
ランスロというとアーサー王伝説のランスロットのことしか知らなかったが、DVD付属の解説書によるともとはケルトならぬブルゴーニュに伝わる伝説で、ずっと後年ケルト伝説に混ざったものらしい。聖杯探索の話も、後からくっつけられたものだというから、驚いた。
とはいえ、王妃との不倫とモードレッド(これだけアーサー王物語と名前が同じ)の裏切りが軸になっているのには変わりない。
(☆☆☆★★★)