娘はバレエの才能に恵まれていたのだけれど父親が反革命分子ということで主役から外されバレエ自体をあきらめてしまい、妻は精神に異常をきたして男が名誉回復され戻ってきても夫の顔を忘れている。
妻がなかなか記憶を取り戻さないのを夫が興奮させないように注意しながらちょっとづつ思い出すように刺激していくあたりは、往年の名作「心の旅路」ばり。ただメロドラマ風のテイストではあるけれど、メロドラマにしきってはいない。
そして記憶が戻りかけたり、また忘れたりと揺れる間に、夫がインテリであることや、留守中に妻が共産党の有力者にどんな要求をされたのかなどが間接的な描写で暗示されていくのが上手い。
70年代のまだ貧乏だった時代の中国の風俗の再現は手がかかったのか、簡単だったのか。
監督の張芸謀は父親が国民党の兵士だったのでまともに就職できず子供の頃は非常に貧乏だったというあたりが娘の境遇に反映されているのかもしれない。
もっともその後オリンピック開会式の演出をするところにまで大出世したわけで、そうなるまでには相当なマネもしているのだろうなと思わせる。2013年に伝えられたところでは、一人っ子政策に反して少なくとも7人の子供を作って26億円の罰金をくらったというものね。
いつもの派手な色彩を抑えて(抑え過ぎているところがまた誇張された表現になっているのだが)、セリフも少なくしてアップと切り返しの細かいカットバックを積み重ねていくといった具体に、またかなり演出タッチを変えている。
妻のアパートがやたら高い階にあるのをえっちらおっちら上って行ったり、夫が連れ去られたり戻ってきたりと重要な舞台になる駅が急な斜面など上下運動を大幅に取り入れているのが目立つ。
(☆☆☆★)
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