ナチが決して単独犯だということを信じないのは、全体主義のもとでは独裁者と違う、ましてや反抗する考えは認められないということでもあるだろうし、英仏なり共産主義者をこの際攻撃する口実にしようという目論見もあったのだろう。
しかし実際に彼は単独犯なのだし、直接ナチに弾圧されたりしたわけではない。部外者的なただの家具職人兼音楽屋に過ぎない。
ドラマの主眼は人妻との不倫で、そのDV夫(暴力的だがナチスとは直接関係ない)の横暴さに反発して守ろうとし続ける感覚が、ナチスの台頭によって差別と迫害が常態化して無感覚になっているのが多数派になっていく中で次第にヒトラー暗殺に向かわせることになるというロジックだろう。ただ説得力はあるが描写そのものが丹念すぎて少したるい。
ヒトラー・ユーゲントの子供たちや、総統の輝かしい未来に導く指導力やらを称える言説やら映像やらにさして疑問や反感を抱くでもない多数の順応主義者たちが背後にびっちり描きこまれていて、今の日本との共通性を嫌でも思わせる。違うのは日本だと独裁より同調圧力の方が先に立っていて独裁者そのものの存在感は空白なこと。
尋問するナチの将校も比較的常識をわきまえていて普通のドイツ国民からも暗殺者・秩序紊乱者が現れる可能性に想像力が及ぶのと、まったく全体主義者と二通り描かれていて、前者の運命には驚かされる。
(☆☆☆★★)
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ヒトラー暗殺、13分の誤算@ぴあ映画生活
映画『ヒトラー暗殺、13分の誤算』 - シネマトゥデイ