ドキュメンタリーとするとナレーションで生い立ちを追うといった定型的なものを避け、とにかく全盛期のアリのイメージそのままのイメージを、リッチー・ヘヴンスの歌にのせてスタイリッシュに描く。
ビッグ・マウスというか実に饒舌で、当時のブラック・イズ・ビューティフルのスローガンを体現して「なぜ黒人は石油とダイヤの大地にいるのか」「神が作る前は黒だ」「黒がオリジナルだ」と連発するあたりのアジテーションは見事なもの。
予告KOの前になぜ五ラウンドかという問いに対して「俺は一日に五マイル走る、水を五杯飲む、一日に卵を五個食べる、五時に昼寝する、結婚して五年、だから五ラウンドというのは冗談みたいだが、いま聞くとちょっとラップみたいなリズムと皮肉と抵抗精神が見られる。
アリが息子は科学者か医者か弁護士にしたい、と語るのが二人の息子がヘロイン中毒になったのを知った今見ると複雑に見える。
ただ孫のビアージョはアメフト選手として活躍しているらしい。容貌が黒人というより先祖のアイルランド系(アリにアイルランド系の血が入っているとは知らなかった)に近い。
ブラック・ムスリムとしてのベトナム戦争での兵役拒否というのは、黒人+イスラム教+兵役拒否と重なっているのだから今見るとすごい。
日本映画専門チャンネルで見たのだが、理由は不明だがソフト化も劇場公開も難しいらしい。

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