それが夜の複雑に交錯する道路のいともクールな大俯瞰カットとカットバックさせて見せる、肉々しいグロと怜悧な無機質の組み合わせ自体が一種の現代美術のよう。
横たわる裸の肉体、というのが随所に配置される。展覧会に置かれる「作品」であり、ヒロインの娘がボーイフレンドとベッドで裸で横たわり母親と電話で話す図であり、小説=虚構でレイプされた妻娘の姿という具合に変奏される。
端正さな外観の中にああいう腐敗したようなグロテスクな肉が蠢いているといったニュアンスが端的に出た。
このグロい裸が横たわっているのがヒロインの「作品」で、映像そのものが一種の現代美術になっているようなカットが、特にヒロインの住居空間を描くくだりでは埋め尽くされている。
フィルム撮影が見事で、ナイトシーンの締まりといい撮影監督のシーマス・マッガーベイが「これはおそらく今まで私が撮影した中で最高傑作のひとつです」と言うのもうなずける。
別れた夫から送り付けられた小説の内容が映像として表現され、小説の主人公の男と現実の夫を同じジェイク・ギレンホールが演じているのだが、小説の中で妻=ヒロインの分身が殺されて復讐のため法的には許されない行為にまで手を染める(メフィストのようなマイケル・シャノンの保安官は実在しない小説内の人物なのだが、それを忘れるくらいの迫力があるし、夫のアルターエゴの面もあるだろう)のが、あくまでフィクションの世界のはずが映像で見せられると本当にあった出来事のように思えてくる。
ヒロインは芸術家的な性向を持ちながら芸術家になる道に踏み出すのをためらい、結局俗物の母の支配下にあるのが、「インテリア」の芸術家の母を持ち芸術家的な性格を持ちながら才能がない次女をちょっと思わせた。
ただ夫が送った虚構の世界を現実同様に体験した以上、現実の夫に会う必要はない、一種の覚醒をうながす夫の贈り物だったのではないかという解釈もできるだろう。
それにしても映画内小説という二重の虚構であっても、チンピラたちがいやがらせのあげく妻子を拉致する場面は不愉快でちょっと正視に堪えない感じだった。
(☆☆☆★★)
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