子供らしい大胆なタッチの一方で精練されたセンスも垣間見える。
視覚的造形面に対する美意識は今の住まいにも表れていて、ロココ調にすら見えるパリのアパルトマンの調度(ひらひらした布地が目立つ当人の服装自体がお人形みたい)、アルゼンチンの白い壁、そして京都の取り壊されかけていた古い家を宮大工を入れて改築したというそれ自体が美術品のような住まい、その純和風の佇まいにピアノを置くセンス。
右耳が聞こえず、左耳も一時聞こえなくなって回復したのも半分くらいという状態でよく演奏家としてやっていけると思うが、演奏自体はきわめて堅牢なもの、流れるのはほぼすべて聞きなれたポピュラークラシックの演目もてらいなく、しかも狎れに堕さない。
常に猫をはじめとした動物たちがまわりにいて、留守中にそれらの世話をするのがゲイの音楽家カップルというのがまたなんだか面白い。
実をいうと音楽の演奏そのものにナレーションがかぶったりするのが多い演出はやや不満。「ラ・カンパネラ」の圧巻の演奏シーンのように演奏そのものがいわく言い難い何者かを雄弁に語っているのだから。
「フジコ・ヘミングの時間」 公式ホームページ
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