prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「さくら」

2020年12月03日 | 映画
宣伝を見ていると犬と家族をメインにした感動作みたいなのだが、あまり大きく出ていないが監督が矢崎仁司というので首をひねった。

日本の同性愛映画のエポックである「風たちの午後」から最近の「スティルライフ オブ メモリーズ」までインディ系でマイノリティ(とされる)のセクシュアリティを扱うことの多い監督という印象があったので、どうつながるのだろうと思ったら、犬は描写の上ではごく控えめ。なんでこのタイトルなのだろうと不思議に思ったくらい。

まだ小さな娘が両親のセックスについて聞くと母親が噛み砕きながらも細かく具体的に答えて、他の家族もさほど気まずい一方ではなかったり、もう中高生になった男兄弟が一緒に風呂に入ったり、いわゆる普通の性的状況の型にはまらない。
どこかずらした感じというのは、学年で一番成績がいい女生徒が性的にごくあっけらかんと二番目に成績がいい次男とベッドインするところにもいえる。

同性愛がドラマのきっかけになるほど特殊なことと捉えず、全体のそれぞれどこかずれている人間描写のバリエーションの一つ程度の扱いなのがユニークなところ。

長男が野球選手なのにひっかけて神様はまっすぐな球を投げるかどうか、という喩え話が出るが、家族全員に対してくせ球荒れ球が連発される感。

後半のショッキングな展開に対して小松菜奈の奇妙に壊れた態度の描写が凄みがある。エクソシストか、と思ったくらい。

その中で、犬のさくらだけが気がつくといつもそこにいる、といった程度の存在感で、とりたてて可愛らしく振る舞ったり飼い主を癒したりしなくても、変わらずいるだけでいいという扱いは珍しい。終わってみると、それでさまになっている(気がする)。
原作はどうなっているのだろうと気になった。