元の「シラノ・ド・ベルジュラック」では剣の名手にして詩人という文武両道に秀でていながら巨大な鼻をコンプレックスにしている男が主人公なわけだが、ここでは「ゲーム·オブ·スローンズ」で有名な小人症の俳優ピーター·ディングレイジがシラノを演じる。
大もとの原作はエドモン·ロスタンによる19世紀フランスの芝居だが、これをディングレイジの実生活の妻のエリカ·シュミットがミュージカルに脚色・プロデュース・演出してディングレイジが主演した2018年に上演した舞台が直接の原作ということになる。
巨大な鼻が容姿のコンプレックスという原作舞台はつけ鼻をつけて演じられるわけで、いかにも芝居っぽい設定だが、本物の小人症のディングレイジが演じるとなると、容姿の持つ意味はぐっとリアルで重くなる。
逆にそこに意義を見出だしたからディングレイジを主演に据えるというアイデアを実現したのだろう。
ストレートプレイのシラノはまず膨大な量の詩的な韻文のセリフをこなさなくてはいけないのが主演俳優の腕の見せ所なわけだが、ここではフランス語の響きの美しさに英語歌詞の歌が代わる。
ただ、正直言って一回聞いて歌いたくなるキャッチ―なメロディの歌というのはあまりなかったように思う。
ロクサーヌのヘイリー・ベネット は監督のジョー・ライトのこれまた実生活で夫婦で、こちらも夫婦の共同作業が入っているわけ。
クリスティンのケルビン・ハリソン・Jr. がアフリカ系というのも多様性の現れということになるのだろう。
どちらも古典的な美男美女イメージから離れているのは全体として反ルッキズむということになるのかもしれないが、映画自体の古典的なルックとは必ずしもうまく混ざっていないと思う。