prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「龍門客棧」(残酷ドラゴン 血斗龍門の宿)

2022年03月28日 | 映画
キン⋅フー(胡金銓)監督の1967年作。
つまり「燃えよドラゴン」Enter The Dragon(1973年)はおろかドラゴンとついた初ブルース⋅リー主演作「ドラゴンへの道」The Way Of The Dragon(1972年)より前の製作。
というか、ブルース⋅リーの香港復帰主演第一作「ドラゴン危機一発」が大ヒットした時、それまで香港の観客動員記録を持っていて破られた映画がこれ。

日本でブルース⋅リー=カンフー映画のブームが来る前にすでに北海道でスプラッシュ公開されていたとのこと。
初公開では単に「血斗龍門の宿」で、ドラゴンとついたのは1974年にカンフー映画ブームにあやかって改めて公開された時ではないか。

山田宏一のインタビューで、キン⋅フーは60年代当時ヒットしていた007シリーズに対抗して、15世紀前半、明の時代の東廠という秘密警察を取り上げることでスパイ合戦のバカバカしさを描いてみたかったとある。

東廠は宦官で皇帝に命じられるままに人を殺すだけの存在で、アナーキストですらなく、多い時には十万人もおり、そのため国中が戦々恐々としており、しまいには明を滅ぼすことにもなったという。

クライマックスで東廠のリーダーの武芸の達人と戦う時、いちおう正義の味方のはずのキャラが相手が宦官なのをさんざん揶揄して精神的に揺さぶりをかけるというのが、一対四だし、なかなかえげつない。

ヒーロー側は一応正当な跡継ぎを守るという動機づけをされているのだが、それがどんな家柄なのか、何より跡継ぎが具体的にどんな人物なのかさっぱりわからない。
ただそういう争奪戦のきっかけになる「お宝」の設定がしてあるだけという作り。不思議なくらい思い切りがいい。

ヒーロー側の一番の達人が顔つきが結構悪役寄りで(扮装も悪の中ボスと似ている)、シンプルな正邪の戦いの図式ではあるのだけれど、前半は悪役たちは明確なのに対してそれに対抗する側がどんな形のチームになるのかなかなかはっきりしないのが、スパイものらしいとも言える。

音楽が明らかにモリコーネのマカロニ⋅ウエスタンのサントラをそのまま使っていたりするのは驚いた。「男たちの挽歌」でピーター⋅ガブリエルの「バーディ」の音楽をまんま使っていたのを思い出した。

アクションシーンの撮り方、編集術がキン⋅フーのスタイルをすでに見せていて、京劇の立ち回りの映画的アレンジといったリズムと様式性を併せ持ったもの。
えんえんと動きっぱなしのカンフーアクションに対して、静と動のメリハリがはっきりしている。

女剣劇を持ち込んでいるのはキン⋅フーらしい。兄と妹なのを兄と弟と周囲がどう見ても女なのがわからなかったり、性的な面を表に出ないようにしている。