prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ナイル殺人事件」

2022年03月11日 | 映画
ミステリー特に本格推理の探偵はさまざまな性格づけをしていても、ゲームのキャラクターの設定に近いものがあって、ドラマの中で他と葛藤したり変化することはあまりない。
また、連続殺人は止められないのに事件の真相を解明したらすべてOKというのも考えてみると変なのだが、このあたりの矛盾にツッコミを入れた作り。

ドラマの中でも他の登場人物あるいは容疑者を尋問することに対する逆襲の形でどういう権限で人の殺人の動機になるような隠しておきたい部分を暴くのか、犯人ならともかく犯人ではないことの方が多いわけで、その暴かれた側の気持ちはどうなのかといった、名探偵がドラマに参加しないで済む特権みたい
なものを俎上に上げている。
ポワロのトレードマークであるピンとはねた口髭が彼の肉体的精神的傷を隠すためのものという設定からしてそう。

キャラクターに有色人種や性的マイノリティを入れているのも今風というか、約束事としてのミステリのゲーム性を破った作り。

しばしば左右対称の構図を多用しているのは、エジプトのヴィジュアルの核になっている王が死んだら女王も傍に葬られる像の並びになぞらえてだろう。作中で殺された遺体が白い布でぐるぐる巻きになって船から降ろされるのも同様。

ひたすら贅沢なオールスター娯楽トラベルミステリ大作だった78年度版の映画化、特にアンソニー・シェーファーの流麗な脚色とはずいぶんとテイストが違う。
あれは個々のキャラクターを端的な描写で描き分け、それぞれの犯行場面も空想で画面で再現して目くらましにしていた。
こちらは事件があってからそれぞれの動機を改めて描くみたいで座りはあまり良くない。

エジプトロケ効果も衣装・美術・撮影も贅沢には違いないのだが、単純にジャンル映画として楽しむのとは違う。