prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「インランド・エンパイア」

2008年04月15日 | 映画

映画の内容そっちのけで5.1chから9.1ch(らしきもの)にした音響効果の確認ばかりしていた。
それでちょうどいいみたい。内容が「わかる」とは期待していないし、デヴィッド・リンチの映画らしく音の作りに手がかかっているのは確か。

音の布を張り合わせた現代美術というか、現実的な音場を再現しようとしているのではなくて、ある瞬間にいきなり音の素が充満して空間の質を変える、とでもいった音の設計。逆に音がない場面でも沈黙自体がひとつの質感を持っている。


「紀子の食卓」

2008年04月14日 | 映画

同じ園子温監督の「自殺サークル」の続編ということで、54人の女子高生が新宿駅のホームから飛び降りて一度に自殺するシーンが唐突に出て来てこれがあとの展開にどう絡むのかと思うと、ストーリーが始まる前の前提ということらしくて、あまり発展はしない。

長尺だが、各章でそれぞれ違う人物の主観とナレーションで運ぶ工夫をしていて、描写が時間的に前後するだけでなくさまざまな視点を多角的に行き来するのが面白く飽きさせず、大きな物語のうねりにも富んでいる。
殺し場に「バラが咲いた」の歌が流れる対位法的効果。

レンタル家族という荒唐無稽のようでありそうなモチーフ。
いったん崩壊した家族がぐるっと迂回して「芝居」の場で再現される面白さ。

吹石一恵が大きな身体を生かした映画向きの風情と繊細な感情表現の両方を出した。
(☆☆☆★)


「あおげば尊し」

2008年04月12日 | 映画

身近に人の死を見ることがなくなってネットなどを通じて変な具合に死体に興味を持ったりしている小学生の教師が、自宅介護している自分の父親の姿を見せ、世話もさせることで、子供が頭の中だけでこねくりまわしていた死ぬこと生きることを具体な人のありようとして教える。
同僚の教師たちが妙に問題になるのではないかと、臭いものに蓋式の対応をしているのがリアル。

「病院で死ぬということ」あたりとも通じるモチーフで、お話映画ではなくて人間の体を含めて物自体の存在感を丹念に見せていく映像感覚が魅力。
だから、嫌われるタイプの教師だったという父親の葬儀に大勢の教え子が集まって「あおげば尊し」を歌うといういきなり話にオチをつけるようなラストは浮いている。

やや疑問なのは、「介護」という行為あるいはそれを事実上強制している社会制度自体が、いつまでも生きることを引き伸ばして死から目をそらし、ここで子供たちをおかしくしている「空気」の表れそのもので、死(とそれから生)を本当に見つめる行為ではないのではないか、と思えること。
(☆☆☆★)


「エリザベス」

2008年04月11日 | 映画

全編、洞窟の中で撮ったかのように暗い画面の連続。当時の王宮の中というのは実際ああいう具合だったのだろうが、残虐な場面も多いし、ちょっと息苦しい。ラストでまばゆいばかりの光を背負って王座に着くエリザベスの姿が、続編の「ゴールデン・エイジ」だと全編うって変わって華やかになるわけだろう。

今見ると、役者たちが出世した分、映画も格が上がって見える。
ダニエル・クレイグが出てくるのにびっくり。調べてみると、日本公開された劇場用映画だとこれが初出演作らしい。
(☆☆☆★)



「バンテージ・ポイント」

2008年04月01日 | 映画
この映画のシナリオの作者は「羅生門」を参考にしたというが、同じ時間帯を巻き戻しては繰り返し少しづつずらして重ねていくところは確かに「羅生門」だが、それぞれの「証言」が整合していることにおいて、どちらかというと「現金に体を張れ」に近い構成。

「現金…」が弦楽四重奏なら、これはフルオーケストラといった観で、スケールとヴォリュームがさすがにアメリカ映画的な見ものだし、繰り返しのうちにだんだん小出しに新展開を盛り込んでいるのもうまい。
後で考え直すと「24」的にいくらなんでもといったところもかなりあるのだが、勢いで見せ切ってラストでかちっと「決まる」のは近来珍しい快感。

舞台をヨーロッパとイスラムの狭間であるところのスペインに置いたのもチエがある。
(☆☆☆★★)


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