prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「リバー·オブ·グラス」

2022年08月07日 | 映画
テレンス・マリックの長編デビュー作「バッドランズ」(「地獄の逃避行」)をちょっと思わせる若いカップル犯罪者の逃避行もの。若い女のナレーションで運ぶ、どこか寓話がかったところが似ている。
奇しくもケリー・ライカート監督の長編デビュー作でもある。

ただ、正確に言うと犯罪を犯して逃げているのではなく、偶然手に入った銃をいじっているうちに撃ってしまい、それで人を殺傷したと勘違いして逃げ回るが、本当は誰も撃っておらず、逃げ回るのに必要な小金を盗んだりといった犯罪を犯していくうちに本当の殺人にまで至ってしまうという、逆転した構造になっている。

アメリカの田舎のだだっ広い感じがかえって閉塞感を感じさせ、なんでもないような家だが、昔そこに住んでいた女が夫を殺して壁に埋めたというのに何とも思わない住んでいる刑事の異様な無関心さが妙に不気味。
元ドラマー志望で今でもときどき叩いているというキャラと、そのドラムの音をBGMとしても使っている効果。

「あちら側」に行ってしまうかどうかは線の上を歩いているようなものだという緊張感。面白おかしいという映画ではないが、どこか引き付けられるところはある。
出来事がひどく唐突に起こり、投げ出すように断ち切られる独特の演出タッチ。





「トラック29」

2022年08月06日 | 映画
若いときのゲイリー·オールドマンの美青年ぶりにびっくり。

主演は監督のニコラス·ローグ夫人のテレサ·ラッセルで、「ジェラシー」でニンフォマニアックな色気を出していた延長で、うんと若い時に産んでいたかもしれない男とただならぬ関係になる役。
ずっと歳上の夫がドクことクリストファー·ロイドで、三人三様にクレイジー。

列車の模型が半ば模型、半ばミニチュア特撮のように本物に錯覚させる破壊のイメージとして使われているように現実と幻想や、時制が交錯させる技法が使われているけれど、「ジェラシー」あたりに比べると美的密度は落ちる。




「キャメラを止めるな!」

2022年08月05日 | 映画
日本映画「カメラを止めるな!」のフランス版リメイクなわけだが、冒頭の30分強の長回しのゾンビ映画の撮影現場がそのまま本当にゾンビが跳梁する世界になってしまうくだりで、どう見ても西洋を舞台にして西洋人が演じているのに、登場人物の名前がヒグラシとかいったオリジナルと同じような日本人名だったり、舞台になる廃屋が日本軍が死者を甦らせる研究をしていたという設定だったりなので、なんだいこれ?と思っていたら、後で説明がつく。

もともとのオリジナルがフィクションに現実が侵食される世界を前半で描いて、さらにその裏話を後半で別の角度から描くという、メタの上にメタを重ねていく作りなわけだが、さらにそれをリメイクするというこの映画の成り立ちまで取り込むという仕掛け。
ややこしいがオリジナル同様混乱はしない。

オリジナルのキャストの竹原芳子が出演しているわけだが、このけったいな容姿と存在感が日本人代表みたいな感じで、西洋人から見た日本人のヘンな感じを取り込んでいるみたいなのが微妙な感じ。
また日本人原作者がわからんちん的な描き方をされているのは微妙にひっかかる。

音楽を即興でつける設定なのだが、BGMかと思うと演奏中の音だったりするギャグは可笑しかった。





「破戒」(2022年)

2022年08月04日 | 映画
まず、島崎藤村の古典が実に60年ぶりに再映画化されたのに驚いたし、正直危惧もした。
危惧の根拠は大きく二つ、ひとつは部落差別というデリケートなテーマを扱うのに腰がひけてたとえば差別用語を使うのを逃げたりするか、あるいは古典文学という体裁を楯に形だけの映画化になりはしないか、だ。

しかし何しろ「水平社創立100周年記念映画製作委員会」の製作で、製作総指揮の西島藤彦氏は部落解放同盟の委員長だ。
冒頭に当時使われていた通りの言葉を使いますといった宣言の字幕が出て、正面きった差別批判の姿勢は、むしろ木下恵介監督版、市川崑監督版を上回るものだった。

原作は何十年も前に読んだきりなので正確なことは言えないが、はっきり加わったのは、権力側の姿と手口を具体的に描いたことと、背景としての日露戦争を書きこんだことだろう。

もとより部落差別に合理的な根拠などあるわけもなく(差別全体がそうだが)、ただわけもなく特定の相手を見下しそのこと自体を根拠に見せかける図は、たとえばSNSであまりに露骨に可視化された。
また、戦争では国民の命など鉄砲玉のような消耗品に過ぎず、国家のためにという美名のもとに一番犠牲になるのは一般人であり、戦争を煽る奴ほど安全地帯で甘い汁を吸うだけという図も、残念ながら変わらない。

また国会議員の甥という立場をかさに着て、恋敵でもある丑松を陥れようとその出自を志保に吹き込むというセコいやり口も、世の権力者なるものの矮小な姿を日々見せられている身には戯画化でもなんでもなくそのまま腑に落ちる。
ヒロインの志保がそういう男をきっぱりと拒絶するのははなはだ爽快。
これからは女性もさまざまな世界に進出する、いずれは選挙権も持つようになるといったセリフは原作にはたぶんない。

生徒たちへの丑松の告白がクライマックスになるのはこれまでの映画化もだが、さらにその後、後を慕って追ってきた生徒たちに正面きって勉強を続けることの大切さを説くのは、学歴や予算の獲得合戦とを学問と取り違える昨今のグロテスクと考え合わせると、強い感銘を生む。

そしてそれまで(おそらく大人の真似をして)わけもわからず部落民を蔑んでいた生徒がそのことに気づくところを描きこんでいるところや、丑松が志保と手を取り合って旅立つラストなど、むしろ明るく希望を持たせる。
丑松の友人の銀之助(矢本悠馬)が自然にふたりを守る側につくのが、朋友という古いコトバを思い出させるくらい友人のありがたさをてらいなく出した。 

主な舞台になる尋常小学校の校舎が階段のラッカー塗の手すりや壁の漆喰の質感など本当に古式ゆかしい校舎で撮影されていると思しく、それを広角レンズの手持ちカメラで移動しながら人物につけていくカメラワークなど、画作りが丁寧でしかも新しい感覚も出ている。

丑松の間宮祥太郎、志保の石井杏奈、猪子蓮太郎役の眞島秀和それぞれ意外なくらい古典の顔になりきっている。




「バズ・ライトイヤー」

2022年08月03日 | 映画
今更なのだけれど、ライトイヤーという名前はLightyearつまり光年という意味で、ここから今回のストーリーを考えたのではないかと思ったりした。

つまり光の速度で一年かかるという基準で計る世界、光速が基準になっている世界というわけで、ウラシマ効果つまり光速近くで移動して元に戻ると何百倍もの時間がそこでは経っている。
理屈としては知っていても、それで全面的にストーリーを組み立てた話というのは考えてみると案外少ない。
ただこれがエスカレートして時間旅行や多次元宇宙まで入ってくると、「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」とか「ターミネーター」シリーズの後の方みたいに原因と結果がごちゃごちゃになって、なんだかよくわからなくなる状態になる。

ディズニー作品としては珍しくというべきだろうが、脇のコメディリリーフ的なキャラクターの登場のタイミングや設定が練り不足。

もともとバズというのはマジで自分を宇宙飛行士だと思っているタダのおもちゃで、そのギャップがおかしかったし、最大公約数的な宇宙飛行士イメージを集めすぎてほとんどパロディみたいになっていたわけだが、この映画のライトイヤーからあのおもちゃが出来たというには、ややこし過ぎる。

「スター·ウォーズ」のフランチャイズ化もだが、いくらなんでも作りすぎになっているのではないか。

ジェームズ・ブローリンが声の出演をしているのにあれと思う。息子のジョッシュの方ではなくて。このところテレビ出演が主だから映画に出ている印象なかったけれど、82歳で現役なのね。





「女ばかりの夜」

2022年08月02日 | 映画
最近、監督としての再評価が進む田中絹代監督第5作(全6作)。1961年公開。
梁雅子原作 田中澄江脚本。
主演は原知佐子(夫は実相寺昭雄)。

4K修復版とあって中井朝一の見事に安定した撮影を堪能できる。
補導院や会社の寮など大勢が集まるシーンが多いので、シネマスコープサイズがぴったり。

売春禁止法が施行され大勢の売春婦が逮捕されて更生させるべく厚生寮か救護院に収容される。明らかに上流階級のご婦人たちが視察に来る冒頭ですでに何ともいえない断絶感がくっきり出ているが、かといってマダムたちをあからさまに偽善者として敵視するわけではない。

ここに出てくる香川京子が後で夫の平田昭彦と共に原をバラ園で働かせ、そこで出会った青年夏木陽介に惚れられて求婚されるが、夏木の母親がうちはうちぶれたりとはいえ士族の出で、夜の商売をしていたような女と結婚させるなどとんでもないと猛反対する。
ここで母親が姿を見せずに手紙と声だけで処理したのが、とりつくしまもない
感じをよく出した。

ここに来るまでにも素人ながら女を売っている女工たちと喧嘩してリンチされる場面など、いくらでも煽情的に描ける場面でも抑制が効いていて、世間なり法制度なりを非難する方向にも行けるが行かない。
たとえば売春禁止法施行に絡めた映画に田中とは縁の深い溝口健二の「赤線地帯」があるわけで、あそこでの女たちの追いつめ方とは逆をいっている感もある。




2022年7月に読んだ本

2022年08月01日 | 
読んだ本の数:18
読んだページ数:3250
ナイス数:1

読了日:07月01日 著者:ウォルター・テヴィス




読了日:07月02日 著者:一之瀬はち




読了日:07月02日 著者:水木 しげる




読了日:07月09日 著者:宮口幸治,鈴木マサカズ




読了日:07月09日 著者:宮口幸治,鈴木マサカズ




読了日:07月12日 著者:小島庸平







読了日:07月15日 著者:内田 正治




読了日:07月16日 著者:八木裕太




読了日:07月17日 著者:たもさん




読了日:07月18日 著者:草刈 正雄







読了日:07月24日 著者:なるあすく




読了日:07月24日 著者:なるあすく




読了日:07月24日 著者:なるあすく




読了日:07月28日 著者:笠原 一郎








読了日:07月31日 著者:リチャード ブローティガン