晴、11度、91%
今回の上京でちょっとだけ自分の時間がありました。雨降りでしたが、丸の内を目指して急ぎます。三菱1号館、三菱が自社の古い1号館を再建してできたレンガ造りの美術館です。丸ビルなどの現代的なビルが立ち並ぶ中、ふと顔を出すレンガ造りの建物は街角に丸いポストを見つけたような感覚です。
「オルセーのナビ派展」フランスのオルセー美術館が持つナビ派と呼ばれる画家たちの作品を集めた展覧会です。ナビ派?美の預言者であると自称したゴーギャン後の画家を指すそうです。一人一人の名前は知っていてもナビ派なるものがあるとは知りませんでした。この展覧会で見たかったのは、彫刻家とばかり思っていたマイヨールの絵画が出ていると知ってからでした。
マイヨールの絵は「女性の横顔」と題されています。黄色いバックに帽子をかぶる女性の横顔です。右片隅に横顔があり左半分は黄色で塗られた油絵は、素直な作品としか言いようがありません。でもその絵の前にじっと立っていると、マイヨールの彫刻「地中海」などに見られる嫋やかさが伝わってきます。嬉しいことに別のナビ派の画家が描いたマイヨールの肖像画もありました。肖像画から伝わってくるその人となりはマイヨールの彫刻や絵から滲み出ているものに共通しています。
全部で80点ほどの展示を中庭をめぐる回廊を通りながら部屋を移動します。この空間が貴重に思えます。 コブシの花が楚々と咲いていました。
ボナール、ドニの作品が多く、観て行くうちにナビ派と呼ばれる人たちの色遣いが分かるような気がします。力強くない平塗りの色彩です。その中、小さい黒ばかりに見えた絵がボナールの「ティーポットを持った女性、右向き、ひざの上からの肖像」と題された絵でした。手のひらほどの絵です。紙に水墨と黒鉛で描かれていました。一瞬エッティングかと思ったほどです。今にでも絵の中から飛び出してきそうなその女性の姿に惹かれました。
パンフレットにもなっている「格子柄のブラウス」もボナールの作品です。この女性の格子柄こそがナビ派の色遣いでしょうか。日常の一コマを描き出した画家たちの作品は、圧倒的な重みではなく、構図や色遣いの軽妙さが目に優しく飛び込んできました。
美術展を出て中庭の空気を一息、胸に吸いました。ここから一跨ぎすれば外堀に出ます。お堀の桜を見たいと思いますが生憎の雨です。お堀の周りには観光バスがいく台も停まっています。桜も雨で煙って見えています。いつもながらに駆け足の美術館、それでも私の中にホッとしたポケットができました。