曇、19度、78%
香港に渡ってすぐ、35年ほど前のことです。せっかく中華圏にいるのだからと「中華包丁」を買いました。近くのスーパーで売っているお安い包丁です。ゾーリンゲンの「中華包丁」などはデパートで売っていましたが、試しのつもりでしたのでお安い包丁にしました。大きくて、重い、この重みを使って肉をミンチにしたり骨を外したりと使う様子を市場で覚えました。中国は何をするにもこの中華包丁一つです。
日本から「杉本」の和包丁、ペティナイフを持って行っていました。手に馴染んだ包丁たちです。「中華包丁」を使いこなしたく思いますが手が伸びるのは使い慣れた包丁でした。研ぐのはこの私です。
先日、ミンチを作ろうと「中華包丁」を出しました。重さと手首のスナップで小気味好いくらいミンチがすぐに作れます。洗って仕舞うとき、近くにあったキャベツを切ってみました。すっと刃が入り綺麗な千切りができました。味をしめて、だいごんの千切りを作りました。以来2週間、この「中華包丁」一本で台所仕事をしています。魚をおろすときは刃先から身に入れ、包丁全体で引きます。肉の骨を外すときは付け根を間接に落とします。市場のおじさんたちの手元を思い出しながらの毎日です。
日本の包丁は確かに使い勝手良く作られています。「グローバル」の包丁を初めて手にしたのは香港の輸入品を扱う店でした。四本求めました。私の包丁の数、帰国前の一時期は十本以上でした。スーパーで買った「中華包丁」もこの一本だけを残して始末して帰国しました。
帰国後5年目にして、「中華包丁」の素晴らしさに気づきます。香港の市場に早朝行くと、肉や魚屋のおじさんたちは包丁を研いでいました。あの手元を思い出しながら私も中華包丁を研ぎます。30年間の香港生活、ひょんなことから日本での生活に飛び込んで来ました。