蝶になりたい

いくつになっても、モラトリアム人生。
迷っているうちに、枯れる時期を過ぎてもまだ夢を見る・・・。

こころ伝わる美しさ 

2008-06-13 | お付き合い
この日曜日、一年に一度の、ある集まりがあった。

去年は戸建てレストランの帰りに、私の家に寄っていただいたが、
今年のサプライズは、会場レストランの帰りに
「うちに寄る?」と突如申し出た、Sさん宅だった。

どんなお宅かな・・と、なんにも考えずにお邪魔してみて・・・

Sさん宅があまりにも素敵過ぎて、言葉を失ってしまった。

なにしろ、私の価値観に基づく理想にピタっと一致するお宅だった。
(当然ながら、私などは足元にも及ばないが。)

日ごろは心のなかで静かにぼんやり思っている、
まとまらない思いが、はっきりとはカタチになって、
まるで邸宅となって現れたような、そんなお屋敷だった。


そのSさんのお屋敷は・・・・

文化遺産的、時代の顔をもつ、超一流和風建築と庭園。
門構えはどっしり格調高く、白壁の蔵が土塀に続く。

門から玄関へとは石畳によって導かれるが、
辿り着くまでは何種類もの植物が植えられた庭にこころ和む。
庭も、外庭と、前栽(せんざい)があったが、中でも松は年月の重さを醸し出していた。
松の枝ぶりから、かなりの銘木とお見受けした。

紋入りの見事な瓦が光っていた。
おそらく明治か大正の建物だろう。
玄関土間は広々、そのむこうには10畳ほどの和室が6つ、つながっていた。

大おばあ様は、お茶の先生だったそうで、わびさびの世界を表現(茶室あり)
リフォームもされていて、和洋しっくり見事に融合していた。
お嫁さん(おばあ様)が建造物に造詣が深い方だそうで、凝った造りになっていた。

娘さんのご主人がイタリア人だったこともあり、水周りは色鮮やか、大胆でモダン。
ステンドグラスのトイレや、陽光が差し込む明るいバストイレ、
テラコッタを敷き詰めた土間が続く。
お客様が靴のままくつろぐ、第二、第三の談話室。

洋室もいったい、いくつあったか・・・???
ある部屋の床には、ホンモノの切り株(バームクーヘンみたい?)を
10センチ角ぐらいの木枠にはめ込んだものをびっしり敷き詰めてあった。
切り株といっても、骨太タイプのログハウス風ではなく、
よく見てみないとわからないぐらいの、あくまでも繊細な風情。
さりげない上質感。

和室には見事な欄間。その下の鴨居は低く、頭上すれすれだが、
昔の人は身長が低かったので、それは時代の特徴だ。

リビングルームには、太い梁、高い天井。
ほんのり暗めの部屋から見る庭の緑が、鮮やか。
一流の素材を品良く設え、調和されていた。
決して派手さはないが、格調高い佇まい。
うわべだけでない、確かな光を放っていた。

お手入れやメンテナンス、毎日の庭の水やり、大変だろう。
しかも、このお屋敷は、ご親戚の方から2年前に譲っていただいたそうだ。(購入)
Sさんは、すぐ近くにある、同じように時代を重ねた重厚な純和風のご自宅があり、この度お邪魔したお屋敷には住まわれていない。
なので、家を良好に保持するため、
部屋の扉をあけて、風を通さなければいけないようだ。
お仕事をされる忙しい身で、ご自宅だけでなく、このお屋敷を管理されるSさんは、実に上手に時間をやりくりされている。

Sさん邸・・・
私の目には、今もしっかり鮮明に焼きついている。
その光景。
光、風、空気、緑。におい、湿度、薄明かり。

私は建物フェチだ、きっと。
洋の東西を問わず、邸宅やお庭を拝見するのは大好き。
空間も大好き。
美しい調度品や美術品も大好きだ。

最も感激したのは、
お屋敷の維持を願う前住人の意思を尊重して、親戚であるSさんが、
日々、邸宅を管理していること。その美しさを維持してること。

お金持ちが道楽で、キンピカの屋敷を手に入れ、
使用人に手入れを丸投げして任せるのではなく、
ご自身で文化遺産を守ろうとしている姿勢に頭が下がる。

お金では買えない価値観をそこに見出した。
地方の素封家は、静かに、逞しく、脈々と続いている。

(とは言え、文化遺産を守るにも、実のところ、お金がモノを言うのだが・・・。)