昨日、日頃、お仕事をいただいている会社の担当者O氏の接待があった。
O氏は、53歳、営業畑ひと筋。
以前にその会社が入っていたビルの地下1階の、とある、お馴染みのお店。
O氏、ここのところ、奥さんと、娘さんが、奥さんの実家に行ったまま、帰ってこないそうだ。
娘さんは、20歳代前半だが、こころの病気で、不安定。
家のお風呂をすごく嫌がるので、何度か改装したらしいが、まだ、病気は回復していないとか。
このO氏、仕事にかこつけて、飲んだり遊んだり、ご帰還が午前様は、日常のひとコマ。
なのに、家族が実家に帰ってからは、家にはO氏ひとりなのに、早く帰るようになったそうだ。
(O氏がおっしゃるには)、家族とは、とても良好な関係だそうだ。
「おとうさん、いま、お風呂入ってるところなの?」
「おとうさん、いま、なにしてる?」など、随時、メールが入ってくると、嬉しそうな顔のO氏。
O氏には、家族が帰ってこない理由は、まったくわからない、と首をかしげつつ、
なんの問題もない、仲良しのご関係に、満足しておられる。
わたしは、この方のお話を聞いて、とても不思議な感覚に襲われた。
というのは、O氏は、なんの問題もないと思っている家族関係、
じつは、問題が山のように積まれていて、そのことをO氏が全く気付いていないということに、
ものすごく驚きを感じる。
O氏の家の隣には、O氏のお母さんが住んでおられる。
奥さんは、結構、気を使われ、苦労されたのではないかと想像する。
O氏は、家族に相談しないで、高級車を買ったり、毎年、沖縄キャンプ旅行を敢行したり、
家族はそのことに何も異議を唱えず、家族は喜んでいると感じておられるようだが、
かなりの、ワンマンおやじだと、わたしは思う。
仕事と遊びの境界がないような生活を何十年も続けて
家族はそれを働くお父さんにはついて回るものと、
経済を担う大黒柱を応援というカタチで、半ば、あきらめつつ、容認してきたことだろう。
女性ともよく遊ぶO氏。お付き合いも、さかん。
聞けば聞くほど、
(べつに、根掘り葉掘り聞き出したわけではないけれど、O氏が勝手にぺらぺらしゃべる)、
その内容には、仕事とも密接にからんでいたりして、
目をそむけたくなる、男性の嫌な面を感じる。
憤りを通り越して、不快を通り越し、言いようのない真っ黒な感覚にとらわれる。
接待中も、ケータイにメールがじゃんじゃん入っていたようだが、
新地の、ごひいきママからの、「お店に来てちょーだい」と勧誘メール。
よくあんな風で、家庭、家族がもっているなあ・・・と前々から思っていたが、
奥さんには数年前から、夫婦関係(夜の部)を拒絶され、
(しかし奥さんは、にこにこ笑顔で、原因は加齢によるNOなので
夫婦に亀裂とかの問題はないと、あくまでプラス思考のO氏)
娘さんのこころの病気の発症、奥さんと娘さんたちの実家へ帰ったままリターンなし、
そういった出来事に、家族の病理や、思いが、行動や現象となって表れているのに、
それを、円満、束の間・別居と捉えている、O氏の感覚が、事態をますます深刻にしているように思う。
常連であるO氏を昔から知ってる、その店のママも、いっしょに話を聞いていたが、
ママとわたしは、女性側の目線が一致し、同じ意見。
でも、立場上、言いたい事が言えないことも、同じ。
なので、「仕事って、つらいですよね~」と、お互いの気持ちを察し合った。
定年後、女房が怖くて、まともに顔を見られない、というお父さん方は少なくないはず。
二人だけになると、なにを話していいか、わからない、と。
自分の悪事、どのあたりまで知って、どのあたりまで許してくれ、どのあたりまで、手遅れなのか、
その、抱えている爆弾が、どんな状態なのか、びくびく、ひやひや。
女房達は、経済のため、耐えがたきを耐え、しのびがたきをしのんできた。
自分の蒔いた種なのに、自分が種を蒔いたことさえ気づかない、
それが、種であることすら気付かない、その神経、発想は、いったい、どこからくるのだろう。
ある定年まじかな熟年男性(関西在住)が、言っていた。
三行半の死刑判決は、ある日、突然ではなく、
不満や言いたい事があれば、少しずつ、小出しにして、改善の余地、猶予を与えてほしい、と。
この方、定年後は、いずれ実家のある九州に帰るつもりだそうだ。
さて、奥さんは、付いてきてくれるかな?
「にこにこ笑顔」というのに惑わされてはいけない。
痛みを感じない病気があって、病気が進行していても自覚症状がないように、
表面上、荒波が立っていないと、事態が深刻になっていても、気がつかない。
ヒステリックに、叫んだり、わめいたり、お皿が飛んできたり、
そういう感情をむき出しにする修羅場のほうが、
静かな笑顔の末期症状に比べると、まだ、回復の見込みがある。
外から見ると見えることでも、当の本人には、まったくわからないものだ。
台風のまっただ中なのに、その真ん中は、静かで風ひとつ吹かないように。