夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『そして、ひと粒のひかり』

2006年04月20日 | 映画(さ行)
『そして、ひと粒のひかり』(原題:Maria Full of Grace)
監督:ジョシュア・マーストン
出演:カタリーナ・サンディノ・モレノ,イェニー・パオラ・ベガ,ギリエド・ロペス他

アメリカとの合作ではありますが、
珍しいコロンビア映画です。

17歳の少女マリアは農園で働く。
市場に卸すバラの刺を削ぎ落とす仕事。
家では母と乳児を抱える姉がマリアの帰り待っている。
稼ぎのほとんどを家に入れているにもかかわらず、
母も姉もそれが当然といった表情。

ある日、勤務中に気分の悪くなったマリアは
トイレに行きたいと申し出るが、上司は許可しない。
仕事の遅れを罵られるうち、マリアは嘔吐してしまい、
怒った上司は汚れたバラをマリアに洗わせる。

ばかばかしくなったマリアは仕事を辞める。
啖呵を切ってみたものの、他にあてがあるでもなく、
しかもどうやら妊娠したようだ。
交際中の相手を別に愛してはいないし、
結婚したって先にあるのは姉のような暮らし。

これからのことを思い悩んでいるところへ、
知り合ったばかりのフランクリンが声をかけてくる。
「麻薬密輸組織の元締めを紹介する」との言葉に、
最初は断りながらも報酬に惹かれて話を聞きにいく。

それは「ミュール」と呼ばれる1回5,000ドルの仕事。
ヘロインを詰めたブドウ大の袋を50~60粒飲み込んで、
コロンビアからニューヨークまで運ぶのだ。
十分に家族を養っていけるその報酬額に
マリアは引き受ける決意をする。
のちに友人のブランカも同じく仕事を引き受けたことを知り……。

おもしろいのは、マリアもほかのミュールたちも
麻薬自体にはまったく興味がないということ。
たいていの麻薬絡みの作品は、ヤク中の主人公が
ボロボロになって更生して……って感じで、
それはもう観るのが辛くて苦手なのですが、
ヤク自体には興味がないのに、
それを胃に詰め込むミュールの姿はヤク中より凄惨です。
袋を傷つければ自分の胃の中で破裂して死に至る。
そうならないために、ブドウを袋に見立てて飲み込む練習。

南米の映画を観ると、いつもそのパワーに圧倒されます。
生きるか死ぬかの瀬戸際で暮らす人たちからは
死ぬことをも恐れない強さを感じ、
だから生きることの意義がより強く感じられます。

カトリック系キリスト教の国で、
マリアという少女が子どもを宿す一方、
同じ体内にヘロインを詰め込み、生き抜こうとする。
そのラストは綺麗事に終わらず、
でも希望を見せてくれる優れもの。

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