夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『わたしはロランス』

2014年05月26日 | 映画(わ行)
『わたしはロランス』(原題:Laurence Anyways)
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:メルヴィル・プポー,スザンヌ・クレマン,ナタリー・バイ,モニア・ショクリ,
   スージー・アームグレン,イヴ・ジャック,ソフィー・フォシェ他

3年前までは劇場で鑑賞する本数はせいぜい60本程度だったはず。
それが、あることがきっかけで2012年から150本前後を劇場で観るように。
で、劇場で観たものを優先してここにUPしていたら、
かつてのようにはDVDで鑑賞した作品をUPするひまがなくなりました。
劇場未公開でおもしろかった作品はできるだけ紹介したいけれど、
劇場公開された作品については年末の「今年観た映画50音順」まで出番なしだなぁと。

しかし、これは別。ちょっと衝撃的でした。
昨秋公開された2012年のカナダ/フランス作品で、4月25日よりレンタル開始。
168分と長尺ゆえレンタルを躊躇していましたが、観てよかった。
劇場で観なかったことがこんなに悔やまれたのは『灼熱の魂』(2010)以来。

国語教師ロランスは、物腰やわらかく機知にも富むイケメンで、生徒たちの間で人気者。
一緒に暮らす恋人フレッドのことをこよなく愛し、よい関係を築いている。

そんな彼には、フレッドにも隠しつづけてきた秘密がある。
それは、自分の心は女であり、男の体は間違いだと思っている、
つまり性同一性障害であるということ。

30歳の誕生日を迎えた日、ついにそれをフレッドに打ち明けるロランス。
ゲイであることをなぜ黙っていたのかと憤るフレッドに、
ロランスは、これはゲイとは別のものであると懸命に話す。

一旦飛び出したフレッドだったが、ロランスを愛する気持ちは変えられない。
彼がこれから女として生きていくために協力すると決める。
以降、ロランスは学校にも女性の格好で出かけるのだが……。

監督のグザヴィエ・ドランは25歳、ゲイ。
『マイ・マザー』(2009)で自ら主演して監督デビューを飾ったときには
まだ19歳だったというのですから驚きです。
本作は第65回カンヌ国際映画祭のクィア・パルム(セクシュアル・マイノリティをテーマにした作品に与えられる賞)受賞作。

1989年生まれの監督が本作の舞台として設定したのは、
現在ほど性同一性障害が認識されていなかったであろう1989年から1990年代初めのカナダ。

ロランス役のメルヴィル・プポーが美形なのに比べると
フレッド役のスザンヌ・クレマンは特徴的な容姿なのですが、
愛した男性から唐突に「自分の心は女だ」と告白されて苦しむ女性を見事に演じています。

性同一性障害については私はまだまだ無知で、理解しがたいところも多い。
心は女だと言うロランスが愛するのは女、
だけど性的には男で、男として行為に及ぶ。
それゆえフレッドが離れられない部分もあると思っていいのでしょうか。

女装をする息子を受け入れられるはずもない父親に対して、
ナタリー・バイ演じる母親ジュリエンヌは凄い。
母親に打ち明けたロランスが「もう愛してくれない?」と尋ねると、
「女じゃなくて、バカになっちゃったの?」と笑うジュリエンヌ。
また、引っ越しを決めたジュリエンヌは、「私は住所を変える。あなたは性別を変える」と、
たいしたことじゃないわよと言わんばかり。
「あなたは昔から息子じゃなかった。娘のような気がしてた」という台詞も実にいい。

ロランスやフレッドの心情を表すシーンにも惹かれます。
ソファに座って放心状態のフレッドが滝のような水をかぶったり、
色とりどりの布地が華やかに飛び交ったり、枯れ葉が吹雪のごとく舞ったり。

原題の“Laurence Anyways”はラストシーン、ふたりの出逢いのときの台詞。
こんな素敵な出逢いかたをしたら、忘れたくても忘れられない。
……ナンパのひとつに過ぎないけれど。(^^;
切なさで胸がいっぱい、悲しくて悲しくて、涙がこぼれました。

『チョコレートドーナツ』と併せて観たい1本。
その想い出を胸に、生きてゆく。

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