『FORMA フォルマ』
監督:坂本あゆみ
出演:松岡恵望子,梅野渚,ノゾエ征爾,光石研,仁志原了他
先週の土曜日、甲子園へ行く前にTOHOシネマズ西宮にて。
これが長編デビューとなる新鋭の女流監督の作品。
第64回ベルリン国際映画祭フォーラム部門で国際映画批評家連盟賞を受賞。
ちなみにこのとき、コンペティション部門で銀熊賞の審査員グランプリを受賞したのが『グランド・ブダペスト・ホテル』、
女優賞を受賞したのが『小さいおうち』の黒木華でした。
キャッチコピーは「145分のアンチテーゼ。」。
私にとって、何度説明されてもわかりづらい言葉のひとつが“アンチテーゼ”で、
「誰かが唱えた説に反対の説のこと」と言われたら、
「ふ~ん」と一応納得できるのだけど、自分では具体例を挙げて説明できません。
そんなことを考えながら本作を観ていたら、
誰かが唱えた説がどれで、アンチテーゼは果たして何になるのだろうかと、
またしてもわからなくなってしまいました。(--;
OLの綾子(梅野渚)は、仕事帰りに通りかかった工事現場で立ち止まる。
警備員に知っている顔を見つけたから。
それは高校時代に近所に住んでいた部活仲間、由香里(松岡恵望子)だった。
9年ぶりに再会したふたりは、一緒にテニスをする。
その折り、綾子は自分が勤務する会社に来ないかと由香里を誘う。
綾子の紹介により、すぐに由香里も同じ会社で働きはじめるが、
綾子から聞いていた会社の状況とは全然ちがう。
人手不足のはずが、コピーにお茶汲み、トイレ掃除と、回ってくるのは雑用のみ、
しかもわざわざ捻出したような仕事ばかり。違和感をおぼえる由香里。
ある日の終業後、由香里は婚約者の田村(仁志原了)と会う予定。
それを知った綾子は自分も同席すると言う。親友なんだから、紹介して当然でしょと。
綾子は由香里の高校時代について田村が知っているのかと、由香里にしつこく問う。
なんのことかと由香里が訝ると、男関係が派手だったとか云々。
後日、綾子は田村を呼び出し、由香里のことをあれこれ話す。
田村がそれとなく由香里に探りを入れようとして失敗、由香里は綾子の行動を知る。
会社での冷たい態度や田村に対する告げ口のほか、
綾子の不可解な言動によって、由香里は次第に追い詰められて行くのだが……。
冒頭、人気のなくなったオフィスで段ボールをかぶってうろつく綾子の姿。
蛍光灯っぽく見える電灯が殺伐とした空気を醸し出しています。
145分間、BGMいっさいなし。全編を覆う虚無感。
由香里と綾子それぞれが人に聞かせる話が食い違っていて、
最初は圧倒的に性格の悪そうな綾子の作り話に思えます。
光石研演じる父親と二人暮らしの綾子は、毎晩食事しながら由香里の悪口。
自分から職場に誘っておいて「使えない」だのなんだの。
そんな綾子の話にたいした反応なく相づちだけ打つ父親。
女って怖いな、このまま妄想がつづく物語なのかなと思わされるのですけれど。
そんな思いがひっくり返されるのは、残り45分になった頃。
誰だったっけ、この人という登場人物がいきなりメインになって面食らっていると、
裏で起きていたあれこれが明かされて、見事なサスペンスとなっています。
物事を片側から見るだけではわからないし、必ず双方の言い分が存在する。
物の大小の捉え方はさまざまで、片方にとっては些細なことでも、
もう片方にとっては奈落の底に突き落とされるほどの出来事だったりする。
ラスト、電車の音にかき消される声。そこでどんな会話がなされたのか。
“アンチテーゼ”は相変わらずよくわからないけれど、想像力をかき立てられます。
難解なつくりになっているわけではなく、非常におもしろい。
だけど、この救いのない絶望感。
この手の作品が好きで、しかも元気な人にしかオススメできず。
これからが楽しみな監督です。
監督:坂本あゆみ
出演:松岡恵望子,梅野渚,ノゾエ征爾,光石研,仁志原了他
先週の土曜日、甲子園へ行く前にTOHOシネマズ西宮にて。
これが長編デビューとなる新鋭の女流監督の作品。
第64回ベルリン国際映画祭フォーラム部門で国際映画批評家連盟賞を受賞。
ちなみにこのとき、コンペティション部門で銀熊賞の審査員グランプリを受賞したのが『グランド・ブダペスト・ホテル』、
女優賞を受賞したのが『小さいおうち』の黒木華でした。
キャッチコピーは「145分のアンチテーゼ。」。
私にとって、何度説明されてもわかりづらい言葉のひとつが“アンチテーゼ”で、
「誰かが唱えた説に反対の説のこと」と言われたら、
「ふ~ん」と一応納得できるのだけど、自分では具体例を挙げて説明できません。
そんなことを考えながら本作を観ていたら、
誰かが唱えた説がどれで、アンチテーゼは果たして何になるのだろうかと、
またしてもわからなくなってしまいました。(--;
OLの綾子(梅野渚)は、仕事帰りに通りかかった工事現場で立ち止まる。
警備員に知っている顔を見つけたから。
それは高校時代に近所に住んでいた部活仲間、由香里(松岡恵望子)だった。
9年ぶりに再会したふたりは、一緒にテニスをする。
その折り、綾子は自分が勤務する会社に来ないかと由香里を誘う。
綾子の紹介により、すぐに由香里も同じ会社で働きはじめるが、
綾子から聞いていた会社の状況とは全然ちがう。
人手不足のはずが、コピーにお茶汲み、トイレ掃除と、回ってくるのは雑用のみ、
しかもわざわざ捻出したような仕事ばかり。違和感をおぼえる由香里。
ある日の終業後、由香里は婚約者の田村(仁志原了)と会う予定。
それを知った綾子は自分も同席すると言う。親友なんだから、紹介して当然でしょと。
綾子は由香里の高校時代について田村が知っているのかと、由香里にしつこく問う。
なんのことかと由香里が訝ると、男関係が派手だったとか云々。
後日、綾子は田村を呼び出し、由香里のことをあれこれ話す。
田村がそれとなく由香里に探りを入れようとして失敗、由香里は綾子の行動を知る。
会社での冷たい態度や田村に対する告げ口のほか、
綾子の不可解な言動によって、由香里は次第に追い詰められて行くのだが……。
冒頭、人気のなくなったオフィスで段ボールをかぶってうろつく綾子の姿。
蛍光灯っぽく見える電灯が殺伐とした空気を醸し出しています。
145分間、BGMいっさいなし。全編を覆う虚無感。
由香里と綾子それぞれが人に聞かせる話が食い違っていて、
最初は圧倒的に性格の悪そうな綾子の作り話に思えます。
光石研演じる父親と二人暮らしの綾子は、毎晩食事しながら由香里の悪口。
自分から職場に誘っておいて「使えない」だのなんだの。
そんな綾子の話にたいした反応なく相づちだけ打つ父親。
女って怖いな、このまま妄想がつづく物語なのかなと思わされるのですけれど。
そんな思いがひっくり返されるのは、残り45分になった頃。
誰だったっけ、この人という登場人物がいきなりメインになって面食らっていると、
裏で起きていたあれこれが明かされて、見事なサスペンスとなっています。
物事を片側から見るだけではわからないし、必ず双方の言い分が存在する。
物の大小の捉え方はさまざまで、片方にとっては些細なことでも、
もう片方にとっては奈落の底に突き落とされるほどの出来事だったりする。
ラスト、電車の音にかき消される声。そこでどんな会話がなされたのか。
“アンチテーゼ”は相変わらずよくわからないけれど、想像力をかき立てられます。
難解なつくりになっているわけではなく、非常におもしろい。
だけど、この救いのない絶望感。
この手の作品が好きで、しかも元気な人にしかオススメできず。
これからが楽しみな監督です。