『君は行く先を知らない』(英題:Hit the Road)
監督:パナー・パナヒ
出演:モハマド・ハッサン・マージュニ,パンテア・パナヒハ,ラヤン・サルアク,アミン・シミアル他
シネ・リーブル梅田にて、もう1本。
イランの巨匠ジャファル・パナヒ監督の長男パナー・パナヒの長編監督デビュー作品。
父親のジャファル・パナヒ監督は、イランの政治体制を批判しつづけている人です。
その作品は国外で高い評価を受けているにもかかわらず、当局からは目をつけられ、
イラン国内では上映禁止になるどころか、監督本人が逮捕されて禁固刑に服したりも。
それでも映画を撮ることをやめようとしない監督の息子はどんな作品を撮るのか。
予告編を観て公開を心待ちにしていましたが、社会的背景をよく知らないまま観ると戸惑います。
イランの国境近くを車で旅する4人家族。
両親と息子2人。長男とは歳の離れた次男だけがこの旅の理由を知りません。
まだ幼い次男は、憂鬱な顔をした家族の気持ちなど知る由もなく、
ひとり無邪気にはしゃぐから、特に父親はそれに対する苛立ちを隠せない。
旅の理由がはっきりと言葉にされるシーンはないのです。
本作は監督自身の亡命体験に着想を得ているとのことだから、
そうか、これは長男が亡命するための旅なのだとわかる。
亡命するには基本的には本人だけが出向かなければいけないのに、
長男のことが心配でならない両親はついて行きます。
ケータイも持参してはいけないことになっているのに、次男がこっそり持ち込む。
次男は旅の理由を知らないから、好きな女の子から電話がかかってきたら困ると思って持ち込むのですが、
途中でケータイが鳴ってバレてしまい、母親が没収。後で回収できるように路傍に埋めます。
案内人は羊皮のマスクをかぶっていて、長男もいずれかぶる。
その羊皮を指定された場所で買わねばなりませんが、皮だけのはずが羊1頭分払わされたりも。
無事亡命できるとなると、あと一度だけ息子と会える機会が設けられるようで、
でもそのときは息子も羊皮のマスクを着用しているから、誰が誰だかわからない。
長男がいなくなった帰り道、兄不在の理由がまだわからない次男が歌って踊る。
両親にしてみれば、長男がいないのは悲しくても、亡命できるのなら致し方ないと思っているふうでもある。
景色の美しさが余計に切なさを呼びます。
どこにいても、家族は家族。じゃない場合もあると思うけど(笑)、本作を観るとそう思う。