『その鼓動に耳をあてよ』
監督:足立拓朗
名古屋掖済会(えきさいかい)病院は、1948年に船乗り相手に名古屋港近くに開院。
当時から「断らない」を標榜していたそうです。
1978年に東海地方初の救命救急センターを設置して今日までずっと、「断らないER」。
本作は東海テレビのクルーがこの病院ありのままの姿をフィルムに収めたドキュメンタリー。
掖済会病院で受け入れる救急車は年間1万台とのこと。
保険に入っていない患者はごろごろいて、所持金もゼロ、会計を踏み倒されるのなんて日常茶飯事。
それでも断らずに目の前の命を救うことに専念しているスタッフたち。
専門医と救命医の間にはなんとなく格差があり、救命医は下に見られているそうです。
本作にメインで出演している蜂谷医師は、専門医か救命医どちらの道に進むかを考えたとき、
「何でも診られるのがいいな」と思って救命医を選んだとのこと。
そのときの「何でも」は、「どんな病気も、どんな年齢の人も」という意味の「何でも」だったけど、
いざ救命医となってみたら「社会的な問題の何でもも含んでいた」。
24時間365日、凄い仕事だと思いました。本当に、頭の下がる思い。
ただ、本作で映し出される掖済会病院の面々は皆明るい。
「チンピラ、クレーマー、最初からキレてる奴、いっぱいいる」と言って笑う。
体を診る以前に精神的に参ってしまうのではと思うし、
実際そうなってしまった医師もいるとは思うけれど、本作の彼らの表情には救われます。
「掖済会病院がなくなったらどうなると思いますか」という質問に対して、
「第二の掖済会が出てくるんじゃないですか」という答えを聞いて、
とにかく自分たちがなんとかしなきゃと思ってはいても、
自分たちがいなきゃ終わりだという傲慢さはないように感じました。
救命医がすべての命を救えればいいけど、専門医に引き継がなければどうしようもない時もある。
どんぐりが鼻の中に入って泣き叫ぶ少年。あまりにデカいどんぐりで、救命医が取り出すのは無理でした。
耳鼻科の専門医に治療してもらったあと、画面に映るどんぐり。
「餅は餅屋。どんぐりは耳鼻科」という蜂谷医師のコメントに笑った。