『ファーザー』(原題:The Father)
監督:フロリアン・ゼレール
出演:アンソニー・ホプキンス,オリヴィア・コールマン,マーク・ゲイティス,
ルーファス・シーウェル,イモージェン・プーツ,オリヴィア・ウィリアムズ他
京都シネマで4本はしごの4本目、イギリス/フランス作品。
アンソニー・ホプキンスは本作で第93回アカデミー賞主演男優賞を受賞しました。
「感動のヒューマンドラマ」とあるのですが、それはちょっと違いませんか。
戦慄が走るというのか、不安でたまりませんでした。
ロンドンで一人暮らしをする老人アンソニー。
心配する娘アンがアンソニーと合いそうな介護ヘルパーを見つけてくるが、
気難しいアンソニーは難癖を付けてはヘルパーを追い出してしまう。
アンソニーには認知症の兆候が現れていて、日に日に悪化。
しかも本人はそんな認識がまったくないから、アンにも辛く当たり……。
ストーリーとしてはこれだけのことなんです。でも凄い。
認知症の人が何を思い、何を見て、どう認識しているのかは実際のところはわからない。
どんなに研究しようとも、研究している人は認知症ではないのですから。
でも、実際こんな感じなのかもしれないと思わされます。
自分の家にいたはずなのに、どこか様子がちがう。
独身のはずの娘に恋人ができたらしいと思ったら、娘は結婚していると言う。
その娘の夫を名乗る人物が目の前にいて、自分を冷ややかな目で見つめている。
もはやどの女性が自分の娘なのかもわからない。
ヘルパーだという若い女は、末の娘にそっくりで、でも末の娘はもうこの世にいない?
自分は知的で、何でもひとりでできるはずだったのに。いや、できるのに。
自分を子どものように扱うこの女は誰だ。この男は誰だ。
頭がおかしくなっているのは認めたくない。でも何が起きているのかわからない。
その言動を、戸惑いに満ちた心の裡を、こんなにも表現できるものなのですね。
アンソニー・ホプキンスの演技はもちろん素晴らしい。
そしてアン役を演じたオリヴィア・コールマンも素晴らしい。
感動的なシーンなんてありません。ただ、つらい。