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『どうすればよかったか?』

2025年01月02日 | 映画(た行)
『どうすればよかったか?』
監督:藤野知明
 
ここからしばらくは旧年中に観た作品です。
ナナゲイこと第七藝術劇場にて。
 
前月予告編を観たときから気になっていましたが、どうにもキツそう。
心が相当元気なときじゃないと観るのは無理だろうと思っているうちに公開になり、
あちこちのメディアで取り上げられて連日満席の模様。
んじゃやっぱり観ておきましょうかと覚悟してオンライン予約しました。
私が予約した時点でほぼ席が埋まっていて、当日は立ち見客が数十人出る盛況ぶりです。
 
北海道出身の藤野知明監督は1966(昭和41)年生まれで私と同年代。生きてきた時代背景が同じ。
姉と弟のふたりきょうだいというところも同じですが、環境はかなり異なります。
 
なにしろ藤野監督のご両親は共に医学に携わる人で、
藤野監督が生まれる前には監督の8歳上の姉・まこさんを連れて家族で欧州旅行。
当時の様子を収めた8ミリフィルムがたくさん残っていたり、
大正と昭和一桁生まれの両親が用意する食事はとっても洋風だったりして、
なんというのか、余裕ある暮らしだったように見受けられます。
 
まこさんも幼い頃から医学に興味を持ち、目指すは医者。
藤野監督曰く「姉は僕よりもずっと優秀で、中学・高校とずっとトップの成績」。
しかし医学部に入るのにはまぁまぁ苦労して、4年かかったそうです。
 
苦労して医学部に進学したといっても、まこさんは順調にその道を進んでいると思われていました。
ところが突然おかしくなる。夜中に大声で怒鳴りはじめ、救急車を呼ぶことに。
翌日にはまこさんを連れ帰ってきた親の「娘は100%正常」という言葉に藤野監督は疑問を持ちますが、
家族の中でまだ子どもの彼に発言権はありません。
 
やがて藤野監督も北海道大学に入学し、実家を離れたかったこともあって神奈川県で就職。
その後、映像制作を学んだ彼は、帰省して家族の姿を記録しはじめます。
最初に救急車を呼んだ日から18年後のことでした。
 
冒頭、本作は「統合失調症の原因を明らかにしたり治療法を追求したりするものではない」という、
監督自身の言葉によるテロップが映し出されます。
文言を正確に覚えているわけではありませんが、こんな意味だったかと思います。
 
娘が精神を患っていると認めたくない両親。けれど現状としてまこさんはおかしい。
まこさんが勝手に外出しては困るからと、玄関に南京錠などをつけます。
予告編からは彼女を部屋に閉じ込めたのだと思っていたので、そうではなかったのはまだマシに映りました。
 
冒頭のテロップで言われているように、本作は20年間の「記録」に徹しています。
 
まこさんの日常の行動、彼女と共に自らも外出しなくなった母親。
母親に認知症の兆候が現れはじめ、睡眠中のまこさんをわざわざ起こしたり、侵入者がいると言ったり。
その段になってようやくまこさんに診察を受けさせることに父親が同意し、
まこさんに合う薬が見つかって、3カ月入院したのち戻ってきます。
しかしまこさんがステージ4の肺癌だとわかる。
 
まこさんより先に亡くなった母親は、まこさんを病院に連れて行かないのは夫のせいだと話していました。
夫の言うことは絶対で、もしも娘を病院に連れて行けば夫は死ぬよ。
けれど、最後に残った父親に聞けば、妻が娘の病気を認めようとしなかったせいだと言う。
ふたりとも「せい」という言い方はしていないから、これは私の印象ですね。すみません。
 
「パパ」「ママ」と呼び合い、ただの一度も「僕」「俺」「私」等なかったことに違和感。
ずっとパパでありママであったのかなと思います。
記録に徹していたとはいうものの、監督が「復讐したいのか」などとまこさんに訊くところにも違和感。
 
どうすればよかったかはわかりません。
ただ、まちがった対処をしたとは思わないと断言する父親と父親のやり方を肯定する母親を見て、
自分たちは精一杯やったのだと、この人たちは満足だったかもしれないと思いました。
 
安易には何も言えない気がして、感想を書くのがとてもむずかしい。

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