『ニューヨーク・オールド・アパートメント』(原題:The Saint of the Impossible)
監督:マーク・ウィルキンズ
出演:マガリ・ソリエル,マルセロ・デュラン,アドリアーノ・デュラン,タラ・サラー,ジーモン・ケザー他
前述の『サイラー ナラシムハー・レッディ 偉大なる反逆者』の後、同じく塚口サンサン劇場にて。
シネ・リーブル梅田で見逃した本作を鑑賞することができました。
監督はこれが長編デビュー作となるスイス出身のマーク・ウィルキンズ。
そんなのほほんとした作品ではありませんでした。相当ヘヴィー。
中華料理店のデリバリーのバイトをしながら英語学校に通うふたりは、
挙手しても教師から無視されるなど、まるで透明人間のような生活を余儀なくされていたが、
ある日、クロアチアからの移民だという絶世の美女クリスティンが転入してきてウキウキ。
クールなことこのうえないクリスティンからちょっと声をかけられるだけでメロメロになり、
妄想を膨らませていたふたりは、毎日彼女と会いたくてたまらない。
そのせいで、仕事上がりのラファエラを迎えに行く日課をすっぽかすことも。
一方のラファエラは、店の客で小説家のエワルドに言い寄られ、部屋に連れ込むようになる。
やがてエワルドはラファエラに店を辞めてブリトーのデリバリー店を始めようと言い出す。
メキシコ人でもないのにブリトーなんてと渋るラファエラだったが、
資金は出す、これはチャンスだなどとエワルドに言われて乗り気になってしまう。
母親のことが気になりつつもクリスティンにぞっこんのふたりは、
自分たちがいつまで経っても透明人間なのはイケていない童貞だからなどと自嘲していると、
クリスティンからある条件と引き換えに童貞卒業を持ちかけられ……。
なんだかこうして書いていても軽い青春ものに感じられますが、全然そうじゃない。
冒頭、おでこを負傷したラファエラが友人らしき女性に伴われてやってきた部屋は、
保健衛生局から立ち入り禁止の貼り紙をされていて、中は荒れ放題。
そこにいるはずの息子たちの姿が見えず、ラファエラが動揺するシーンから始まります。
時系列をいじりながら物語は進行。
貧しいながらもまぁまぁ幸せに暮らしていた3人に思えましたが、
クリスティンとの出会いやエワルドの登場によってそれが少しずつ変わってしまう。
みんな恋をしたいし、より良い生活を送りたいと思っているのに、それが全部悪い方向へ。
良いことなんていっさい望んではいけないのだろうかと思わされます。
金だけは持っているのかと思えたクリスティンも、高級娼婦として体を売っているのには訳がある。
だけど金目当てに騙されていると知ったときの彼女の気持ちは計り知れません。
どう考えても行く先は暗い。それでも前向きに生きる人たち。
最後は少しだけホッとする。