夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『硫黄島からの手紙』

2006年12月15日 | 映画(あ行)
『硫黄島からの手紙』(原題:Letters from Iwo Jima)
監督:クリント・イーストウッド
出演:渡辺謙,二宮和也,伊原剛志,加瀬亮,松崎悠希,中村獅童他

硫黄島の戦い二部作の第二弾。二部作だからといって、
本作だけでは話がわからないわけではなく、
単独で観ても十分興味深い作品です。
でも、できるだけ、前述の『父親たちの星条旗』
併せて観ることをお薦めします。

太平洋戦争末期、最重要拠点と言われる硫黄島に
新たな指揮官として栗林中将(渡辺謙)がやってくる。
それまでの日本軍は根性論に走り、体罰も当たり前。
渡米経験のある栗林はそんな軍の体質を嫌い、合理化を図る。

合理化の第一歩として、栗林は砂浜の穴掘りをやめさせる。
もとよりの戦略では、海岸に到着した米軍をその場で叩くため、
砂浜の穴に潜り込むことになっていたのだ。
しかし、それを無駄に死傷者を増やすだけだと考えた栗林は、
砂浜よりも擂鉢山を死守する戦略に変更する。

古参の将校たちは栗林に賛同できず、陰口を叩くが、
ロサンゼルス・オリンピックの金メダリストでもある馬術の名手、
西中佐(伊原剛志)は栗林に理解を示す。
また、上官から殴られているところを栗林に救われた西郷(二宮和也)ら、
若い兵士たちは栗林のやり方に希望を抱く。

栗林の案によって、島中に壕を掘り、
地下トンネルで繋がる要塞を築いた日本軍は、
米軍の襲撃に備える。やがてその日がやってきて……。

戦争映画というと、私のワースト映画『パール・ハーバー』(2001)もそうですが、
綺麗事を並べて、ハイ、戦争は悪いことです、
やめましょうねという嘘くさい話になりがち。

ところが、やはりクリント・イーストウッド、恐るべし。
二部作はそれぞれ米国側、日本側から描かれているわけですが、
米国側から見たからと言って米国を賛美することはなく、
日本側から見たからと言って日本に肩入れしていることもありません。
なぜこんな冷静でいられるのかと思うほど、
平等な視線が向けられています。ひたすら淡々と。
これをアメリカ人が撮ったということに驚きます。

戦争映画に説教は要らない、
そんなものより、こうして淡々と描くほうが、
ずっと強く戦争の悲惨さをを人の心に訴えてかけてきます。
なぜかわからないのに自然と流れる涙。

とんでもないことをしでかしてしまったとき、
「墓穴を掘る」と簡単に口にしますが、
本作を観ると軽々しくは言えなくなります。

ぜひご覧を。

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『父親たちの星条旗』

2006年12月11日 | 映画(た行)
『父親たちの星条旗』(原題:Flags of Our Fathers)
監督:クリント・イーストウッド
出演:ライアン・フィリップ,ジェシー・ブラッドフォード,アダム・ビーチ他

第二次世界大戦中、太平洋戦争で
もっとも重要な戦略拠点と言われた硫黄島の戦いを
米国側、日本側、それぞれの視点から描いた二部作の第一弾。
第二弾の『硫黄島からの手紙』も先週末から公開され、
すでに話題になっています。

恥ずかしながら、私には前知識がほとんどありませんでした。
前述の『手紙』を観たあと、時間的にちょうどよかったので選んだまで。
ところが、クリント・イーストウッド、恐るべし。参りました。

太平洋戦争の末期、硫黄島に上陸した米軍は、
予想を上回る日本軍の激しい抵抗に苦しみ、
数日間で終わると思っていた戦いに決着をつけられずにいた。

死傷者は増えるばかり、明るいニュースはひとつもない。
そんな中、米国民を熱狂させた1枚の写真があった。
それは、硫黄島の擂鉢山のてっぺんに
6名の兵士が星条旗を突き立てる写真だった。
この写真が新聞の一面を飾ることで、戦勝気分が盛りあがる。
これはカネになると考えた米国政府は、写真に写る兵士を探し出し、
戦時国債の販売キャンペーンのために帰国させる。

しかし、これは一種のヤラセで、
写真に写る光景は、実は2本目に立てられた旗。
擂鉢山を実際に攻略して立てた1本目の旗は別に存在した。
1本目を立てた直後、自分の部下たちが死ぬ思いで立てた旗が
どうせ政治家の家の壁を飾る運命にあると考えた上官が
取り替えさせたのが2本目だった。

2本目の星条旗を立てた者のうち、生き残っていた3名は
衛兵のジョン、伝令係のレイニー、
そして、ネイティブアメリカンの血を引くアイラ。
彼らは英雄としてもてはやされ、その後の人生が大きく変わる。

物語はジョンの息子が当時の関係者から聞き取る形で進みます。
凄絶な戦闘シーンと、同じ時間にあるとは思えないキャンペーンシーン。
グダグダと説明することなく、淡々と描くことによって、
逆に登場人物の心が伝わってきます。

毎度のことながら、イーストウッドの音楽も秀逸。
ジャズが大好きで、10年ほど前にはカーネギーホールで
仲良しのミュージシャンを集めてライブも開いたという彼。
そのときには本人もピアノを演奏したとのことですが、
本作で最後に流れるピアノの曲も本当に美しい。

これは第二弾も観に行かなければなりませぬ。

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『手紙』

2006年12月06日 | 映画(た行)
『手紙』
監督:生野慈朗
出演:山田孝之,玉山鉄二,沢尻エリカ,尾上寛之他

ロードショーにて。今年いちばん泣かされた作品です。
東野圭吾原作の映画は、『秘密』(1999)の小林薫然り、
たぶん、男ならではの感情の抑え方にボロ泣き。

武島直貴、20歳。川崎のリサイクル工場で働いている。
優等生だった直貴が大学進学をあきらめたのは
兄の剛志が強盗殺人を犯して服役中だから。

剛志と直貴は幼い頃に両親を亡くし、
兄弟ふたりで暮らしてきた。
直貴になんとか大学に行かせてやりたいと願う剛志は、
運送会社の激務に耐えるうち、腰を痛めてクビに。
直貴の進学資金に困って空き巣を狙い、
そこへ帰宅した老婦人を刺し殺してしまう。

それからというもの、直貴は加害者の弟として
どこへ行っても差別を受け続ける。
就職先を見つけても、必ず事件のことが噂になり、
嫌がらせを受けて同じ場所には居られなくなる。

やがて、直貴は人づきあいを避けるようになる。
何でも話せるのはお笑いコンビを組む親友の祐輔だけ。
直貴に想いを寄せる由美子にもつれなくするが、
同僚の倉田にとある話を聞かされてから
夢だったお笑い芸人に挑戦する決意をする。

手紙を書くことがめっきり減った今、
本作の主役はタイトル通り、「手紙」です。
手紙を送ることで生きながらえる人がいれば、
手紙を受け取ることで救われる人もいる、
逆に絶望の淵に追い込まれる人もいる。
手紙一通でこんなにも人の気持ちが左右されます。

刑務所から手紙を送り続ける剛志を演じる玉山鉄二は、
『逆境ナイン』(2005)のキワモノ役者と思えないほど
(それも大好きだったけど)、本当に素晴らしい。
その他の出番の少ない脇役陣の演技も優れもの。
特に被害者の息子役、吹越満の「終わりにしようと思った瞬間」は圧巻。
ケーズデンキの会長役、杉浦直樹の台詞にも引き込まれます。
「差別のない場所を探すんじゃない。君は“ここ”で生きていくんだ」。
また、由美子役の沢尻エリカの関西弁はヒドイですが、
彼女の行動と台詞には共感。
「手紙ってめちゃ大事やねんで。命みたいに大事なときがあるねんで」。

いたるところでダダ泣き、ラストはボロ泣き。
剛志の表情に小田和正の『言葉にできない』がかぶさると、もうダメ。
「あなたに会えて ほんとうに良かった
 嬉しくて嬉しくて 言葉にできない」。
ほとんど反則技ですが、参りました。

心は通じ合う。

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