逢坂剛の作品を初めて読んだ。この人の新しい作品「凶弾」を新聞で紹介してあって、図書館のホームページで検索すると、なんと86人が長い列を作っていた。これでは何ヶ月も先になるので、とりあえずこの「禿鷹狩り」を借り出した。
検索していてずらりと並ぶ著作の中に西部劇などに関するものもあり、逢坂剛はかなりアメリカン・ミステリーも読んでいるのではないかと推測した。それは間違いなかったと思う。
まず、登場人物を扉の裏に一覧してあり、中身も神宮警察署という現存しないがリアリティを持たせたネーミングで手抜かりがない。パチンコ店やクラブの名前も同様だった。決してJ署やB店などとはしていない。これがわたしには一番好感を持ったところだ。
ストーリー展開もテンポよく進み飽きることはなかった。この作品で主人公のハゲタカつまり神宮警察署生活安全特捜班刑事禿富鷹秋(とくとみ たかあき)の描き方が一風変わっている。本人の思考が描かれない。渋六というやくざの会社組織の常務水間英人や野田謙次に語らせ、禿富が突然電話してくるか、現れるという設定になっている。珍しいやり方だ。 水間や野田は、一般のサラリーマンのように、スーツにネクタイ、言葉遣いも丁寧。むしろ禿富や岩動寿満子(いするぎ すまこ) 警部の方がやくざのような言動だ。
特にこの岩動寿満子のやり方には虫唾が走る。最後は禿富や渋六連中と対決するが、身長170センチ肩幅の広い大女で力も強く並みの男では太刀打ちできない。読者に小憎らしい女と思わせれば作者の目論見が成功したいえる。この女をやっつける方法が一つある。男に自信があればの話だが、色仕掛けでベッドに組み伏せて、喘がせるしかないだろうなと読んでいて思ったものだ。
ラストシーンは凄惨なもので、禿富の生涯も終わる。二発の銃弾を受けて自らの死を悟った時、愛する人諸橋真利子(もろはし まりこ)の手によって息を引き取りたいという望みは、彼女の放つ銃弾によって報われる。禿富の目に恍惚の光が宿り満足して息を引き取った。まさにこの場面の展開は、暴力の美学そのものだった。
おまけに葬儀の日、喪主として現れたのはぞっとするほどの美女、妻の禿富司津子だった。それを知った真利子の心中は──余計な記述を省いて、読者に任されるという小憎らしさ。私もちょっとばかり涙ぐんだ。憎まれ口ばかり叩くハゲタカだが、読者からははみ出し刑事として支持されているのだろう。そして、この人の直木賞受賞作品「カディスの赤い星」を読み始めたところだ。